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人食い邪竜、やさしい人間のおっさんとして生きます  作者: 伊沢新餌
1章 気がついたらおっさんであった
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11話 教授

 図書館に近づいてくる音に我は直感的に良からぬものを感じて身を翻す。


 「誰か来た。我は隠れるぞ。」


 音からして男が一人。

 奥にも出入り口があるのだろう。

 図書館の扉が開かれる音が聞こえたかと思うと、そいつはやってきた。


「おお、フラヴィくん。君の姿を見たと聞いてやって来たのだよ。

 戻ってきていたのかね。いやあ、久しい。」

 

 来たのは、金のかかってそうな服に身を包んだ貴族風の男。

 我よりもやや歳を食ってそうな小太りのハゲであった。

 少ない髪の毛を往生際悪くなんとか被せている。

 

「……これは。ダイゼン教授。ご無沙汰しております。」


 その男はダイゼン教授というらしい。

 と、わざわざ名前を言ってフラヴィが説明してくれたのだな。

 

「そうかそうか。

 こうして私が会いに来たのだ。光栄に思い給え。

 古代魔法の研究のためロンデルを離れたと聞いて心配しておったよ。

 どうだったかね?なにかいいものは得られたかね。」


「残念ながらまだ研究は道半ばです。

 なので、こうして資料を探しに一度戻ってきました。」


 フラヴィのやつがあれだけ丁寧に話すとは、なかなか位が高い男のようだ。

 だがあまりフラヴィはこの男のことを好きではないように見える。

 感情を殺したようなトーンで話しているからだ。

 

「そうか、実家からの命令か。

 冒険者みたいな立場に身を落とさなければならないのだから、辛いものだなあ?」


 そう言うと、ダイゼンはフラヴィの肩に手を置く。

 いや、肩の小ささを確かめるように首筋まで撫で回している。

 

「私は君のことは一目置いているんだけれどねえ。もちろん、魔法じゃなくて一人の女として。

 成績が伴わないというのは残念な話だ。

 だがね、足りないのは君のちょっとした気持ち次第だと思うのだよ。」

 

「どうだ。成績が良くないというのは、家からの風当たりが辛いものだろう?素直になりなさい。

 どうしたらいいか、君なら理解っているはずだ。」

 

「……魔法の技術をより高みへと。マサヴァル家のものに求められることをやるだけです。」 

 

 フラヴィが肩の手をさり気なく払う。

 マサヴァル家というのは、先程見たフラヴィの実家のことだろう。

 ダイゼン教授は懲りずにフラヴィに顔を寄せる。

 

「まだ君は理解が足りていないようだねえ。

 私は君のことはとっても可愛い生徒だと思ってるし、可愛がりたくてしょうがないのだよ。」


「もしくは、ダイゼン教授が私への干渉をやめることです。」


「ハッハッハ。君はなにか勘違いしてるね?」 


「私の家でゆっくりと研究の成果を聞かせてほしいと言っているのだよ。

 君の……がどこまで成長したのかもゆっくりと知りたいところだがね?」

 

「………」


「考えてみなさい。この私の愛情を受けることがどれだけ名誉なことなのかを。

 なんなら妾にしてやってもいいんだぞ?

 私に愛さていると知れば、君の家もきっと喜ぶだろう。」

 

「お断りします。私は、私の力で生きていきます。」


 フラヴィのそっけない返事に、ダイゼンは少し顔を歪ませる。

 わざと作った不機嫌そうな顔だ。


「君はもう少し賢いはずなんだがねえ。

 これでは、君の成績も考えなくてはならない。

 家の名も落としたくはないだろう?」

 

「………。」


 フラヴィが押し黙る。

 家の名を出されるのはフラヴィにとって弱みのようだ。


「君はその体格で恵まれたものを持っている。

 どうだ。魔法なんかより、男を喜ばせる方法を身につけたほうが上手く生きられるんじゃ

 ないのかね?」

 

 ダイゼン教授は、そう言うとフラヴィの胸をローブの上から弄りだす。

 ローブの上から小柄な割に大きなおっぱいが、柔らかく形を変えるのがみえる。

 

