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人食い邪竜、やさしい人間のおっさんとして生きます  作者: 伊沢新餌
1章 気がついたらおっさんであった
13/18

13話 マサヴァル家

 夕方近くになり、マサヴァル家の門にフラヴィが帰ってきたのが見えた。


「おかえり。遅かったね。」

「ヒャッ!」


 とりあえず目立たないように近くの大きな木の上に待機していたのだが。

 思わぬところから飛び出てきたので驚かしてしまったようだ。

 変な声を上げたのはちょっと面白かったが。

 

「あー……。なんかびっくりさせちゃってごめんね。

 あと、せっかく図書館に連れてってくれたのに、台無しにしちゃって悪いと思ってる。」

 

 我に謝らせる人間など、本当に長い間生きていて初めてだぞ。

 でもまあ、実際申し訳ないという気持ちがあるのだからな。

 

「まあ、それは。悪いのはアイツだから。ノジーは助けてくれようとしたんでしょ。」


 どうやら怒ってはいないようで良かった。

 

「そうだ、アイツ、あのあとどうなったの?」

「ここで立ち話はやめて。とりあえず、家の中に入って。」


「いいのか?我みたいなのが入って怒られるんじゃあ。」

「今は緊急事態だから。なるべく見つからないようにして。」


 そう言われ、正門の脇にある勝手口から敷地内に押し込まれる。

 更に陰気な使用人用の裏口から屋敷に入り、屋敷の隅にあるフラヴィの部屋に案内された。

 ベッドと本と机があるだけの、貴族のお嬢様らしくない質素で狭い部屋である。

 そこまできてふうと一息ついて、フラヴィは話し始めた。


「そうね、ダイゼン教授の話しだけど。

 あいつはね。一応私の教師ではあるんだけれど、権威と地位を振りかざしてやりたい放題のやつだった。」

 

「今回みたいに、地位の低い気に食わないやつを事故に見せかけて殺すこともしてたし。

 過去にはあいつに孕まされて学園を追い出された子もいた。

 機嫌が悪くなると、適当に気の弱そうな人間にいちゃもんをつけて憂さ晴らしとかするやつだった。」


 ううむ、我ですらちょっと引くレベルだ。人間同士も色々厄介な奴がいるものだ。

 むしろ、社会というものに守られているからそういうふうに増長できるのかもしれない。

 

「私もいつからか目をつけられて、それから明らかに成績を下げられてた。

 言う通りにしないと家の評判に響くぞと脅されてたの。

 学院を出て冒険者として研究してたのは、なるべくアイツに会わないためという理由が大きかった。」

 

「だからね、どうやったかはわからないけど、あのクズをあんな目に合わせてくれてスッキリしたの。

 ノジーは相変わらず強いんだね。ほんと、何者なんだか。」

 

 疑問に思いながらも追求しないでいるのは、信頼してくれているからだろうか。


「あいつが悶絶してノジーが逃げた後、一応、医務を呼んで運んでもらったのだけど。

 ノジーに対して、かなり恨みぶしを叫んでた。

 絶対に許さないぞ!とか、ぶち込んでやる!とか。

 あれでも高位の貴族だから、私兵私刑による追っ手が掛かる可能性が高い。

 残念だけど、早めに街を出たほうが良い。」


「一応顔は隠していたけど、駄目か?」


「探知魔法はあまり甘く見ないほうが良い。ここまで突き止められることはないだろうけど。」


「あとね。仕方がないからあの後代わりに調べておいたから。

 結論から言うと、封印魔法やアイテムの類を調べたけれど。宝珠の形のものはなかったし、

 ドラゴンを封印できるほどのものはなかった。記録もね。」


 我が学園を飛び出した後、フラヴィは代わりに調べてくれたらしい。

 正直あの資料を漁るのは大変だったので、結果的に良かったな。

 しかし手がかりはなしか。無駄足だったのは少し残念だ。

 

「流石にこれからの時間、準備して出たら門が閉まっちゃうから明日にしましょう。

 今日は私の部屋に泊まって。変なことしないでね。」

 

