その1.異世界はすぐそばに
今日は本当に最悪な日だった。
今俺は何をしているかというと、
果てなく墜落している。
時間もないのでありのままの言葉にすると
会社では新入りがやらかしたことをせっかくかばって残業しているというのにやつは勝手に定時帰宅しちゃったり、コンビニでは残業の時に食べようとした大好物のお弁当がちょうど俺の目の前で売切れたり、帰り道に女の子が橋から飛び込むところを見つけちゃったり、なんとかして救っていたら心肺蘇生法してるところを変態扱いされ警察を呼ばれたりとか。
よく覚えていないけどそんな遠くないところに警察署があったはずだ。まもなく警察が来るはずだ。こんな最悪な日なんて、もうやめだ。もう何もかも飽きてしまった。
眩しい明かりが段々近づいてくる。落ちていくこの瞬間をなんだかんだ延ばすつもりだったものの、ここまでのようだ。・・・死ぬならトラックがいいな。
あ、もうガチで終わりみたいだ。まぶしすぎる。最後になんて言おう。あ、そう。俺はアイアンマー
──────
《次の……どうぞ……》
「……? うん……何だ……?」
鋭い機械音が耳を刺してくる。
《次のお方。どうぞ、お入りください。》
目を覚めると、川に落ちたその瞬間のびしょ濡れた姿のままソファーに横たわっていた。そして明るくて暖かな照明の下に受付カウンター。
そして─。
《次のお方。どうぞ、お入りください。》
その向こう側に事務室のような扉があった。他の人の気配はない。誰でも良い、直ちにこの扉の向こうへ来いと手招きしているような圧を感じた。俺は知らぬ間にカウンターを越え扉の前に立っていた。
《……どうぞ、お入りください。》
背中を走る不気味さを嚙みしめ扉を開けるとー
「やぁ。」
小さな事務室の中には糸目の男がこっちを見ていた。彼は組んでいた手を開いて薄ら笑いを浮かべた。
「座って♡」
「うわっ!」
背後から一瞬にして椅子が飛び出して俺の体は前に連れ去られた。いきなり膝かっくんされたように嫌な気持ちになったけど、相手の方はこっちのことはまったく気にせずに書類束を出しまくっていた。
「あの......」
彼は机の下から書類の束を何冊も何冊も重ねて、その上にパフェの最上段のチェリーを乗せるようペンを置いて愛おしい目でながめていた。
「そうそう、君、名前は?」
「あの、いきなりどういうー」
指が鋭く唇を刺してきた。
「君。質問に質問で返さないでもらいたい。いいね?」
「……はい。」
「うんうん♡」
なんかなんか嫌だな、この人……
「で、君の名前は?」
「榊、榊一人です。」
そしてペンは荒く動き始めた。
「榊、榊一人くん……ふーん、な~んかピンとこないんだよね♡」
いきなり何言ってるんだろう。この人は。
「君ね、死んだよ?」
「え?」
そして一瞬の沈黙。
「あー♡ごめんごめん♡こういうのって確か、順番とか大事だっけな?良い奴と悪い奴どっちから聞く?」
「いや、もう悪いやつポロっと出たんじゃないですか?!」
「あ、じゃ悪いやつ二つ。」
マジで嫌だわ、この人。でもそっか。俺やっぱり死んだんだ。知っていたけど改めて聞くと少しショックが走る。人ってこんなにあっけなく死んじゃうのか。背中に冷や汗を感じた。
「君ね、異世界に行くことになったのよ♡」
「え?!」
「おや?もしかしてただ消えちゃう方がよかったかな?」
「いやいやいや!異世界って……あの異世界ですか?!」
「あの異世界以外何があるっていうのよ♡」
「ラノベあるあるのそういう?!」
「そう!」
「チートとかそういう感じの?!」
「そう!!」
「可愛くて俺一途のヒロインてんこ盛りのハーレムとかそういう?!」
「あ、それは君次第♡」
そして彼は再び手を組んでニヤリと笑う。
「そしてこれから良いやつだが……」
え?今のが……悪いやつ?
「どうしたのかい?」
「あ、いいえ。いいやつで結構です。」
なんか深入りしたら絶対めんどくさくなるやつだ……地雷なんて踏まないようにしよう、うん。
「その転生のことだが、実は色々手続きが必要でね?」
そして横に置いていた書類束を指す。
「それがこの書類のことですか?」
「ありがたいことに、この僕が全部済ませてくれたわけ♡感謝しても構わんぞ?」
「そんなどうでもいいことをいいやつだとか……え、まって。」
一瞬不気味な感で書類の束をめくったら色んなところに自分の名前と自分が残していない文字が書かれていた。途中、俺はとある書類に目が行った。
「なにこれ、<異世界基礎個人情報一覧>?」
そこには自分の名前やら種族やら過去の話とかやらが適当に書かれていた。本当に適当に、しかもそこに書かれていた自分の名前はー
「ギルガメッシュ……?」
「かっこいいでしょ♡」
「いきなり人の名前を勝手にギルガメッシュにしないでくださいよ!」
「えー?」
「えー?じゃないですよ!」
「でも、せっかくの転生の前にこんなくだらない書類なんて見たくもないかなーと思って♡」
「個人情報でしょ?!」
「ゆーて、君もうこの書類に異議無しだと名前を書いちゃったもんね♡」
「俺が書いてないですよ!」
「まぁまぁ、そんなこと言わないの♡」
そして一瞬彼の目が光った。いや、光ったと思えば青色に輝く瞳が見えた。目の奥の揺らめきが見えるほど綺麗な青だった。彼の声は一瞬で空気中を圧倒するよう静かになった。
「よかったら、後ろの本棚から灰色の本を取ってくれないか?」
「本棚?」
手を伸ばした先にすぐ何かが触れた。パッと見て高級品に見える洋装に見えるが薄い埃がなんだかの時代間を表していた。榊に少し疑問が浮かんだ。
「あれ?こんな近くに本棚があったっけ?ここって確か扉がー」
と後ろに振り向いた瞬間糸目の彼が机ごと榊を蹴り飛ばした。
そしてそのまま後ろに沈没し始めた。
「うおおあああ!!なんだなんだ!何が起きてるんだ!」
榊が一生懸命机を握ってみても共に沈没するだけだった。そして沈んでゆく彼らを糸目の男が眺めていた。
「見てないで助けてよ!」
「神話っていつもこう始まるものだよ♡」
「ここから出たらあんたをぶん殴るからな!」
体を裏に曲げてまで高笑いしていた彼は手を降った。
「5分後に会おうね♡」
榊一人はそうやって沈没した。
波の水泡
幕間を表す海中の青さと
闇が走る海底
そして迫ってくる黒い煙の中で
榊は気を失った。
7歳の夢深き少女のリリーは食事を前にして混乱としていた。いいものは多くて損はないと言ったけどこれはまた別の問題だった。まだ幼い夢魔であったリリーにとって夢の中に引きずられるのは最大限一人だった。でもリリーの目の前にいるのは二人。これは明らかにー
「さすがリリーちゃん!もう二人も夢落ちできるってことね!」
あ、そうきますか。
日本語に不慣れですがよろしくお願いいたします。
最初が色々時間も手間もかかりましたが、風船みたいにこれからはスピード上げれるかなと思います。
非定期的に上がってきますけどよろしくお願いいたします。
改善のアイデアや批判はいつでもありがとうございます。