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11話 冷たい殺意

一日に三度もこの道を通るとは思わなかった。


俺は今、セレオンと共に騎士に連れられて村へ向かっている。

いや、連行されていると言うべきか。


先頭を進むゼイバルトが馬を止めた。

「道が暗い...ヴァルド。貴様が前で灯りをつけろ。私が後ろに行く。」


「はっ!」


ゼイバルトとレグノスが位置を入れ替わった。

レグノスは鞘から剣を抜き、上に向けた。


「むん!」


レグノスが力を込めると、赤い宝石がキラリと輝いた。次の瞬間、刀身を炎が纏い周囲を照らした。

そのまま、レグノスは剣を松明の代わりにして馬を進めた。


「レヴァ。あれが魔石の力だ。魔法使いでなくても限定的な魔法を行使できる。魔石を使った道具の総称を"魔導具"というんだ。」


あれが、魔石。本当に騎士が魔法を使えるのか。


「どんな仕組みなの?」


「俺も詳しくは知らない。ただ、魔法使いのように体力を消耗することはない。無限ではないけれど、魔力も滅多に底を尽きない。あれを研究できるのは、アルケラードの一族だけさ。」


アルケラード....。魔法使いの名家の一つか。


「おい、無駄口を叩くな。次に口を開いたら、後ろから斬りつける。」


後ろから聞こえたゼイバルトの言葉は、相変わらず冷たく、冗談を言っているようには聞こえなかった。


それから、ティナ達の家の前を通りがかった。家は灯りが消えていた。もう二人は眠っているのだろう。


無言の緊張感が続き、しばらくして村が見えて来た。

村の門を通り抜け、広場を通り石造りの高い屋根の建物に着いた。


レグノスが馬から降り、門を叩いた。


「私だ!門を開けろ!」


目の前の大きな門が開くと思いきや、その横の小さい扉が開き一人の兵士が出てきて敬礼をした。


「お帰りなさいませ、レグノス様。」


「うむ。重要参考人を連れて来た。地下牢と尋問室を用意しろ。」


兵士はレグノスに命じられると、駆け足で門の中へ入っていった。


「進め。」


後ろから、冷たくゼイバルトが言った。

それに従い俺とセレオンは門をくぐった。


屋敷へ入り、一番近くの階段を降りて地下牢へ連れて来られた。そこには兵士が二人立っていた。兵士の一人が牢の扉を開き、俺を牢へ押し込んだ。


「セレオン=マギアス。まずは貴様から尋問する。着いてこい。」


「わかりました。レヴァ少し待っていてくれ。」

セレオンは俺に微笑みかけ、ゼイバルトの後ろに着き階段を登っていった。姿が見えなくなると、兵士は牢の扉を閉め鍵をかけた。


「こんなガキが、例の騒ぎを起こしたのか?」

兵士の一人が、もう一人と話し始めた。


「ああ、アレン様が言うにはそうらしい。アレン様はかなり取り乱していたからな。何が本当か分からんが、七騎士様が直々に取り調べしてるってことはそうなんだろ。それよりも、王国に歯向かう反抗勢力のことの方が心配だ。」


「あの魔法使いがそうだって言うのか?仮にそうだとしても、騎士に太刀打ちなんて出来ないだろ。」


「ゼイバルト様は、七騎士の中で最も冷酷で国に忠実だって噂だ。念には念をってことなんだろ。」


反抗勢力?家でもそんな話してたな。セレオンの話が本当なら、好き勝手やってる騎士に反抗する奴らが出て来てもおかしくないか。

でも、騎士に恨みがあるやつなんて魔法使い以外にいるのか?それに、この国にどれくらい魔法使いが残っているのかも分からない。歴史から考えるとかなり減ってしまってると思うが....





