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 対戦が終わった頃にはちょうどいい時間になっており、陽菜乃が夕飯の支度を始めた。

 慣れた手つきでやっている辺り、普段から割と料理はするのだろう。聞いてみると、どうやら弁当は毎日自分で作っているらしい。


「家庭的ギャルだ……」

「そう? 結衣は……そっか、いっつも売店行ってるもんね。じゃあ親いない日の夕飯どうしてんの?」

「お金だけは渡してくれるから、出前とかかな」

「それでそのスタイル維持してんの⁉」

「まあ、運動とかはしてるから。それにジャンクなものはあんまり頼まないしね」

「あーね。で、どんくらい手作りご飯食べてないん?」

「三日くらい?」

「そっかー。じゃ、あたしの美味しい手料理を存分に堪能しなー」


 漫画やライトノベルでしか見ないような家庭的ギャルに感動すら覚え、久々に感じた愛情に似たものに心を躍らせる。

 今までたいして仲が良かったわけではないのに急になぜだろうという疑問は残りながらも、ワクワクしながら夕飯が出来るのを待った。

 いつものように小説を読んでいると、陽菜乃が「出来たよー」と夕飯を運んできた。で前とは違う、出来立ての家庭料理特有のいい香りが鼻腔をくすぐる。基本自炊しない人間としては、これだけで感動ものだ。


 肉じゃがに鮭、漬物に味噌汁と米といった和食で、どれも作り慣れているのだろう、香織は勿論見た目もとても美味しそうに見える。

「わぁ、美味しそう……。いただきます」

「いただきまーす」

 早速肉じゃがを口に運ぶ。正直、親が作ったご飯よりも美味しかった。たまたまなのだろうが、味の好みもマッチしている。最近は食事なんて生活における必要な作業の一つ程度にしか思っていなかったが、どんどん端が進む。


「くすっ、美味しそうに食べてくれるね」

「私の好みの味付けだし、ほんと、すごい美味しいから……それに、ちゃんとした手料理とか久々だし」

「暇な時、作ってあげよっか?」

「それは流石に、申し訳ないというか……」

「あたしほら、一人暮らしじゃん? だからさ、誰かと一緒のほうがいいし」

「それ、私でいいの?」

「むしろ、結衣が一番いいかな」


 そんなことを、微笑みながら陽菜乃は言う。ある程度の好意を抱かれているのだろうが、理由が全くわからない。それが逆に怖いが、実質一人暮らし状態の結衣には嬉しい提案だった。


  ◇◆◇


 翌日、結衣が学校に行くと、陽菜乃が結衣の席に座って隣の康太と話していた。二人が話していると、やはり付き合っているような雰囲気が溢れ出しているが、違うのだろう。

 結衣が来たことに気が付いた陽菜乃は席を立ち、康太の横に立つ。


「おっはー、結衣」

「おはよう、陽菜乃。倉橋くんも」

「ああ、おはよう。そういえば昨日、陽菜乃とゲームしてたんだって?」

「そうだね。誘われたから久々にやったよ。そんでご飯作ってもらった」

「陽菜乃の手料理か。いいな」

「美味しかったよ。味付けも私の好みな感じだったし」

「え、なになに、陽菜乃ちゃんって料理も上手いの? 私も食べてみたいなー」

「御蔵の手料理かぁ……いいなぁ、俺も食ってみてー」


 流石は陽菜乃の影響力か、近くの席で朝から話していた人たちが好き好きにそう言う。それに対し陽菜乃は少し冷めたような声音で「あんたらには作んないからねー」と返す。


「じゃあお弁当一口交換しようよー」

「だからやだってー。あたし気に入った人としかそういうのしたくないのー」

「え、なに、じゃあ小原さんの事気に行ってたの⁉」

「んー、それはちょっと違うというか、なんでだろね」

「あんま仲いい感じしなかったけど、なんか意外」


 こうして、結衣は空気になっていく。完全に話題の中心が陽菜乃になり、そして会話の主導権がクラスメイト達に移ったので、結衣は素直に本を開く。こうやって会話に入らないから深い付き合いが出来ないのだろう。自覚はしているが、大勢と話すのは疲れるのだ。



 昼休み、いつも通り売店に行こうとすると、陽菜乃に呼び止められた。


「結衣、ちょっとまって」

「ん、どうしたの?」

「昨日の課題のお礼にお弁当作って来たんだけど」

「え、ほんと? 夕飯まで作ってもらったのに……ありがとう」

「せっかくだし、一緒に食べようよ」

「うん。私のいつもの場所でいい?」

「もち、それでいいよ」

「じゃ、急いで行こ。付いてこられたら嫌だし」


 大勢は好きではないので、いつもの場所――屋上に走る。

 本来は立ち入り禁止なのだが、管理が甘く出入りができるので、よく昼休みに浸かっているのだ。

 屋上はさほど人気スポットというわけでもないので、現状ほぼ結衣の専用スペースであり、踊り場にはレジャーシートやクッションが置いてある。


「抱くようにクッション二つ置いといてよかった。陽菜乃、これ使って」

「ありがとー。てか、よく堂々と私物置けるね。あ、もしかして授業に出てない時ここいた感じ?」

「まあね。屋上、気持ちいいんだよね。そういう陽菜乃は私と違って真面目に授業出てるよね」

「成績維持するの条件に一人暮らししてるからさ」

「そういえば、一人暮らしって言ってたね」

「覚えてたんだ」

「まあ、毎日近くで会話聞いてるから」

「あはは、そうだよね。うるさいかな?」

「別に、気にしてないよ」

「……結衣、あたしに興味ない?」


 突然、陽菜乃は真面目なトーンでそんなことを聞いてきた。

 興味がないかと言われれば、まったくないわけではない。派手な髪色やピアス、たまに付き合いで遊びに行くときのおしゃれなんかには興味がある。しかし、恋愛がどうだとか、関わっていればカーストがどうだとか、そんな事には興味がない。


「まあ、程々かな」

「そっか……。ねえ結衣、あたしの彼女になってよ」


 さらに突然の提案に、結衣の思考は停止する。

 昨日の事といい、なぜ突然ぐいぐい来て、しかも告白されたのか――長考した末に、


「いいよ」


 結衣はほぼ反射的に、そう答えた。

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