「ほほっ。また成長したのじゃないのかね?いい柔らかさだ。これは肌の色も見てみたいものだねえ」


「や、やめ……。」


 フラヴィが嫌がるそぶりを見せる。

 まあ、そういう仲じゃないよなどう見ても。

 

 仕方がない。

 

「ちょっとそこのあなた!」

 

 ダイゼンが入ってきた入口に回り込み、大声で声を掛ける。

 もともと図書館に居た人間とは思わせないようにだ。

 

 つかつかと歩み寄る。

 フラヴィからは出てくるなと言われてたが、正直ただ見てるわけにもいかない状況だろう。

 ダイゼンは怪訝な顔、フラヴィは露骨に困った顔をする。

 喧嘩はしたくないが、あまり及び腰でもよくなかろう。

 

「そういうの、セクハラじゃないんですか!

 こういうところでそういうのは良くないでしょう!」

 

 ここは正論で責めるしかない。

 先日リリィの生おっぱいを揉みしだいたことは置いておくとしよう。あれは必要なことだったし。

 気まずい空気を作ってひとまず退散してもらうのだ。

 相手も馬鹿ではあるまい。

 

「何だお前。人になにか物申す前に、顔を隠しているではないか。」


 ダイゼンがフラヴィから手を離して怪訝な顔でこちらを見る。

 我は手持ちの手ぬぐいで顔をグルグルに巻いていたのだ。

 顔がバレぬにこしたことはあるまいとおもってとっさにやってしまったのだが。

 

「これは……ちょっと病気だからだ!」


「嘘つきめ。そんな臆した態度で人に注意しようなどとは。

 大体、これは教師と生徒という関係で教えを与えてやっていただけだ。」

 顔を隠して何かを成そうというものに碌なものはいない。

 何処の人間か名乗ってみろ。」

 

 気まずい空気を作るなんていう考えが浅はかだったようだ。

 こいつは、自分のことはとことん棚に上げて、相手の弱みに付け込むのが得意らしい。

 成績や家の事情に付け込んでフラヴィを自分のものにしようとしてるところから明らかだ。

 というか、察するに多分成績も悪くなるように操作しているな?

 

「まったく不愉快な愚か者だ。貴族であるこの私に口答えをして、ただで済むと思うなよ!

 この学園の中で済むことだとは思うな。この街に居られなくしてやる。」

 

 馬鹿ではなかろうと思ったが、思っていた以上に馬鹿者だったようだ。

 馬鹿に愚か者扱いされるのは腹が立つところだが、ここは穏便に済ませたい。


「そうやって人の弱みにつけ込むのがお前のやり方なのか?

 権威と肩書で人を威圧することしかできないのかあんたは。」

 

「立場を利用して人を貶めようなんていう態度が卑怯だと気づくべきだろうが。」

 髪の毛といっしょに人徳をスッカスカになくしまったのかよ!」

 

 だめだ。ムカついて割とストレートに思った通りのことを言ってしまった。

 ダイゼンは顔を真赤にして怒りをにじませている。

 

 顔を見るに、完全に火に油を注いだようだ。

 一般人である我にボロクソに言われたことに貴族としてのプライドが傷つけられたのであろう。

 それに人間、言われたくないことを言われると一番怒るという。

 ……最後の一言は流石に余計だったなあ

 

「お前が誰だかわからんが、この私に喧嘩を売るとはな。

 見たところ平民のようだが、貴族というものの恐ろしさが理解っていないようだ。」


 そう言うと、何処からか高級であろう小型のステッキを取り出していた。

 すでに臨戦態勢であったようだ。

 

「なんなら、私の権限でお前をこの場で処すことだって許されているんだぞ。

 望み通りにしてやろう。」


 なるほど、教授で貴族というのは伊達ではないようだ。

 魔力が身体から溢れている。

 こいつ、フラヴィより全然強いぞ?

