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人食い邪竜、やさしい人間のおっさんとして生きます  作者: 伊沢新餌
1章 気がついたらおっさんであった
10/18

10話 ロンデル

 それからロンデルまでは何事もなく旅が進んだ。

 途中で日が暮れてキャンプとなったが、一緒に乗っていた乗客から、魔物を追い払ったお礼にと、我ら冒険者はささやかなご馳走を振るまわれた。

 ……まあ、我は武器も持たずに突っ立ってただけだったが。


 エミリアとはそれからも馬車の上で話し続け、2日間の間にすっかり仲良くなってしまった。

 ちょっと性格に棘のあるフラヴィとも仲良くなれる彼女は性格が良いのであろう。

 もしロンデルの滞在が長くなれば、一緒にギルドの依頼に誘ってもいいな。

 エミリアなら了承してくれるだろう。

 

 というわけで、夕方近くに首都ロンデルに馬車はたどり着いたのであった。

 ポルーナも大きいと思ったが、ロンデルは更にでかい。城壁がどこまで続いてるかわからないぞ。

 

「なんだと、そんな馬鹿な」


 さらに我が驚いたのは、ロンデルの入街税であった。なんと金貨2枚というのだ。

 ポルーナにたどり着いたときの我の財産の何倍だというのか。法外だ。

 

 流石に払うのは一度きりらしく、もともとロンデル生まれのフラヴィやエミリアは払う必要はないらしい。

 だが、それでも兵士に難癖つけられないように銀貨1枚は賄賂として渡すのだとか。

 え?我も賄賂は別に必要なの?腐ってるな。

 

「流石に前はここまで税金高くなかったのですが……。」

 いきなり大金を失う我を、エミリアが不憫な目で見る。

 

「まったくうんざりだわ。全体的に、この街の税金はびっくりするぐらい高いから。」

 

 門の周りには、街に入れなかった人たちに金を貸す金融業者や、仕事を斡旋するもの、

テントを張り格安の宿を営むものなどでちょっとした街になっていた。


「だいたいヤカラみたいなやつらだから、関わり合いにならないことね。面倒なことになるわ。」


 聞くに、このヤカラたちも兵士に賄賂を上納して商売しているのだそう。

 まったく、いきなり首都の荒んだところを見せられてしまった。


 門を入り内堀にかかった橋を渡ると、多くの人通りのある広場にでた。

 沢山の人、人だ。

 今まで人の群れなど武装した軍隊ぐらいしか見たことなかったものだ。

 これでも夕方なので人は少ない方らしい。

 

「市街に家がありますの。よかったら遊びに来てください。」

 

 エミリアより誘いを受け、家の場所を聞いて、その場で別れることにした。

 社交辞令ではない。

 ぜひともまた後日会いに行くとしよう。

 

 とりあえず宿は多いので、夜から飛び込みでも問題ないそうだ。

 フラヴィは実家に荷物を置いてくるそうなので、ついていく。

 朝の待ち合わせ場所はフラヴィの家でいいだろう。

 

 そう遠くないところにあったフラヴィの家はまあ予想通り大きかった。

 魔法の名門の家と言ってたな。貴族というものだろう。

 周りの家の何十倍あるのだろうか?

 

「これでも、貴族としては下の方の男爵家なのよ。領地もないしね。」

 

「ま、荷物を置いて泊まるぐらいはできるけど、急にノジーを受け入れるほどには

 私の立場は良くないの。悪いけど、宿に泊まってね。」

 

 まあ、歳若い未婚女性が突然中年一般人を連れてきても歓迎されないだろう。

 学院で調べ物をするためにここまで来てくれただけでもありがたいのだ。

 

「よし、じゃあまた明日。我から迎えに来るから。」


 適当な宿を探して、安いところを選ぶ。それでも銀貨3枚とポルーナの3倍した。

 宿というものに泊まるのは、なんだかんだこれで2回目だ。

 正直最近、柔らかいベッドというもので眠るものはいいものだなと思ってきた。

 50年洞窟で寝てたし、人間になってからも前は下水道の床で寝てたのだがな。

 

 翌朝フラヴィの実家の前で待ち合わせをする。

 しばらくすると、フラヴィはいつもと変わらぬ格好で出てきた。

 

「おはよう。」

「……おはよう。」


 人間というものが挨拶が大事らしい。我もしっかり心がけよう。

 しかし、フラヴィはあまり元気がない。実家でなにかあったのか?と聞く。

 

「何にもなかったのよ。何もね。」 

 

 とため息をつきながらつぶやいた。

 深く突っ込むのをやめて、魔法学院というものに向かうこととする。


「あまりキョロキョロうろうろしないの。いいおっさんなんだから」


 これだけの人間の街を、人間としてゆっくり眺めるのが楽しくて、ついついフラヴィに注意されてしまう。

 ポルーナでも楽しかったが、今では人間一人一人を見ているだけでなんとなくその人生を想像すらしてしまう。

 いかん、人間としての生活が楽しくなりすぎてはだめだぞ。我はもとに戻るために来ているのだ。

 

 ……もし、次の瞬間元の姿にもどったらどうしようか。今の気持ちも忘れているだろうか。

 流石に記憶は失わないと思うが。

 フラヴィだって、ドラゴンとして出会っていたら、とりあえず食べていただろう。

 マンティコアのやつはぶち殺してやったがな。あれはただ気に食わなかっただけ。

 我も同じ人類の敵なのだ。

 今の我は……一体なんなのだろうなあ。


 人間として過ごした僅かな期間。

 だんだん、ドラゴンとしての感覚が薄れていってるんじゃないか?という不安もある。

 だからといって、この人間として覚えた気持ちを失ってしまうのも、最近怖く感じるのだ。

 