 一応釘を差されたが、フラヴィもあまり心配はしてないように見える。

 短い間だが一緒に旅してきた仲だしな。

 

「私は開門と同時に門から出るけ

れど、ノジーは別のところから出たほうが良い。

 門には手配が回ってると思う。ノジーはなんとかしてこの街脱出できる?」

 

「城壁を飛び越えれば良い。なるべく目撃者が出ない時間がいいな。朝方にするか。」


「正気?5階建ての建物ぐらいはあるんだけれど……。まあ、大丈夫なんでしょうね。」


「あれぐらい、倍でも余裕だ。」


 空は飛べなくても、跳ぶことはできる。


「じゃあ、ちょっとキッチンに行って、食料を適当に持ってくるから……。」


 そう言って、フラヴィが部屋を出ようとすると、ノックもなしにドアが開き、一人の位の高そうな男が入ってきた。

 貴族然とした燕尾服は朱色を基調としており、あちこちに金糸で魔術的文様が刺繍されている。

 よく整えられた口ひげと厳しい目線、そしてその顔つきはどこかフラヴィに似ていた。

 

「ゲイルお父様……。」


「フラヴィ。久々に帰ったというのに挨拶すらしないとは何事だ。

 冒険者の真似事などして遊びおって。研究は進んでおるのか。」

 

 ゲイル。この男がフラヴィの父親らしい。

 貴族然としているのは見た目だけではない。態度も中身も過剰なまでにそうらしい。

 狭い部屋に我がいることも気にせずの一喝である。

 

「お父様。研究はまだ報告できることはありません。

 明日朝再度家を発って、遺跡を研究する計画です。」


「そこの男は。」


 お父様とやらが、我を横目で見ながら言う。

 

「護衛のものです。荷物を運ばせてました。」


 一般人以上に生意気な口を聞くフラヴィが、父親の前に出た途端、急に貴族らしい話し方になる。

 ……我、護衛かあ。まあそんなに嘘でもないからそういうことでいい。


「ふん。みすぼらしい護衛だな。男、お前の仕事は今日までだ。」


「わざわざお前の部屋に来たことはだな。フラヴィ、冒険者のマネも、もう今日でおしまいだ。

 我家の名誉のため学院に入れてやったが、はっきり言ってお前の研究には期待しておらん。

 明日には退学届けを出してやろう。」

 

「準備をして、来月シルヴァリエ家に嫁げ。お前がこの家に役に立てる唯一のことだ。」

 

「お父様!そんな突然に。婚姻は卒業してからの約束のはずです。」


「それに、必要としていた古代魔法、私は必死に研究を続けておりました。

 結果をお見せできないのが恥ずかしいことですが、いずれ……。」

 

「フラヴィ、お前が男だったらまだ別の使い道もあったのだがな。

 魔力も低く、我家の人間としては失格レベル。

 学業の成績こそ最初はよかったようだが、それもここしばらく落ちるばかりと聞く。」


 ああ、それはダイゼン教授のせいだと思うぞ。

 ううーん、こんな切羽詰まってたなら、マサルタの殺人魔法を伝えてもよかったかもだが。

 でも、効果を実証するためには誰か殺さなくちゃいけないんだよな。

 

 ……いや、やっぱ教えなくて正解だ。

 あの場で教えててたら、下手すると教授ぶっ殺してたかもしれん。

 

「お父様、私も研究だけでなく、魔法も実践で努力してきました。魔力も身につきましたし、

 納得の行くところまで届かなくとも、せめて魔法を見ていただければ……。」

 

「ならぬ。魔力の底が見えたものに大成はない。

 むしろ、中途半端な魔力で魔導士として世に出られると、

 マサヴァル家の名に傷がつく。」

 

「おい!魔光球をもってこい!」


 父親がそう廊下に声を掛けると、すぐに2名の使用人が、足の長い台と水晶玉を部屋に運んできた。

 魔光球。これは推測するに、現代の魔力測定機だろう。

 

「魔力が成長したというのならば、見てやろう、納得させてみろ。」


 フラヴィがゴクリとつばを飲む音が聞こえる。緊張しているようだ。

 落ち着いて精神を集中させ、長い呪文詠唱に入る。

 なるべく大きな力を引き出しているのだろう。

 そして目を開くと、気合を入れて水晶玉に手をかざした。

 

 フラヴィの手から水晶玉に魔力が流れ込み、輝き出す。

 水晶玉は青く輝き、周囲から涼し気な青い霧が吹き出し、台の周りを漂う。

 これは……。人間にしてはそれなりの魔力量なんじゃないか?

