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12話 父の背中、息子の運命

少年は腹を立てていた。


「クソ!クソ!クソ!!」


少年は悪態を吐きながら、キッチンにある木箱をガシガシと蹴っている。


「クソが!!!!」


思い切り木箱を蹴飛ばした。ひっくり返って、中に入っていた芋がコロコロと転がった。


「ハア....ハア....。こんな屈辱、生まれて初めてだ....。」


肩で息をする少年は、アレン=ヴァルド。青色の瞳にブロンドの髪、いかにも身分の高い家の生まれだとわかる美少年だった。しかし今は、その整った顔立ちも綺麗なブランドの髪もくしゃくしゃに乱れている。


「あの魔法使いのガキ....レヴェラールといったか。必ず思い知らせてやる...。」


アレンは、生まれてこのかた自分の思い通りにならない事はほとんどなかった。欲しいものはなんでも買ってくれたし、村人たちはみんな自分に逆らわなかった。唯一剣の稽古だけはやりたくなかったが、父が許してくれなかった。

最近は、週に2回の稽古のストレスを発散するように、村の外れに住む魔物の混血の娘を痛めつけるのが楽しみだった。

しかし今日、その日常が壊された。初めて自分の言う通りにならない人間に出会った。しかもあり得ないことに、村人の前で失神するという醜態を晒され、無様に家まで引きずられてきたのだ。


偶然訪れていた、王都の騎士があいつを連れてきて尋問している。「僕にもあいつを拷問させてよ!」と父に頼んだが、「これ以上、私の顔に泥を塗るな馬鹿者!部屋で大人しくしておけ!」と一喝されてしまった。


今日1日でアレンは、何度もプライドを踏みにじられたので、その怒りは最高潮を迎えていた。今度は床に転がった芋を、ひとつひとつ踏み潰してやろうかと考えていたら、廊下から足音が聞こえてきた。


カッ、カッ、カッ....


足音が扉の前を通り過ぎたところで、ゆっくりとキッチンの扉を開け廊下をのぞいた。そこには、王都から来ている騎士が歩いていた。


(あの騎士だ。七騎士の1人だったな。あいつらは王都でふんぞり返っているだけの、ただのマスコットだと父上が言っていたな。尋問が終わったのか?多分、父の部屋に向かうところだ....)


ゼイバルトが廊下の角を曲がり見えなくなった所で、アレンは音を立てずに後をつけた。


階段を上がり、廊下をまた一つ曲がった所の扉の前で止まった。


コンコンコン。


「ヴァルド。私だ。」


奥からドタドタと音が聞こえて、扉が開いた。


「おお、尋問が終わったのですか?どうぞ、中へ。」


ゼイバルトが部屋へ入り、扉がバタンと閉じた。

アレンは、廊下の角をゆっくり飛び出し扉のそばで聞き耳を立てた。


「それで、何か吐きましたか?」


「父親からは特に聞き出せなかった。明日また、引き続き尋問をする。」


「そうですか...。ガキの方は?」


「....これといった情報は持っていなかったが、強力な魔法を扱えるようだ。」


「ほう、あんな子供に。一体どんな?」


「私の雷が防がれた。」


「なんですと!?ゼイバルト様のA級魔石をですか!?」


「どうやったかは分からない。とにかく、議会はあの子供を"危険"だと判断した。」


「議会が.....という事は....」


「明朝、あの子供を処刑する。罪状は、"未登録魔法使いによる魔法行使"だ。」


「.....承知致しました。それにしても、随分と早い連絡ですな。どうやって、王都と連絡を?」


「それは、極秘だ。書類の作成と、処刑の準備は任せる。」


「ははっ。」


カッカッカッ


足音が扉に近づくのを感じて、アレンは慌てて廊下の陰に隠れた。ゼイバルトは部屋から出てきて、そそくさと行ってしまった。


(処刑!はっ!処刑だ!!ざまぁみろ、あのガキ!この僕に逆らうからこうなるんだ!!最後に顔を拝んでいってやろう。ククク。)


