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勇者の魔女~輪廻の旅の果てに復讐に染まった少女は……  作者: ただの小林
【序章】再起~魔女の里と精霊王
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5 精霊の祠、最奥へ

「ほれ、見えてきたぞ。あれが妾たちの目的地である精霊の祠じゃ」


 魔女の里を出てしばらく歩き続けた。

 一時間も経っていないだろう。長い道のりではあったが三人の会話が盛り上がったこともあり時間経過の割には体感はそこまで長く感じられなかった。

 途中に森林があり、そこを抜けた先にあったのが洞窟で、その最奥にあるのが精霊の祠だと言う。


「身構える必要などないぞ。祠の性質上洞窟内は魔力が充満しておるが魔獣など一匹たりともいない」

「精霊特有の神聖な力が働いているからだよね?」

「よく知っておるのぉクオン、その通りじゃ。おかげでこちらに警備を割く必要がなくて助かるがなぁ」

「でも魔獣は何とかできても賊とかはどう対処しているの?」


 アサガオの話だと魔獣にしか対応していないようにも見える。

 だが、アサガオはチッチッチッと指を振って答える。


「他の場所は知らぬがこの祠に関しては心配無用じゃ。この森林には特殊な力が働いておってな、悪しき気配が立ち入った際にはここまで辿り着けない仕組みになっておるのじゃ」

「それも精霊の力?」

「いや、妾の力じゃ」


 アサガオの力によるものだった。


「と言っても妾の力は半分だけ。もう半分はこの祠を守護する精霊の力じゃよ」


 アサガオが魔女の里の長になった直後のこと。

 数百年前とは言え当時でも十分すぎるほどの祠の守りだったが、サクラが感じた疑問を長に就任した直後のアサガオも同じことを感じていた。

 そこでアサガオは精霊の祠に出向き、自身の長就任の報告と同時にアサガオが考える祠の守りについても祠を守護する精霊と話し合った。

 結果、アサガオと精霊の両者の魔法の合わせ技で、祠を覆う森林に特殊な力を付与した……これが森林に現在も発動している特殊な力――悪しき気配が森林に立ち入ったら洞窟まで辿り着くことができないという仕組みというわけだ。


「仮にそれでも突破された場合はゴンゾウたちや妾がおる。そう簡単には落とさせんよ」

「まあ、あの人の雰囲気からしてもそうだしおばあちゃんが負けるってあまり想像できないかも」

「サクラだったら突破できるんじゃない?」

「やらないよ。面倒くさいし、祠を落とす理由もないし」

「ほれ、物騒な方に話を持っていくではない。この話はこれでしまいじゃ。行くぞサクラ、クオン――」



 


 洞窟内は魔法による簡素な灯りによって想像より暗くはなかった。

 それでも外よりは暗いので足元に気を付けなければ体勢を崩しかねない。

 アサガオが事前に行っていた通り魔獣の気配はない……と言うより生命の気配が感じられない。

 

「コウモリとかネズミとかいそうなのにそういった小動物すらいないんだね」

「そうじゃな。だがここまでいないのも珍しいのかもしれぬな。ガンゾウ曰く他の祠というより祠に続く洞窟には魔獣はいなくともお主の言う小動物は数多くはないがそれなりにいた。それは雨宿りだったりがっつり住処にしているなどだな……」

()、だからだろうね。人間はあまり感じられないだろうけど小さい子たちにとっては精霊の祠から漂う魔力というものはどこか安心できるらしいんだよ……私が最たる例だよ、ほら――」