 

「フン、青か。前は光も帯びてなかったし、藍よりはましになったがな。」


フラヴィが息を荒げている。少し無理をしたのかもしれない。


「だが、自分の限界も解ったであろう。お前は所詮その程度なのだ。

 せめてマサヴァル家のものならば、この程度はないと困る。」

 

 そう言ってゲイルは水晶玉の上に手を置く。

 すると、水晶玉は黄色に代わり、眩い輝きと金色の霧を吐き出した。

 フラヴィがその輝きを苦々しく見つめる。

 

 なるほど、フラヴィのときより全然輝きが違うものだ。

 特に呪文も込めていないし、力もためていないから、実際にこの男は言うほどの魔力があるのだろう。

 正直色の違いはなんだかわからないが、この光の強さだけでも魔力に差があることが理解る。

 ゲイルの魔力は、フラヴィの数倍以上もあるだろう。

 

「お父様、なんでこんなときだけ部屋に訪れてくるのですか。

 いままで数えるほどしか声をかけていただいたこともないのに。

 自分の都合の良いときにだけ、家のために身を売れと言われても。」

 

「負け惜しみに人を責める態度とは関心せんな。

 まず、妾腹の12女が娘として認めて育ててもらっただけでも感謝するべきだろう。」

 

「感謝は、してます……。私は、いつだって、マサヴァル家、いやお父様に認めてもらいたかった。


「認めてほしくば、認められるだけの結果を残すんだな。」


「わかりました。研究結果だけを記して出ようかと思いましたが、今ここでお見せします。」


 そう言うと、フラヴィは古代語の呪文を唱えだす。

 懐かしい魔力の流れを感じる。

 かなり剣呑なやつ。これは、間違いない。破壊魔法ヴォイドラだ。


 フラヴィは長年、この魔法の研究を続けていたと言っていた。

 あの図では呪文が欠けていたので、完成しないと思っていたが、呪文はすでに別に解明していたのだろう。

 

 我が重要すぎるヒントを伝えてしまい、解読したフラヴィはついに今日完成させてしまったのだ。

 

 邪悪な魔法を蘇らせてしまったのもまずい。

 だがそれ以上の危険は、フラヴィが今ぶっつけ本番でやろうとしていることだ。

 

 この魔法は周囲に与える被害がただ事ではないんだぞ。少なくとも実家で使うようなものではない。

 消費魔力に対する威力が想像以上だということが解っていないのだ。

 

「フラヴィ、何だその魔法は。何を見せようというのだ。」


「お父様、これが古代魔法、ヴォイドラ……!」


 フラヴィが魔法を発動したその時、我は二人の目の前に飛び出した。

 魔法が発生した空間に手を伸ばし、一瞬発生した青白い光をすかさず握りつぶした。

 我という魔力の壁に阻まれた「虚無」が、たちまち無に帰していく。

 

「ノジー!?」


「フラヴィ、頭に血が上るのは理解るが、それはこんなところで使う魔法じゃない。

 ヤケクソで使って良い魔法じゃないぞ。親父さんもこの家も、なんならフラヴィ自身もあぶない。」

 

「そんな、流石に、人に向けて使う気じゃあ、なかったから……。」


 急に出てきて叱られたことにフラヴィが驚き、しどろもどろになる。

 確かに手加減していたのはわかるが、それでもこいつは危ないんだ。

 

「そこのお前、一体何をやったのだ?人前に割り込むな。」


 この親父は、自分の娘が伝説を蘇らせたとは全く思っていないようだ。

 自分の命が危なかったとも気づいていない。

 

