プールの底の人魚達
進藤春香は、深海の如く深いプールの奥底へ、ゆっくりと沈んでいく。
どうしてこうなったのか……。
親の仕事の都合で田舎町の中学に転校してきた春香は、なかなかクラスに馴染めない日々を送っていた。
そんな時、『この学校のプールから夜〇時になると、奇妙な歌が聞こえる』という怪談じみた噂を耳にする。
オカルト好きの同級生達の誘いで夜中のプールに忍び込む春香。
しかし足を滑らしプールに落ち、意識を失う――。
「……もし、…………も……し…………」
朧気な声が春香の鼓膜を揺らす。
「……もしもーし!!」
「ふぁ!?」
春香は『ビクリッ』と身体をうねらせ飛び起きる。
「お姉さん、大丈夫ですか?」
「え――」
目を覚ました春香の眼に飛び込んできたのは、一人の女の子。赤い長髪、青い瞳、真っ白な肌、そしてチューブトップを着ている。……そこまではいい。
問題は腰から下だ。ルビー色に煌く鱗に覆われた魚のようだ。これはもしや、御伽話の絵本でよく見る――
「人……魚?」
「ええ、そうですよー」
人魚の少女ボニーは宙をフワフワと漂っている。
その時、春香は自分が水中にいることに気づいた。水中だというのに、仕組みはわからないが呼吸はできる。
春香はボニーに手を引かれる形で、すいすいと水の中を遊覧飛行をする事……二、三分。
「見てください春香さん。これが私達、人魚達の国【トリトン】です」
見えてきたのは、巨大な城を中心とした海底都市だった。
どういうわけか学校のプールの底は、異世界の人魚の王国と繋がっていたのだ。
そして何やらあちこちから、歌が聞こえる。透明感のあるソプラノボイス、重厚感のあるバリトンボイス、それを彩るかのような多種多様な楽器の調べ。
「わぁー、街中から歌が聞こえる! そういえば人魚って、なんとなく歌が上手いイメージがあるよねぇ―」
「はぁ……」
はしゃぐ春香をよそに、ボニーは萎れた花のように首を垂れる。
「ん? ボニー、どうしたの?」
「いえ、実は……もうすぐトリトンで、音楽祭があるんです。けど私、歌が下手で……このままだと、出さ せてもらえないんです。だから……ずっと誰も見てないところで、練習してるんですけど」
「歌の練習? あ――」
奇妙な歌の正体は、ボニーだった。
ピアノが得意な春香は、その後ボニーの練習に付き合う事に。こうして、プールを介して異世界を行き来する日々が始まった。
今回のテーマは「プール」という事で
人間の少女と人魚の話にしたんですが
リトルマーメイドにインスパイアされた感じがあります
活動報告も書きますのでよかったらどうぞ