 そう言うとクオンの体が瞬時に煙に包まれると、すぐにその煙が晴れサクラにとっても見慣れた姿が現れた。


「……白猫の姿(・・・・)に戻れるんだ」

「ニャー!」


 サクラの問いに答えるようにクオンは元気に鳴く。

 猫の声帯と人間の声帯が違うこともあるのでさすがに人間体と違って話すことが出来ないのだろう……サクラもアサガオもそう思っていたのだが――。


≪――猫の姿でも会話は可能だよ!≫


 突如会話が聞こえてきた。

 いや、聞こえてきたというよりは二人の脳に直接語り掛けているといった方が正しい。


「ふむ……念話じゃの」

「……念話?」

≪アサガオの言う通り、猫のままだと話すことが出来なくても念話がその問題を解決してくれるってわけ≫

「……それさ、僕と出会った当初から出来たわけだよね?」

≪そうだよ~≫

「……最初からそうしてればコミュニケーションに苦労しなかったんじゃないの?」


 今までサクラはクオンのことを完全にただの猫だと思っていた。

 長年家族として一緒に過ごしていたこともあったので会話が出来なくてもある程度クオンが考えていることはわかっていた。

 しかし、最初から念話が出来たとならば話は別だ。本当だったらサクラの言う通りコミュニケーションが取りやすく、辺に苦労することもなかったはずだ。


≪それこそ猫であることに当時は意味があったんだから仕方ないでしょ≫


 クオンはそのままサクラの肩へと飛び乗り、そのまま胸元へと潜り込む。


≪はぁ~やっぱりここは落ち着くよ~≫

「まったく……でもまあクオンの言う通りか」

「お主らの出会いの詳しい事情は妾には分らぬが、クオンにとっては念話での対話が出来ぬ状況だったのではないのか?」

「結果論ではあるけどまあその通りだろうね。クオンが僕の前に現れたのも偶然ではない。それも含めて今度クオン自身が話してくれるでしょ」

「……信頼しておるのだな。いや、長年共にしておるからの信頼じゃな」

≪……ありがと、サクラ。それはそうと眠くなってきたから少し寝るね……≫


 そのままクオンは眠りにつく。

 安心しきったのか、余程リラックスできる環境だからなのか、気持ちよさそうな寝息を立てている。


「おい……ってそう言えばここの魔力って小動物にとって安心できるんだっけ」

「ここに限らずじゃがな。じゃが、それだけではない。結構張りつめておったからのぉ」

「?」

「本人はそう言った素振りを見せてはおらぬかったが、サクラが目覚めるまではそれはもう妾らが心配になるくらいにはお主を介抱しておったぞ」

「……そうなんだ」


 サクラは眠りにつくクオンの頭を優しく撫でる。


「……ありがと。クオン……」





 それからしばらく進んでいく。

 やはり魔獣等が出現することなくただひたすらと静かな空間。


「……見えてきたぞ。あれが精霊の祠の入り口じゃ」


 開けた空間の先に見えるのが巨大な閉ざされた門。

 門に描かれているのは独特な雰囲気を感じさせる紋章。

 この先にアサガオの言う精霊の祠がある。

 門の前に立つと、アサガオに反応するかのように門が輝きを放つ。

 地鳴りのような音を立てながら門はゆっくりと開かれる。


「ほれ、行くぞ」

「アサガオが鍵なの?」

「別に妾が鍵というわけではない。一応妾が来たら反応するようにはなっておるな。まあ、目的がその奥地というのもあるな。祠が目的でなかったらこの門も全くと言っていいほど反応せん」

「そうなんだ」

「そういうもんじゃ……行くぞい」


 二人は門をくぐり精霊の祠に足を踏み入れる。


「――!?」

「ふふ、お主もさすがに驚くか。お主に限らずここに立ち入ったものは皆同様の反応をするものじゃ」


 祠に足を踏み入れた瞬間、洞窟内に漂う魔力よりさらに濃い魔力を感じる。

 これほどまでの魔力の濃さは人によっては気分を悪くする可能性も……魔力を持たない人間は魔力中毒になりかねない。

 いや、魔力を持っていたとしても同じかもしれない。それほどまでに魔力が濃いのだ。


「あまりの魔力の濃さに膝を地につきかけるものもおったりするのじゃが……やはりお主は相当な魔女というわけじゃな」

「びっくりはしたけどね。さすがにここまでとは思わなかったけど……」

「漏れないようにするためのあの門というわけじゃが、漏れたところでその濃度はすぐに薄まるから何ら問題はないがのぉ。ただ安心するがよい、最奥にたどり着いたところでこれ以上魔力濃度が濃くなることはない。祠全体が同じ魔力の濃さとなっておるからの」

「安心って……まあとにかく行こうよ。別につらいとかそういうわけじゃないし」

「うむ、行くとしようか」


 予想外のことがありはしたが、二人はそのまま最奥を目指す。

 辿り着いた先には少し開けた空間で、その中心には石材で作られたであろう小さな社が存在する。

 ここが洞窟の最奥であり、精霊の祠と呼ばれる場所でもあった。

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