「なあ、ゲイルさん。親子のことだから口は挟まないようにと思ったが、ちょっとアンタの言ってることはひどいぜ。

 フラヴィはアンタとこの家のために、命がけで頑張ってきたんだ。少しは話し合ったって良い。」

 

「そこをどきなさい。お前になんの権利があって親子の会話に割り込むのだね?」

 

「まあ、人の家のことに首突っ込むなというのはご尤もだが、フラヴィは我の仲間なんでね。

 魔力の多少なんて些細な問題だろう。フラヴィは優秀で努力家なんだ。結果も出してる。」

 

「フン、お前が魔法の素人なんてことはひと目で分かる。

 そんなお前が何をわかるというのだね?

 無知無能なほど人に意見をしたがるという話を聞いたことはないかね?」

 

「ああ、確かに。我は魔法についてはさっぱり素人だな。2つぐらいしか魔法は使えないし。

 だが、アンタの家は魔力の多さを大事にしてるんだろう?」

 

 我はすぐ脇にあった魔光球に歩み寄ると、その上に手を置く。

 ほんのり魔力が吸われる感覚がある。なるほどな。

 魔法は扱えなくても、魔力の扱いはブレスでだいたいわかる。

 初めてだから慎重に行きたい。ゆっくりと加減しながら魔光球に魔力を流し込む。


「よし…。」

 

 ほんのりと魔光球が紫の光を帯びている。

 なるほど、フラヴィの10分の1の魔力があれば最低光りだすのか。


「なんだ、紫の弱い光ではないか。それぐらいの魔力、一般人でも珍しくはない。」


 我は力のセーブを徐々に解いていく。

 光は藍、青とどんどん色が変わり、光が増していく。

 

「ノジー……。」


 さらに緑、黄緑、黄色となり光が眩いばかりになっていく。

 なるほど、加減次第で色が変わるのも面白いな。

 

「なんだと……、黄色?」


 更に力を込めると、オレンジ、それを越えて赤に色が変わる。

 光は逆に眩しさを潜め、部屋全体が赤い宇宙のように染まっていく。

 生まれた霧が濃くなり渦を巻き、台風のようになっていく。

 ここまでくるとゲイルの数百倍の魔力の持ち主ということか。

 

「馬鹿な、なんという……お前は、いったい。まさか……!」

 

 更に魔力をその十倍込めると、水晶球は光を吸い込むような黒い色に変わる。

 水晶球から漏れ出た魔力が、雲を越えて光の結晶になる。

 まるで部屋の中に銀河が生まれたようだ。はは、綺麗綺麗。

 

 更に込める……。水晶から溢れた魔力が雷のように周囲に飛び散りだした。

 伝説に聞く、星が生まれる瞬間のようだ。

 我はまだ力の1割も込めていないのに、そろそろ壊れてしまいそうだ。

 この辺にしておこう。

 

 我が力を開放すると、耳に心地の良い独特の高い破裂音とともに、

 閃光が走り魔力が光に変わり霧散していった。きれいな花火じゃないか。

 

 さて、二人はどんな反応をしているか。

 

「こんなもんだがどうか?我があんたらより魔力が高いのは解っただろう。

 だけど魔法は素人なんだ。実力を魔力の量だけで判断するものじゃない。」

 

 そう言って振り向くと、二人は声も出せないでいた。

 というか、ドン引きしてる。ちょっと恐怖すらしてる。

 あれ、これ色が変わるのが面白くてやりすぎちまったか。

 

「ノジー、あなた、やっぱり……。」


「そうか、フラヴィ、お前は初めて役に立ってみせた。

 よくやった。これはすごい発見だ!」


 ん?なんか、思っていた反応と違わないか?

 

「計り知れない魔力の持ち主……!間違いない。

 フラヴィ、でかしたぞ!この男こそは選ばれしもの。勇者だ!」

フラヴィの父親の名前を間違えてました。

シルバ→ゲイルと修正してます。

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