4 精霊の祠へ
アサガオの家にを後にして、サクラとクオンはアサガオの案内の元に精霊の祠へと向かう。
改めて初めて魔女の里の風景を見たサクラなのだが……。
「里って言うくらいだから結構田舎みたいな感じだと思ってた。なんかエリアスの町みたい」
エリアスはサクラの旅の最初の仲間であるメニシアの故郷の町であり、場所も含めて全体的に田舎の様な雰囲気はあったがそこまで田舎過ぎているという感じではなかった。田舎にある都市みたい感じだろう。それでも五大都市と比べたら田舎と変わらないだろうが……。
そんなエリアスと比べると魔女の里はさらに都市感が減っている。最低限のインフラが整っており、住民もそれなりにいる。発展途上とまではいかないがそれなりに活気づいている。
「隠れ里とはいえ別に外と交流していない訳じゃない。まあ、そもそも隠れ里と言うても昔の話にすぎんくて里の誰もここを隠れ里だと思っておらんじゃろ」
「名前がカッコいいからそのまま名乗ってやるか……的な?」
「うむ、そんな感じじゃ……それにしてもサクラよ、何か聞きたそうな顔をしておるが……」
サクラにはずっと、あの会話の時から一つの疑問があった。
いつ聞こうかとも考えていたが、本人から会話のパスを受け取ったのでありがたく聞くことにする。
「さっきおばあちゃん、里の守護者になってから里から出られなくなったとか言ってたよね? その祠の場所って里の外なんでしょ? だとしたらおばあちゃんは外に出られるのかなって」
確かにアサガオは里から出られないということを会話の中でそう言っていた。
話の通りだとしたらアサガオは里の外に出られず、外にある精霊の祠に向かうことが出来ないことになるが……。
「ああ説明不足だったのぉ。里の外というより里が保持する領土内から出ることが出来ないという訳じゃ。精霊の祠はその領土内にあるので安心して行くことが出来るのじゃよ~」
「ふーん……ちなみに外に出られないのは里の守護者だから?」
「その通りじゃ。魔女の里には意思が存在する……里を危険から守る為に守護者に選ばれたものはその意思から里を確実に守護する力を授ける。その代償に選ばれたものの本来の力の一部を制限、そして里が定めた領土より外に出ることを原則禁じられた……それが今の妾という訳じゃよ」
「アサガオが長になってから相当経つよね? 一度も出たいとは思わなかったの?」
「うーん、最初こそあったかもしれぬ……じゃが次第にあまり思わなくなったのぉ。今でもそうじゃが思いの外苦ではなくてな。それに全く出られない訳じゃない。もちろん条件など色々あるが定期的に外には出ていた。一つ例に挙げると帝国じゃの。あそこの姫さんとは贔屓にさせて貰っとる」
本人の顔を見ても噓偽りのない表情だ。
これまでの会話からアサガオの性格的に嫌であったら当の昔に隠居生活でも送っているだろう。
アサガオという存在をある程度知り得た頃には既に里の入り口に到着していた。
「これからしばらく歩くぞ。一応定期的に対処しておるが道中に獣がうろついておるかもしれぬ。お主たちに言うのもあれだが、気を引き締めておくのじゃぞ――」
里の入り口には出入りする人を監視する守衛が立っていた。
「おばば、どこか行くのか?」
「こ奴らを祠に連れて行くところじゃ」
「おお、お前らか! 白髪っ子は何度か話してるけど黒髪っ子はようやく起きたのか! いや~あの時はビビったぞ――」
遠くからでは分かりづらかったが、近くで見ると目の前の男は思いの外大きい……。
聞くところによると、目の前の守衛――ゴンゾウが入り口の見張りを任された日、その背後に強烈な光が発生。振り返ると既にサクラとクオンが倒れており、そのまま里の者を呼び出しつつ二人を保護した。
クオンがすぐに目を覚ましたということもあり何度か話したこともあるらしい。
ちなみにゴンゾウは五人兄弟の末っ子で、兄弟全員が魔女の里の守衛を務めている。
「こ奴も含めて長男以外はそれなりに図体がデカくてなぁ、それでいて強い! 頼りになるのじゃ!」
