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 その日の昼は二人なのにもかかわらず静かだった。

 付き合ったからどう、なんてのは、事前の関係性が浅すぎて何もない。食べさせ合いっこだとか、食後のイチャイチャタイムだとか、当然そんなものはない。ただ淡々と食事を済ませ、二人で屋上の心地よい風を感じながら時間を潰す。

 そんな静寂を破ったのは、結衣でも陽菜乃でもなく、一組のカップルだった。


「お、ようやく誰ももいなくなったんじゃね?」

「いつもなんかいたからねー。ラッキー。って、気が早いよぉ」

「どうせその気で屋上行こうとか言ってんだろ?」


 そんな声が聞こえてきて、結衣は急いで陽菜乃と隠れる。必死に息を殺して、嬌声と水音を聞いていないふりをしながら、じっと息をひそめる。

 行為が終わると、将来の話だのなんだの、そんなことを話ながらカップルは去っていった。完全に屋上からいなくなったことを確認して、陽菜乃が口を開く。


「……結衣ってさ、あたしにあーいういのとか、求めないよね」

「まあ、女同士だし」

「それにさ、あたしとつるんでたら地位が上がるとか、そういうのも考えてないよね」

「はなから空気みたいなもんだし、気にしてないね」

「だからさ、その、あたしの事フラットに見てくれるじゃん。ギャルだからどうとか、可愛いからどうとか、そういうのなしに」

「そうだね。まあ、見た目はいいなーって思うけど、だからって変な事考えたりはしてないよ」

「あれ、あたしの見た目いいって思ってくれてたんだ」

「うん。私も髪もっと派手にしてみたいなーとか思ってたし、ピアスも可愛いなって。それに、メイクも可愛い」

「……そう、なんだ」


 可愛い、なんて男子からも女子からも言われ慣れているだろうに、なぜだか陽菜乃は頬を赤く染める。


「言い方悪いけどさ……そういうスタンスだから、結衣に人避けになってほしいの」

「人避けねぇ。まあ陽菜乃、色々大変そうだもんね。いいよ」

「ありがとう。で、何すればいいの?」

「すっごいありきたりだけどさ、これからあたしとめっちゃ仲良くしてほしいの。それこそ、彼女みたいに」

「ようは牽制すればいいわけ?」

「うん。私の地位的に結構な重責かもだけど……」

「いいよ。面倒ごとは正直慣れてるから。じゃあ、さっそく手でも繋いで教室戻る?」


 結衣がそう言い陽菜乃の手を取ると、彼女は顔を真っ赤に染めた。意外と初心らしい。

 というか、普通に女子と手を繋いだり腕を組んだりしていた気がするが、あれとはわけが違うのだろうか?

 そんな疑問を抱きつつも、少し強引に陽菜乃の手を引いて教室に戻る。


「お、なんか珍しい組み合わせで戻って来たな。てか、昨日から急激に仲良くなったな」

「まあ、ね。色々あったから」

「何がったのかめっちゃ気になるんだけど」

「それはまだ秘密」

「ますます気になるな」


 急に付き合うことになりました、なんて結衣から言うと何があるか分からないので、まずは様子見として手を繋いだまま康太と話す。


「ま、倉橋くんがゲーム布教したからだよ」

「あれか? 小原もやったんだ」

「まあ買ってはいたしね」

「やっぱ本家やってたら買うか」


 気のせいだろうか、康太が陽菜乃に何か目配せをしたような気がした。


「なんにせよ、陽菜乃にいい友達ができたみたいでよかったよ」


 康太は妹に接するかのようにそう言う。友達は多い方だと思っていたが、康太の言ういい友達というのはいなかったのだろう。


「いい友達……になれたんならよかった」

「友達?」

「あ、ああ、いや……」


 艶めかしい目つきで、陽菜乃は顔を覗き込んでくる。彼女は、予想以上に面倒くさいタイプかもしれない。


「ふふっ、冗談。そうだ康太、あんた課題のお礼してないんじゃない?」

「あー、そうだな。じゃあ今日の放課後行くか」

「あたしも付いてくー」


 そんなわけで放課後、結衣は陽菜乃と康太と共に学校近くの喫茶店に足を運んだ。

 付いて行きたいというクラスメイトもいたが、それは康太が断ったので、今日は三人でだ。


「何気珍しい面子になったねー」

「確かに、小原が一緒に来ると気って言ったら大抵皆で遊びに行く時だもんな」

「そういえば結衣って交友広いけど自分から誘ってんの見たことないよねー」

「一人でいるのが結構好きだからね。あ、もちろん人といるのが嫌いってわけじゃないけど」


 結衣としては昔から親が遅く一人でいることに慣れているので、大抵一人でやりたいことをやっているのだ。


「逆にさ、積極的にいかない理由とかってあるのか?」

「んー、強いて言うなら誘う理由がないからかな」

「カラオケとかゲーセンとか、皆で行きたくなんないの?」

「あんまならないかも。誘われたら行きたいなーとは思うけど」

「そっか。じゃあ誘ったら来てくれるんだ」

「まあ、誘われたら行くよ」


 そう答えると、陽菜乃の表情がいつもより少し明るくなる。本当に友達として――彼女として嬉しいのだろうか。あまり興味を持っていなかったが、確かにこうしてみると男子から人気になるのも頷ける。しかし、そういう興味の持たれ方はあまり好きではないのだろう。


「じゃあさ、明日、一緒に出掛けない? 変な口実でアレだけどさ、なんか明日告白されるっぽいから」

「全然、口実にしてくれていいよ。で、どこ行くの?」

「んー、ゆーても放課後だし……あ、家来てよ! ついでにご飯作ってあげるよ!」

「ほんと? じゃあ、お言葉に甘えて。ふふっ、今日は倉橋くんの奢りで、明日は陽菜乃の手料理か。楽しみだな」

「よーし、じゃあいつも以上に張り切って作ってあげちゃうよー!」


 一人で本を読んでいるのも楽しいが、陽菜乃とこうして関わり出してから、少しだけ楽しみが増えた気がした。


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2人の関係がどんどん仲良くなっていて助かります!
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