 

「痛み苦しめ!ショック!」


 バシン!とした衝撃が我の身体を走った。

 眼の前を青い光が走り、我の産毛が逆立つ感触がある。

 即応性の衝撃魔法……なるほど、これは性格が悪い魔法だ。

 

 身体へのダメージそのものより、苦痛を大きく感じるように工夫されている。

 痛みのショックで悶え死ぬことを目的としているようだ。

 ただの人間だったら確実に死んでいるほどの威力だぞ。

 

 相手が自分より下の立場とはいえ、平気で殺すつもりだったな。

 

「うむ?どうした。もう声も出せないか?謝ったらすこし加減してやるぞ。ハハハ。」


 ダイゼンがニヤリと勝ち誇った顔をする。

 まあ発動したし当たってはいるのだが、正直ダメージは感じていないのだ。

 

「この程度で魔法を教えている立場なのか?」


 お望み通り軽口を聞かせてやる。

 まあフラヴィよりかは強いが、この程度の相手なら好き勝手させて問題ないだろう。

 ダイゼンは怒りを滲ませたまま、少し面白くなさそうな顔をする。

 

「そうか、すこしは手加減してやったが、平民なりに対策ぐらいはしておるようだな。

 これならばどうだ。」

 

 今度の魔法はなんだと思ったら、全身各所変な方向に力をかけられていく。

 全身色んな方向ににねじれの力が加わっているようだ。

 

 普通の人間なら、少しずつ身体が捻じれ千切れていく過程で命乞いでもするのだろう。

 なにげに無詠唱ってやつだし、たいしたものだなあ。


「ま、我慢するほどのものでもないね。この程度の魔法さんざん受けたもんだ。」


 我が両手のをひらひらとさせ平然とした態度を取ると、さすがにダイゼンが驚愕する。

 事実、先程より遥かに大きな魔力が込められているのはわかる。

 その努力は別のことに使っておくれよ。こんな一般人に向けるもんじゃない。

 例えば人類の敵にとか……我のことか。


「なんだと……?お前、何者だ。」


「さて、アンタこそこういうのに対策してるのか?ほいと。」


 手をぱちんと叩き、意識を込めて魔法を弾き返す。

 油断していたのか、そんなことされるとは思っていなかったのか。

 魔法が逆流し、ダイゼンの身体が一瞬で変な方向に曲る。

 

「ふぎゃん!」


 驚いた猫のような声を出して、ダイゼンは今度こそ床に伏した。

 ああ、まともに食らうとそんな感じになるのね。

 ここまでするつもりはなかったのに。

 今の時代は魔導の逆流とかあまりやるやつが居ないのだろうか?

 無駄に大きな力を振りかざそうとするからだよ。

 

「あー。おっさん、生きてるか?」


「お前も、おっさんだろうが……。」


 身体をあちこち寝違えたような面白いポーズのまま、ダイゼンが恨み節を吐く。

 ああまだ意識があるのか。やっぱ死んでいたほうがよかったかもしれないな。

 こいつの自業自得だろ。めんどくせ。


「貴様、何をした。いや、それはどうでもいい。

 私へのこの仕打ち許さないぞ。平民風情がこの私に手を上げて命があると思うな。」


「貴族に楯突くということは、お前はこの国に弓引いたと同じこと。

 苦しまずに楽に死ねるとは思うなよ。」

 

 そんな状態で負け惜しみを言うんじゃないよ。

 だいたい、我はセクハラ注意しただけで、暴言も暴力もお前からふるってきたものじゃないか。

 

 とはいえ、これ以上の騒ぎを起こすのはまずい。

 フラヴィの関与も疑われないうちに、さっさと逃げることにする。

 それ以上の恨み節は聞き流し、フラヴィの顔すら見ずに、我はその場を駆け出したのだった。

 

 そのまま学園にいても面倒だと思ったので、我は門から一人飛び出していた。

 出る分には結界は働かなくて助かったよ。

 フラヴィとは後で合流すればいいだろう。

 あーあ、せっかくここまで来たのに。

 禄に調べられないまま、こりゃもうあそこには入れないよ。

 ごめんな、フラヴィ。

 

 ……まあ、いつまでも悩んでても仕方がない。

 正直あの場はああするしかなかったのだ。

 さて、いまだ昼前である。

 腹ごしらえもかねて、この街の冒険者ギルドにでも出かけてみるとするのだ。

 そういえば、馬車ギルドからウェアウルフ討伐の賞金が出ているのだった。

 我は倒しては居ないけれど、パーティ単位で出るはずだから、受け取ることはできるはずなのだ。

 今の時間暇だから受け取っておこう。

 我は街の人の話を頼りに、冒険者ギルドへ向かったのであった。

 

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