「誉めてくれてありがてぇけどあんまそのことを兄ちゃんに言うんじゃねぇぞー。まーた怒るから」
「言わぬ言わぬ……妾もあれを怒らせるのはもう懲り懲りなのじゃ」
どうやら長男は他四人の弟とは見た目が違うようだが……。
「……強いんだ」
「何じゃ? 気になるのか?」
「別に、戦うつもりとかはないけど……確かに話し方の雰囲気に反して全然気を抜いていないというか隙が全然見当たらない」
「それはこっちのセリフだぜ黒髪っ子。油断したら殺されるんじゃねえかと思っちまう」
「安心して、僕も無差別に殺するようなことはしないから」
そう言ってはいるがどこか戦いたそうな表情をしている。
「だがどうじゃゴンゾウよ、サクラの力というものは……」
「兄ちゃんといい勝負するんじゃねぇか? 黒髪っ子が強いのは全然伝わるんだが俺ぁ兄ちゃんが負けるところを全然想像が出来んぞ」
「それは妾も同じじゃがのぉ――」
この二人がここまで言う長男坊……それほどまでに強いのだろうが
「その人はいないの?」
「あ奴は帝都のほうに仕事で行っておる。当分帰ってはこないじゃろうからお主が帝都に行くのであるのなら遭遇するやもしれぬがな」
「……帝都? ずっと思ってたんだけど帝国と何が違うの?」
先ほどアサガオは”帝国”と口にしていたが、今回は帝都と口にしていた。
サクラは火大陸自体過去に訪れたことはある。
しかし、その土地柄や地理には全くと言っていいほど興味がなかったので、訪れた当時は帝国と帝都の違いに違和感を持ち合わせたものの、そこまで気にしていなかった。
「帝都っちゅうのは帝国の中心にある都市……つまりは首都ってことさ――」
帝国は帝都を含めた五つの都市と中小規模の町や村等で構成された大国を指す。
その規模は火大陸の六割を占めている。
火大陸は水大陸と風大陸の二つの大陸の総称であるはじまりの超大陸の二つ分以上の広さを誇っておる世界最大の大陸であり、その六割を占めている帝国の規模ははじまりの超大陸一つ分と、世界最大の国というのは伊達ではない。
「……そういえば前にもそんなこと聞いたような」
「火大陸に初めて上陸したときに船員さんが言ってたよ。この都市は帝国のほんの一部に過ぎないって」
「よく覚えてるねクオン」
「記憶力はそれなりにあるほうだからね!」
鼻高々にエッヘンと自慢げに語るクオン。
それを見たアサガオはカッカッカッと思いの外笑っていた。
「まあ、妾も分かりづらくして悪かったと思う。さすがにクオンもいるだろうから間違えることはないじゃろうが帝都のことを言っておらなかったら別の都市に行っておったかもしれぬなぁ」
「さすがに僕が……いや分からないや」
「だがおぬしらは前回帝都には行ってはおらぬのだな?」
「行ったのは海南都市と少し先の小さな村までかな? 別に帝国自体に用があるわけではなかったし」
海南都市とは、帝国の五つの巨大都市のひとつ『海南都市セプティニア』のことであり、五大都市の中で唯一海に面した巨大な港都市であり、唯一はじまりの超大陸と繋がる都市でもある。
はじまりの超大陸から来る人、またははじまりの超大陸に行く人は必ずと言っていいほど海南都市セプティニアに訪れる。
サクラたちも海南都市セプティニアから火大陸に上陸した。
当時サクラが訪れたときは、師匠との修行の日々を終えて旅に出た直後のことだ。
師匠はサクラの旅の目的を知っていたので、それをもとにサクラに助言をしてそれにサクラが従った形となり、そのまま火大陸へと向かった。
今思えばサクラにとってある意味とんでもない出来事に巻き込まれてほんの少しだけ師匠のことを恨んでいたのだが、それはまた別の話――。
「ほんで、おばばは黒髪っ子たちを帝都に行かせる前に祠に連れて行くというわけか」
「そうじゃ、こ奴のぽてんしゃるが高いからのぉ。精霊と契約させたらより高みを目指せるってわけじゃよ」
「おぉ! 黒髪っ子なら何の問題もないな! ま、頑張ってくるんだぞ~」
思いの外盛り上がった会話を終わらせて、ゴンゾウに別れを告げてサクラたちは精霊の祠へと向かった――。




