2.花壇グランプリ
「あのね、蓮さん。言っておくけど花壇グランプリは確かに大切な学校行事ですよ? ですが、部活も同じくらい大切です。後輩達にも……」
俺は翌日の昼休み、あまりにも部活に行かなすぎて顧問に職員室へと呼び出されてコッテリと指導された。まぁ、花壇グランプリの前から行っていなかったのに今更なんだよとも思ったが、致し方ない。だが、
「勉学や部活動だけではなく、学校行事も積極的に参加して盛り上げていくことが我が校の生徒です」
そんな風に学校は言っているが、そんなもんは建前だ。蓋を開ければ、顧問達は部活至上主義で学校行事なんてはっきり名言はしないが邪魔者扱い。そんな顧問に指導されているからか、生徒達も修学旅行や文化祭のような自分たちが楽しいと思うもの以外の煩雑な行事は面倒くさそうにしている。もはや、誰のためにやってるのかわからない形骸化されただけの学校行事がいくつもある。
「おい、蓮。なんかめちゃくちゃ嫌味言われてなかったか?」
「別に……」
「早いとこ幽霊部員から部員に戻れよな」
職員室から出た途端、卓球部の奴らに揶揄われる。幽霊部員だなんて言われ方はまぁ部員がついているだけ可愛い方だ。逆の立場なら、俺は迷わずこんなやつに"部員"だなんて肩書はつけたりしない。
どれくらいやる気がないのかというと、2年の1月にもなれば、全員が部着やユニフォームを買って練習に参加するが、俺は1年生と変わらず体育着に上履き。もはや新入生と格好だけ見れば遜色ない。
ため息混じりに教室に戻ると、ノートに何やら書いている千夏がいた。
「何してんの?」
「練習ノート。毎週顧問にさ、練習の課題とか出来たこととかを書いて提出するんだ」
「ふーん。面倒だね」
俺が気だるげにそう告げると、千夏は顔を少しあげて笑った。
「うん。みんなも適当に書いてる感じあるけど、一応出しとかないとね」
「まぁ、部活なんてそんなもんだよね」
俺自身も、毎週やってくる外部コーチに本当なら練習レポのようなものを出さなくてはいけいない。もちろん、俺は出したことがない。というより、コーチが俺のことを知っているかどうかも微妙なところだ。
そう考えると、俺とは立場が全然違うはずの千夏が放課後わざわざ花壇グランプリなんて手伝う必要はない。それなのに……
「おーい、蓮。バスケやるんだけどくる?」
そんなことを考えていると、後ろから良いように言えばよく通る、サッカー部のレオの声が飛んできた。
「あー、今行く。先行ってて」
「了解。早くこいよ。お前のへなちょこシュートみたいから」
「言っとくけど成功率お前より高いからなー」
レオは俺の声を聞くまでもなく、体育館へと走って行った。
昼休み、大抵俺はレオが集めたメンバー達とバスケをしている。俺自身は前に目立つ方ではないが、クラスで時々1軍達にいじられて、それほど悪くはないちょうどいいポジションに位置できている。辞書によっては、これでも"陽キャ"に含まれるかもしれないが、実際問題俺はそうでもない。だが、"陰キャ"とも思ってはいない。
「んじゃ、バスケ行ってくる」
「うん、行ってらっしゃーい」
ゆるりとした千夏の言葉を背に、俺は体育館へと向かって行った。
ーーーーー
それから数週間。放課後、千夏はあまり花壇へと来ることはなくなっていった。部活の大会も近づき、主力の千夏は顔を出している場合では無くなったのだろう。
俺は変わらずに、一人で花壇に水を撒き、雑草を抜き花壇グランプリへ向けて花壇を綺麗にしていた。
「ふぅ……」
だが、そんなに効率は上がらない。本来ならおしゃべりという時間が削がれて、作業に充てられる時間は増えているはずなのに。
「……部活、たまには顔出してくるかな」
俺はスコップを花壇に突き刺して、久しぶりに部活へと向かうのだった。
その後俺達は特に花壇に出向くことはなかったが、花壇グランプリは優勝した。他のクラスがあまりにもやる気がなかったため、圧倒的な勝利。俺と千夏、そして美化委員は黒板の前に立たされる。
「よくやった、すごいぞ」
校長の作った、手作りの賞状を渡しながら、担任がそれなりに褒めてくれた。なんとなく嬉しかった。サボりが目的だったとはいえ、やったことが多少なりと自分がやったことが評価されたような気がしたからだ。
「で、この賞状もすごいんだが……なんと、莉央が3000mで県2位になりました。拍手」
一瞬のうちに主役が美化委員から、莉央へと切り替わる。無理もない。学校の中の誰もやる気のない中での勝利と、全員が頂点を目指して鎬を削り合う勝利では天秤にかけるまでもなくあちらが主役に決まっている。
わかってはいる。そもそもやる気もなかった。でも、何もなかったかのように流されるのは癪だったし、何故俺たちはまだ席に返されていないのかが不思議でならない。
「ねぇー、やったね。花壇グランプリとれてさー」
横で千夏がゆるりと笑いかけてくる。
「まぁ、他のクラスやる気なかったしな」
「いやいや、やってたところで勝ってたと思う。めっちゃ頑張ったし」
千夏はなぜかテンションがいつもより高めに興奮している。こんな賞よりも、誇らしい賞なんてたくさん貰っているはずなのに。
「でも、なんか放課後サボる理由なくなったから蓮部活行かないといけないんじゃない?」
「あーやっと行ける。嬉しいなあー」
「絶対嘘じゃん……」
くだらない話で笑い合う。胸の中にあった澱のようなものなんて、いつのまにかどうでもよくなっていた。




