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バーを出て地下鉄で一駅。10分ほど歩くと僕の住むワンルームマンションがある。比較的静かなエリアだけど、夜に速度を上げて走る車の音はそれなりに響く。


マンションの入り口の自動ドアを開けて、エレベーターで8階に昇る。自分の部屋によどむ生ぬるい空気が、かえって心地よかった。クーラーが効いたバーにいたから体が冷えていた。大して汗は出ていなかったが、そのまま服を脱いでシャワーを浴びた。


風呂を出た時には11時40分を過ぎていた。冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出しかけ、思い直してペットボトルの炭酸水を取り出した。キャップをひねり、一息に半分ほど飲み干す。喉元を通る炭酸の刺激が、少し高ぶっていた気持ちを冷やしてくれた。


マスターが僕のピアノが売り上げに貢献していると言った時、最初はいつもの軽口だろうと思っていたから、僕の演奏目当ての客が実際に何人かいると知った時は驚いた。垢抜けない(多分「清潔感」なども持ち合わせていない)若者の、決して上手くはない演奏だ。それを目的に来るとは。どうやら「ピアノを弾ける」キャラクターに幻想を抱いている人が、一定数いるのだと思う。社会人になると、楽器を弾けることがプラスイメージになるのは不思議なことだ。


中学生くらいまでは、ピアノを弾ける男子よりも足の速い男子の方がよほどモテる。そもそもピアノが弾けることがモテ属性ではない。もともとモテる人間がピアノを弾けばちやほやされるだろうが、モブキャラがピアノを弾いたところでただの背景、BGMだ。あるいは中学生くらいまでだと、ピアノを習っている人が珍しくはない、そんな理由もあるかもしれない。


大学生になっても、ピアノを弾けるからモテる、などということはない。実際のところ、大学で趣味をピアノや楽器をやっているクラスタには「変人」の割合が多い気がする。


変人。


「楽器を趣味にする人にはコミュ障が多い」のだろうか。

どうもそんな気はしてしまう。


一口に「コミュ障」といってももいろいろあるが(特定の話題でめっちゃ早口、キャッチボールが苦手、無口。など)、他人との穏当なコミュニケーションをじっくり維持メンテ出来ない、とざっくり言えるだろう。


会社の営業の人たちと話をすることがある。自信満々で押しが強かったり、あるいは逆に控えめで自信なさそうだったり、能弁だったり無口だったりと、さまざまだ。皆が言葉のキャッチボールが上手いわけではない。でも、少なくともコミュニケーションを全く苦にしないので感心してしまう。


なぜ楽器を弾くとコミュ障になるのか。考えてみれば不思議なことだ。多分、音に囚われすぎて、オカシクなってしまったのだろうか。


物理的には音なんて空気の振動に過ぎない。

声もバイオリンもトランペットもピアノも、全て空気の振動を生み出しているだけだ。

でも、才能がある人は音を使って直接人の脳に語りかけたり、心に触れたりできる。


音で語りたい。音で伝えたい。なんて思って頑張ってるうちに、人はコミュ障になるのかもしれない。


そんなことを思いながら、窓を少し開けて眠りにつく。

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