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勇者の魔女~輪廻の旅の果てに復讐に染まった少女は……  作者: ただの小林
【序章】再起~魔女の里と精霊王
2/6

2 里長と母親

 目の前にいるサクラよりも年下な見た目をしている少女が、サクラが今いる魔女の里の長にして数百年の時を生きる魔女だった。

 驚きを隠せていないサクラだが無理もない。

 今までサクラが出会った魔女は若いが年相応という感じであり、目の前の里長アサガオのような数百年の時を生きた魔女とは面識がなかった。

 天使であるサワンマイラや、エルフのフウカが数百年生きて若く見えるのは、そもそも年の取り方や肌の変化が人間族と違うからだ。

 魔女――魔法使いは魔力が流れ、それを道具を介さずとも使用できる特別な存在とはいえ、魔法や魔術を使えない普通の人とそこまで大差ない。

 数百年生きていたらとてもじゃないが……。


「――もっとよぼよぼとした老いぼればばぁを想像したか? ハハハッ! 無理もない。本来(・・)だったらお主の想像通りの見た目じゃっただろう。ではサクラ、お主は魔法使いが人によって普通の人間族より長寿であることは知っておるか?」

「まあ、一応。魔力の使い方や流れが一般のそれとは違うから……あっ」

「気づいたようじゃな……いわゆる『天才』と呼ばれる魔法使いは魔力の流れ、質等が他と違う。それゆえに他の者たちと比べて長寿という訳じゃ……妾も『天才』の部類に入っておるぞ」

「何となくなわかってるけど……でもそれって肌や見た目とかの若さも関係しているの?」

「いーや、妾の場合はただの若作りじゃ」


 若作りであった。


「と言っても妾が若作りをしなくとも、見た目はそれなりに若い方じゃぞ? それも、三桁の単位で生きている魔法使いにしてはじゃが……それこそ、お主の母親で(・・・・・・)あるマヤ(・・・・)も本来なら妾並みの長寿の道を辿っていたはずじゃ……」

「そうなんだ……は? 母親って……マヤって……」


 まさかこの場所でその名前を聞くとは思いもしなかった。

 そして、さらにサクラを驚愕させる発言をアサガオは口にする。


「マヤはこの魔女の里の生まれで……妾がマヤの育ての親なのじゃ」

「……」


 開いた口が塞がらない。

 ここがサクラの母親であるマヤの生まれ故郷であるなんて……しかも目の前の里長アサガオがマヤの育ての親……つまりは――。


「僕の……おばあちゃんってこと?」

「まあ、そうなるのぉ」

「いや~私もそれを聞いた時驚いたよ~」


 両手を頭の後ろに組みながらどこか楽しそうにクオンが反応する。


「……何か元々知ってそうな言い方なんだけど」

「いやいや、本当に知らなかったんだって。マヤが魔法使いだから何となく魔女の里か魔法に関係した土地で育ったのかなぁとかは思っていたけど、流石に長が育ての親とは思わなんだ」

「……」


 サクラはクオンに懐疑的な目を向ける。

 言葉の一つ一つの雰囲気から何か隠しているような感じがするからだ。


「……別に、クオンが話したくないんだったら無理に聞かないよ」

「……いや、隠すことでもないし、サクラにだったら全部話してもいい。でも、もう少し待って……その時が来たら必ず話すからさ」

「ん、わかった……で、お母さんがこの里で、あなたが育ての親ということについてだけど……」

「特別なことはないさ。マヤの親はマヤが幼くして二人とも亡くなった。だから妾が親代わりになってマヤを育てたという訳じゃ。あれは素晴らしい素質を持った娘じゃった。幼子の頃から才能を開花しておって流石の妾も驚きっぱなしじゃよ。それを可能にしたのが類稀なる魔力量の多さ。それはサクラ、お主にもしっかりと受け継がれておる」