セレオンが連れられて30分ほど経った。

階段を降りてくる足音。セレオンとゼイバルトが戻って来た。二人に特段変わった様子はない。


「父さん。大丈夫だった?」


「ああ、この様子なら明日の朝には帰るよ。」


少しホッとした。特にお咎めなしなのだろうか。


「次は子供だ。来い。」


ゼイバルトが言った。

緊張が走る。


「レヴァ。何も隠す必要はないよ。正直に話すんだ。」


セレオンが頭をポンと叩き、俺を励ました。


「わかった。」


ゼイバルトの後ろに着き階段を上がった。上がってすぐのところに扉があった。ゼイバルトは扉を開き、「入れ」と促した。


中には石レンガで囲まれた殺風景な部屋。中央にテーブルと椅子が二つ置いてあるだけだった。


「座れ。」


ゼイバルトが椅子に腰掛け、その正面に座った。

面と向かって見ると、余計に機械みたいな人だと思った。


「それでは尋問を始める。」


「はい。」


何も隠さなくていいと言われたが、何も隠すことはできないと感じさせる迫力があった。


「貴様は、いつから魔法が使える?」


「え...と......一歳と聞きました。母から。」


「物心つく前から、魔法を使ったのか?」


「は、はい。そうみたいです。」


「魔法はどこまで使える?」


「えと、よく分かりませんが、初級魔法は一通り。」


「ヴァルドの息子に使った魔法も初級魔法か?」


「まぁ、簡単なものを組み合わせたもので....」


「初級魔法に爆発が起こるような魔法は無いはずだ。」

ゼイバルトはひたすらに淡々と質問を投げかけた。

その間、メモを取ったりする事はなく真っ直ぐに俺の目を見つめていた。


「お前の父から、魔法以外の事は教わった事はあるか?」


魔法に関する質問ばかり続いていたのが、急に変わった。あまりに唐突に話題が変わったので、少し言葉に詰まってしまった。


「あ、いいえ、特には...。そもそも、父は俺が魔法を覚える事には積極的ではなかったので。今日、魔法使いと騎士の歴史について教えてもらいました。」


「どんな内容だ?」


「魔法使いがその昔、権力を振りかざし民衆に圧政を強いていたのを、騎士が魔石を使って革命を起こしたと....。」


「それだけか?」


一瞬、セレオンの"夢"の話がよぎった。

「いつか、魔法使いと騎士が肩を並べて暮らせる日が来るのが夢だ」

しかし、セレオンの夢の話をしても仕方がないと思い、

「それだけです。」

と答えた。


「昼間の騒動の時は、その歴史については知らなかったのか?」


「は、はい。お恥ずかしながら...。」


その言葉の後、ゼイバルトは数秒間俺の目を無言で見つめていた。彼の冷たい瞳で見つめられら時間は、とても長く感じた。


「やはり、見せろ。」


「え?」


「村で使った魔法がどうしても気になる。ここで見せろ。」


急になんだよ。アレンにやった水素爆発をやってみせろって事か?あれは、一歩間違えれば大事故になっていた。しかし、やらない訳にもいかないか。


「わかりました。念の為、少し離れてください。」


ゼイバルトは椅子から立ちあがり、2、3歩後ろに下がった。

俺は両手の人差し指を立て、右手に炎、左手に水素をイメージした。


火球フラマ。変換。」


指先に小さな火をつくり、目には見えないが水素を作り出した。

そしてゆっくり、両方の指を近づける......


ポンッ!


高い音を立てて、爆発が起きた。

指先からは、少しの水蒸気が立ち上った。


「......ふざけているのか?村人から聞いたものと違うぞ。」


「爆発の規模を小さくしたんです。原理は同じです。」


「信用できない。もう一度、村でやったようにやってみせろ。」


「すみません、できません。」


「......何故だ?」


「あの魔法は、扱いがとても難しいんです。村でやった時はたまたまうまくいったけど、一歩間違えれば怪我人を出すかもしれないものでした。そんなものをここでやる訳にはいきません。」


そうだ、水素爆発は周囲の環境によって水素と酸素の結びつきがうまくいかないことも多い。つまり、不確定要素が多すぎる。あの時、怪我人が出なかったのはほとんど奇跡だ。


「構わん、やれ。」


「ダメです。できません。」


「......そうか。」


ゼイバルトはそういうと、腰の剣に手をかけ引き抜いた。

俺は、驚いて椅子から落ちた。


「では、無理矢理にでもやらせる。」


ゼイバルトから初めて"感情"というものを感じた。しかしそれは、殺気だった。

はじめて人から殺意を向けられた。

俺は、動けなかった。ただこちらに向けられた、剣先を見つめていた。


「どうした、さあやってみせろ。」


ゼイバルトは剣を構え直した。すると、鍔に嵌められた黄色の魔石が輝いた。


バチチチチ!!!


ゼイバルトの剣は、激しい音を立てて電気を帯びた。


「今から10数えたあと、貴様に雷を落とす。死にたくなければ、さっさとやるんだ。」


雷!?いやいや、こんなのやばいだろ!一体何ボルト出てるんだ!?とにかくこのままじゃやばい!

何か防ぐ方法...

水素爆発は、最悪俺の体も吹っ飛ぶ可能性があるからどっち道自殺行為だ。とにかく電気を俺以外のものに流すんだ。


「10...9...8....」


周囲を見渡したが、金属らしきものは見当たらなかった。


「6...5...4...」


やばいやばいやばい!金属はない、あと電気を通すものといえば....水!


水球ヴォーダ!」


右手を前に出し、直径10センチほどの水を作り出した。


待てよ...この水、俺が持ってたらヤバくないか!?


「3...2...」


とにかく、あの雷を俺に届かなくすればいいんだ!

電気を分散......

そうだ!!


発熱イグニス!!」


水球が、プシュー!と音を立て水蒸気を作り出した。


「!?」

ゼイバルトは驚いた様子だった。

俺は、力を振り絞り蒸気が届かない部屋の隅へと転がった。


部屋に立ち上る蒸気がバチバチと電気を帯びていた。


しばらくして蒸気が消え、ゼイバルトはその場に立ちつくし、俺を真っ直ぐに見ていた。


電気はただの空気より抵抗が少ない水蒸気のほうが流れやすい。水蒸気を剣の周りに発生させて、強制的に電気を発散させた。思いつきだけど、上手く行って良かった。


「これはなんだ。」


「え?」


「ただの煙幕では、私の雷からは逃れられない。私は確かに貴様を狙ったぞ。」


「いや...あの....」


俺は動揺していた。初めて他人から命を狙われたのだ。ゼイバルトは確かに本気だった。


「もういい。牢に戻れ。」


そういうとゼイバルトは、部屋から出ていった。


俺は立ち上がろうとしたが、足に力が入らなかった。

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