アレンは、軽い足取りで牢屋へと向かった。




俺は、ゼイバルトとの尋問を終えて牢屋に戻った。セレオンが心配そうに尋問の様子を聞いてきた。呼吸を整え、あった事を一つずつ説明した。


「そうか....本当に無事でよかった。危険な目に合わせてすまない。でも一体どうやって雷を防いだんだ?」


俺はドキッとして、説明に迷ったがこの状況で隠し事は危険だし、セレオンより信頼できる人間は他にいない。正直に話すことにした。


「雷はより落ちやすいものに落ちるという性質があるから、それを利用したんだ。水を蒸気に変えて、分散させたんだよ。」


セレオンは驚いた様子だったが、深くは聞いてこなかった。ニコリと笑って、頭をくしゃくしゃと撫でた。


「さすがは俺の子だ。頼もしいことこの上ないな。」


やっぱり、面と向かって褒められるのは恥ずかしかった。


「しかし、あの騎士に目をつけられてしまったな。今後も監視がついて回るかもしれない。」


「でも、明日には帰れるんでしょ?」


「ああ、でも今後村へ行くときや、逆に村から誰かがウチへ来るときなんかは、監視がつくかもしれないってことだ。とりあえず、明日は帰れるはずだ。」


セレオンは俺を、安心させるように説明してくれた。


牢屋は思ったよりも寒かった。寒そうにしていると、セレオンはローブを広げ俺を中に入れた。

暖かい。

セレオンは優しく俺の頭を撫でた。


「レヴァはやっぱり母さんそっくりだな。髪も黒いし、目元におんなじホクロがある。」


セレオンと2人きりで過ごす夜は、何気に初めてかもしれない。ふと気になった事を聞いてみた。


「父さんはどうやって母さんと出会ったの?」


「ん?ああ、そういえば話した事は無かったか...。母さんが子供の頃、うちに預けられた時期があったんだよ。」


「うち?」


「ああ。俺の実家だ。マギアスの家。母さんは、元々普通の家の出身なんだよ。」


「え!?でも、魔法使いは魔法使いの家にしか生まれないんじゃないの!?」


「基本的にはそうだ。でも稀に、普通の家にも魔力を宿した子供が生まれることがあるんだ。理由はよく分かってない。」


初耳だ。ルーナが魔法使いの家系じゃないなんて。


「レヴァは覚えてないかもしれないけど、魔法使いの子供は一歳を迎えると儀式をするんだ。それで、アニルギアを認識できるようになる。そして、魔法が使えるようになる。」


「うん、本で読んだよ。」

本当は、鮮明に覚えてる。あの訳のわからない料理のことも。


「こんなご時世に魔法使いが魔法を勉強するのは、魔法の扱いを覚えて魔力が暴走するのを防ぐ意味もあるんだ。」


「暴走するとどうなるの?」


「ほとんどの場合、高熱にうなされる。魔力が強いほどその傾向が強くなるんだ。放っておけば死んでしまう。でもそんな事は、普通の家は知る由もないだろ?大抵の場合、5、6歳で原因不明の熱が出て、最後に魔法使いに泣きついてくるんだ。」


「母さんもそうだったの?」


「ああ。ルーナはかなり危ない状況だったよ。ただでさえ彼女は魔力が強いからね。俺が10歳の時、父がルーナを家に連れてきて、急いで儀式をやったのさ。」


「そうだったんだ...」


「なんとか儀式が間に合って、そのまま数年間魔法の基礎を学んでいくのが通例だ。儀式だけじゃ不十分だからね。」


「そこで、父さんは仲良くなったんだ?」


「ま、まぁ...そんなとこだ。」


セレオンは少し照れくさそうに話した。

こんな状況になって、今更こんなこと話すなんて....