 サクラの魔力量は相当なもので、魔術学校に在籍し、モネとネロの祖父でもあるエルドラルも驚愕していた。

 彼はサクラが歴代の魔法使いの中で最も魔力量の多いと見立てている。

 先のマヤとの――破壊の魔女との戦いにおいても彼女の魔力の多さというのは存分に味わった。


「しかも当時のマヤよりも圧倒的に多い。現役の者や過去の者も含めてのぉ……」

「それは他の人もそう言ってた……やっぱり僕の魔力量って多いんだね」

「マヤの血だけではない。多分じゃが勇者の血も流れているからその相乗効果で魔力の量も相当なものになったのじゃろ」

「……そのことも知ってるか……クオンが話してたって言ってたし……じゃあ僕とクオンが何でここにいるのかということも……」

「ああ、知っておるぞ……馬鹿者が」


 やはりあのこともクオンから聞かされていたようだ。

 だが、言い方的に最後のピースが埋まったかのような、そう言った反応を見せた。


「おばあちゃんはお母さんのこと、どこまで知ってたの?」

「……そうじゃのぉ……妾は里の守護者となってから里から出ることが(・・・・・・・・)出来なくなった(・・・・・・・)が、その代わりに多くの者の魔力を世界規模で感じることが出来るようになった……一人一人明確にじゃ……流石に会ったこともない者のことは知らんがのぉ。そんで、マヤの事をどこまでかというのは、十年前を最後に……じゃ」


 十年前というと、マヤがサクラの生まれ育った村を滅ぼした時期。

 友達を、父を殺されてサクラが復讐の道に進むきっかけとなった時期。


マヤとしての(・・・・・・)魔力(・・)は……十年前を最後に途切れ、それが妾が知っている最後のマヤの情報という訳じゃ。その後は先も申したがクオンから色々と聞いた……今思えば、前兆はあった」

「前兆?」

「ああ。クオンにも申したが、マヤの魔力に違和感を感じた時があった。それは妾がマヤの魔力を最後に確認した十年前よりさらに五年前……そうじゃの、クオンの話から思うに多分だがお主が生まれる少し前だと思うぞ」


 サクラが生まれる前にあったという違和感と前兆……おそらくマヤが魔王マーラと取引をし、それに合意したことを指しているのだろう。

 その結果、サクラが無事に生まれ、数年後にあの悪夢が発生した訳だが……。


「マヤの魔力が途切れた時、さすがに心配が勝ったもんじゃからすぐにその途切れた場所へ制限付き(・・・・)とはいえ向かったわい……結果はお主の方が良くわかってるじゃろうに」

「……そうだね。それで僕は復讐の道を進むことになった……ただまあ、先の戦いで真に復讐すべき相手がお母さんではなかったというのは驚くけどね」

「魔王か……まさかあ奴が復活するとはの……」

「おばあちゃんも知ってるんだ、魔王マーラのこと」

「直接は知らん……が、妾の娘が対峙したのじゃ。知らぬという方が無理がある。それに戦後処理じゃないが色々と妾も一応関わっておるしな」


 勇者一行と魔王との戦いの後、一定の者たちが集い話し合いが行われた。

 その結果、一部の者を除き世界中の人々から魔王に関する記憶を操作するという決断が下された。

 それだけ魔王マーラが残した爪痕が重大過ぎたのだ。

 本来記憶操作というものは身体に物凄く負荷がかかるもので、使用することは基本的に許されていない。

 使用例としては心を病んでしまった人への処置等が挙げられるが、それでも軽く記憶を操作するという処置程度で基本的には自分自身で解決できるようにするために使用される言わば補助の様な役割を記憶操作は担っている。

 しかし、世界中の……それも魔王マーラという存在の記憶を無かったことにするなどと言うのは前代未聞ことであり、記憶を操作された者の身体的負担というのは相当なものになる。

