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10.二人で一人カラオケ

いよいよ、二人で一人カラオケに行く日がやってきた。いつも着ているようなグレーのパーカーで待ち合わせ場所のコンビニまで行く。




「あ、おはよう!蓮」

「おはよう千夏」


よく考えれば学校の外で会うのは初めてで、他人の私服を見ること自体がほとんどなかった俺は、千夏の着ている白っぽい服の名称もあまり知らない。


「じゃ、行こっか」

「うん、めっちゃ楽しみだったんだ〜」


明らかにいつもよりテンションの高めの千夏と、並び歩きカラオケへと向かう。


「高校の準備進んだ〜?」

「うんまぁ、カバンとかは買い替えた。そっちは」

「こっちはさ、もう学校から課題とか届いてて引いたよ〜」

「えっ、めんどくさいねそれ」


高校に受かっている俺たちは学校に向けての不安や、同じ高校に受かった同級生の話で盛り上がった。


「陸もそっちの高校だっけ?」

「あー……なんか落ちたって聞いたよ」

「マジ?」


クラスメイトとほとんど連絡なんてとっていない俺は同級生の合否の行方はほとんど知らない。一方で千夏は部活の仲間たちとメールのやり取りをしているようでそれなりに情報を持っている。


「蓮は部活はやるの? 高校」


半笑いで千夏が聞いてくる。明らかに答えがわかっている上で聞いているようだ。


「やるわけないだろ」

「だよね」


部活行かないノリは久しぶりだ。引退して以降、全員が同じ状態になれば、部活生と帰宅部の境界線は薄れて、塾に行く行かないの方へとグラデーションして行っていたからだ。


「ってか、カラオケ同級生とかいそうじゃない? 春休みだし」

「確かに〜。見られたら恥ずかしいかな?」

「今更感」

「あはは……」




そんなこんなでカラオケに到着した。

自動ドアを潜ると、モニターに映っている音楽チャンネルから最新の曲の音やらドリンクバーに来る学生の声やらですでに賑やかだった。



「いらっしゃいませ。お二人ですか?」


受付の男が聞いてくる。そりゃあ、話しながら二人で来ているのだからそう聞いてくるのは当たり前だ。


「いえ、1人ずつです」

「えっ? あーはい」


受付の男はすぐに切り替え、液晶で操作して部屋の空き状況を確認する。


「ただいま混み合ってまして、3時間パックのみのご案内になりますがよろしいですか?」


千夏と俺は無言で目を合わせて、なぜか口パクと身振りで会話する。


「はい、大丈夫です」

「では、案内しますね。お二人とも同じプランでご案内しますね」


文字に起こせば少々不思議な状況の俺たちは、受付からマイクとコップを受け取り部屋へと向かう。


「何号室?」

「私は13号室。蓮は?」

「俺は、7号室」


部屋番号の伝票を見ながら確認する。


「わかった。じゃあまた後でね〜」

「はいはい。一人気まずくなったら連絡して」

「了解! 歌のレパートリーが尽きたら部屋行くね」


小さく笑う千夏を見送り、部屋へと向かった。廊下は扉が閉まっているとはいえ多少の歌声は漏れ出て聞こえてくる。学生っぽい声が多いところからして、本当に同級生がたくさんいるだろうな。

正直同級生がいると面倒なこともある。いきなり部屋に入ってきて話してきたり、部屋交換して見ようのような訳の分からないノリを持ちかけられることがあるからだ。一刻も早く部屋に入らないと。



幸いなことに同級生に会うことなく部屋に入った俺は、音量の設定と全国採点の設定をする。音量は、うるさすぎても小さすぎても困る。全国採点を入れるのは、歌に自信があるわけではないが、順位が上がったり下がったりがゲーム感覚で面白いからだ。


「はい、完了」


ここまでの流れは慣れたものだった。そして、一曲目を入れる。自分の中では一曲目は必ずこれと決まりがあるので迷うこともない。


イントロが流れて曲名が表示される。今人気のアニメの曲だ。

俺のレパートリーは基本的にアニソン、そしてアイドルの2つ。曲目だけ見ればオタク驀地なラインナップ。だが、違う。しっかりと音楽チャートを抑えている俺は同級生と行く時は3曲に一回はそういう曲を混ぜて歌う。虫の抵抗程度のカムフラージュを普段のカラオケではしている。

その点、一人カラオケはいい。そんなことも考えなくてよく、何よりうろ覚えの曲でも入れて歌えなければ消せばいいからだ。


「よし、飲み物入れてくるか」



曲のアウトロで飲み物を入れるために部屋を出る。アウトロ+採点画面を合わせれば、ドリンクバーで多少並んでも時間は問題ない。採点を入れている目的はここにもあった。


俺は2杯目のメロンソーダを入れて部屋へと戻る。その時に少しだけ気になってわざと大回りをして千夏の部屋の前を通るルートを選んだ。一人カラオケが初めての千夏が多少なりと心配だった。


「〜〜♪」



13号室からは聞いたことあるような、ないような歌が千夏の歌声として聞こえてきた。しっかりと楽しんでいそうで何より。引率の教師のような気持ちになりながら部屋へと向かった。



「さてと、時間もないしどんどん歌うか」


部屋に戻った俺は、びっしりと並んだ予約曲リストを次々に歌い、消費していくのだった。

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