もっと、早く色々聞けばよかったな。


「早く、母さんのところへ帰ろう。きっと心配してる。」

セレオンはそう言って、また俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「そうだね。明日は、できるだけ早く帰らなきゃ。」

俺はそう返事をした。


「ククク...」


階段の方から声がした。子供の声だ。


「随分と楽観主義なんだな、お前ら。」


階段から降りてきたのは、昼間ティナを虐めていた少年、アレンだった。


アイツ....


腹の底がフツフツと熱くなるのを感じた。

俺は、セレオンのローブから飛び出し、鉄格子の前へ踏み出した。

アレンは一瞬、「ヒッ!」と声を上げた。俺が牢屋越しである事を再確認して、アレンはニヤリと笑った。


「何しにきたんだ?」


俺はアレンに投げかけた。


「い、いや大した用事じゃないさ。僕に刃向かった奴がどんな顔をしてるか見に来てやったのさ。」


アレンがそういうと、セレオンが立ち上がりアレンに近づいた。


「直接話すのは初めてかな?初めまして、アレン君。セレオン=マギアスです。昼は息子が少しやり過ぎたようで。」


「"やり過ぎた"だと?ふざけるな!一体どんな教育をしているんだ!お陰で耳が聞こえなくなるところだった!」


「これは失礼。なにぶん実験好きな息子で、なんでも試したがるもんで。ただ.....」


ニコニコと話していたセレオンの雰囲気が一瞬で変わった。寒気を感じた。


「....ただ、罪のない女の子を痛めつけるようには教育してないので。ご安心ください。」


セレオンは低く、腹に響く声でアレンにそう言った。


アレンは思わず、2、3歩後退りした。


「お、お前の顔を見るのもこれで最後だろうからな。今は何を言っても、聞き流してやろう。」


「は?どういう事だ。」


俺は、少し様子がおかしいと思った。

こいつの性格なら、こんな事言われて黙っているはずがない。たった二度会っただけだが、それだけは確信した。


「いいさ、特別に教えてやろう。」


アレンは、ふんぞり帰って両手を組んだ。


「お前は、明日処刑されるんだ。僕に逆らった報いとしてな。」


俺は、一瞬理解できなかった。

頭が真っ白になっている俺の後ろから、セレオンが急に飛び出し、鉄格子から手を伸ばした。

その手は真っ直ぐにアレンの胸元へ伸びて、服を引っ掴んだ。


「おい、それは本当か。嘘なら今すぐそういうんだ。」


アレンはまさかセレオンに手を出されるとは思っていなかったようで、すっかり縮み上がっていた。


「答えろ。それは、本当なのか。」


セレオンは今までに見た事ない気迫で、アレンに迫った。


「ほ、本当だ!さっき、王都の騎士と父上が話しているのを聞いたんだ!!」


セレオンは、その言葉を聞いて固まってしまった。

アレンは、自分の胸ぐらを固く掴む手を必死で振り解き、勢いで尻餅をついた。


「へん!!あまりのショックに固まりやがったな!せいぜい息子との最後の夜を楽しむんだな!そして、二度と僕に逆らうな!!」


アレンは捨て台詞を吐き、走って階段を登って行った。


数秒間、沈黙が続いた。


「考えが甘かった。魔法を使ったとはいえ、子供の喧嘩だとたかを括っていた。リベリオンの情報は出していないし....。」


セレオンは何やらブツブツと呟き始めた。


「と、父さん。俺、処刑されるの?」


「あの騎士が、処刑なんて判断するとは思えない。だとすると....議会の指示か!でも、一体どうやって支持を受けた?何か、特別な連絡手段を持っているのか?

いや....今はそんな事はいい....。」


セレオンはまだブツブツと喋っている。


「父さん.....お、俺.....」


セレオンは、急に俺の方を向きがっしりと腕を掴んだ。


「レヴァ。いいか、今から父さんの言う事をよく聞くんだ。」


俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「ここから脱出する。」


セレオンの言葉を聞いた途端、静まり返った牢屋に、俺の鼓動だけがやけに大きく響いた。

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