 そうならないために魔女の里の長であるアサガオが派遣された。

 アサガオを含めた複数の魔法使いの力を結集し、記憶操作による身体の負担を極限まで軽減させた。

 曰く、軽減を通り越してそもそも本当に身体に負担などあったのかと疑問が出るほどのものだったらしい。

 これらがあって結果、世界から魔王が世界に深い傷を残したという記憶が消えた。


「あの時は本当に大変であったわい。複数人従えてやったのに妾も含めた全員の魔力がすっからかん……正直二度とやりたくないのぉ……と、言いたいところじゃが――」

「嫌に反して魔王は復活した……そもそも魔王は倒されてすらいなかった」

「そこじゃ! 妾もあ奴らが魔王を倒したのだとばかり思っておった。……そこんところはどうなんじゃ、クオン(・・・)よ――」


 アサガオの目線はクオンに移った。

 何故クオンにその質問をぶつけたのか。

 そもそも今のクオンの人間体を含めてサクラもクオンの正体について全く知らない。

 ただの白猫として、家族としてここまでずっと一緒にいた。

 今までのサクラだったらすぐにでも問いただしていたと思うが、現在唯一の家族であり、先程のクオンの発言を尊重して今すぐに聞くという気持ちは特にない。

 アサガオはクオンの正体についてある程度の心当たりがあるようだが……。


「うーん半分半分かな~。私も魔王はあの時点で倒れたとばかり思っていた」

「それが半分ならもう半分は?」

全部揃っていない(・・・・・・・・)のによく魔王を(・・・・・・・)倒せたな(・・・・)というのが半分かな……あ、神器の事ね」


 サワンからそのような話を少しだけ聞いたことがある。

 勇者一行の人数は知らないが神器の数は聖剣と腕輪と他一つの計三つだったらしい。

 天上大陸で大天使ジャルダルクは、サクラたちは全ての神器が揃っていると言っており、魔王城において当時勇者一行の一員であったサワンも同じく言っていた。

 その結果、魔王城における破壊の魔女戦において勝利を収めたが、その後に復活した魔王マーラとの戦いは実質的敗北を喫した。


「魔王マーラの復活は誰もが想定外だったよ。完全に彼の気配は消えていたからね。でも彼の方が一枚上手だったわけだ。執念というか復讐というかまあ凄いもんだよまったく――」


 クオンにも魔王が完全に倒されなかった理由はわからない。

 それどころか自身が既に死んでいると思わせるほどに気配を殺して身を隠していた。


「……ねえクオン。お父さんたちと違って今回僕たちは神器を全て揃えてあの戦いに臨んだ。消耗があったとはいえ今の僕たちだとマーラを倒すことは出来ない?」


 サクラの復讐は、真の意味で魔王マーラを倒さないと終わらないだろう。

 だが、サクラたちは敗れた。

 では消耗が無かったら……しかし、その点がサクラを疑問の渦に陥れる。


「正直わからない。マヤたちが戦った時のマーラだったら――うん! 勝てるよ! ――って言えるんだけど。今回のマーラ明らかに呪いの強さが増していた。多分マヤの中に身を隠している時に力を蓄えていたんだろうけど。ただ……」

「ただ?」

「私は今のサクラが弱いと思っていない。それこそ今のマーラ相手に十分に渡り合えるくらいにはね。ただ何か物足りない感じがするんだよ……勘みたいなもんだから具体的には言えないけど」

「物足りないって……一体何が――」


 クオンの言う通りサクラの実力は高い。

 冒険者ギルドに所属する最高ランクにして最強クラスのSランク冒険者よりもだ。

 現に水の都ファルカスに所属するSランク冒険者を互いに勘違いだったとはいえ、そのSランク冒険者を相手に一方的に叩きのめした。

 その実力は冒険者ギルドに広まるくらいには……。

 ただクオンが言う”何か物足りない”というのは当のサクラ本人もピンとは来ていないが、話を聞いていたアサガオは心当たりがあるような表情をしていた。


「妾だったらその物足りないというその何かが、わかるかもしれんぞ――」

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