 そうこうしているうちに、魔法学院というものにたどり着いた。

 立派な門に囲まれた敷地内に、城のように大きな建物がいくつも並んでいる。

 

 フラヴィの家は大きいと思ったが、学院はそれより比べ物にならないぐらい大きかった。

 ただの住宅と、学問を修める研究機関という差があるのか、この敷地だけで今まで立ち寄った

 小さな村ぐらいあるんじゃないかと思う。

 

「ノジー、手、繋いで?」

「へ?」


 フラヴィが手を差し出す。

 

「部外者が入らないように入口に結界が張られてるの。接触することでごまかす技を使うから、

 一緒に手を繋いで。」

 

 なるほど、言われてみれば門に微弱な魔力の結界が張られているようだ。

 こういうものは無理くりな突破や破壊しかしたことがないから、こういう技は知らない。

 助かる。

 

 誰も見ていないタイミングを見計らって、フラヴィと手をつなぎ中に侵入した。

 なんだかちょっと気恥ずかしい。

 

 ……なるほど、相手の気配を自分の魔力で包みこんでしまうのか。

 この結界の感知システムからすれば一人の人間が入場したのと見分けがつかないのだろう。

 この街の門も同じ方法で入れたら良かったのになあ。

 無理か。

 

「入れたわよ。もう手は離していいから。」

「ちょっと待って、こんな感じ?」


 我は手を話す前に、逆に自分の魔力でうっすらフラヴィを包みこんでみた。

 

「……ノジー、あなたちゃんと魔法覚えてみたほうがいいんじゃないの?」


 できてはいるらしいが、フラヴィは褒めてくれるどころか、ちょっとムッとしている。

 簡単に使えたらフラヴィにあまり面白くない魔法だったようだ。


「まあいいわ。資料館はこっち。あまり目立たないようにしていてね。」


 目立たないとはどうすりゃいいんだ?とも思ったが、特にこういう時は意識しないのが一番だと思える。

 あまり人が居ない時間だったのか、何人かとすれ違った程度で資料館までは難なくたどり着けた。

 

 資料館も、室内なのにポルーナの冒険者ギルドの建物と宿が一緒に中に入っても余裕がありそうな広さがあった。

 それだけの空間にずらっとどこまでも本が並んでいるのだ。全く壮観である。

 漂う独特の香りは、紙と糊の香りだろう。人間の知識の宝庫というわけか。

 

「ノジー、あなた文字は読めたわね。封印魔術関係の棚はあそこ、魔術具の棚はあのあたり。」


 なるほど、魔法の種類で本が分類され探しやすくなっているのか。

 と感心したところで。

 

「私は古代魔法の資料を漁るから。」


 とフラヴィは行ってしまった。

 我、文字は読めても本なんて読んだことないんだぞ。

 一緒に探してくれるんじゃないのか。

 

 仕方がなく、一人で棚を眺めてみる。

 封印魔法より、まずは魔法具の棚のほうがいいだろう。


 とはいっても、この分類だけでどれだけの量の文献があるのやら。

 まず適当な本を一冊手にとって開いてみる。


【ヴァルア歴328年、ナサリア半島のハマ地域に発生した魔獣、ヴォルアキアの尾から作られたこの】


 ……つまらない。もっと絵が豊富なものはないものか。


 わかりやすい図示付きの本からめくってみてみるが、我の見たあの宝玉と同じようなものはない。


 こちらの本は……。


 虫よけ魔法が込められた香、照明魔法を込められるランタン、ギルドカードの魔法の仕組み、

 ううむ、どれも我のさがしているものと違う。

 

 だめだ。我は文字は読めても本は読めないらしい。

 というか、どれも人間の感覚、人間に必要なものとして書かれているものだから、恐ろしく興味がわかないのだ。

 

 虫除け魔法を作った人間の歴史とか興味がわかんわ。

 

 一応努力はしてみたので、時間としては小一時間は経ってるだろうか。

 一旦フラヴィの様子でも見に行ってみるか。

 ……正直手伝ってもらいたい。

 

 フラヴィは部屋の真ん中の大きな机の上で、これもまた机ぐらいありそうなえらく大きい本を開いていた。

 更にその周りにまた大きめの資料が開かれたまま散らばる。

 本人が小柄だから、よりサイズがチグハグに見える。

 

「フラヴィの方は調子はどう?」

「ノジー、あなたは部外者なんだから、なんかあったら私は無関係を装うからね。」


 はいはいわかりましたと流して、開いているページを見ている。

 所々が欠けた魔法陣が描かれているページだった。

 

 魔法を覚える必要がなかったため学ばなかったが、一応我も多少は知識としてある。

 長く生きて自然と身についたレベルの知識だが。

 

 魔法陣というのは、その魔法の仕組がそのまま描かれたものである。

 魔力を込めて描かれたものならば、それ自体が魔法として発動する。

 

 つまり、仕組みや呪文が図示されているものでもあるのだ。

 魔法陣が読み理解できれば、その魔法が使えるようになるのだという。

 

「これはね、マサルタという魔法帝国の遺跡から発掘されたものなの。

 マサルタの魔法はどれも伝説的なものばかりで、今では殆どが謎になっているのよ

 私はどうしてもこれを解明しなくてはならないの。」


「理由を聞いてもいいか?」


「マサルタの古代魔法は攻撃的なものばかりでね、今でも軍事魔法に組み込まれてたりする。

 うちはね、攻撃魔法の研究を国から任されてる一族なのよ。

 だから、私は家のためにこれを解明しなくちゃならないの。」

  

「やめておけよ、こんな魔法を研究するのは。」


 偶然だが、我はその魔法陣に描かれた魔法に覚えがあったのだ。

 印象的なものだったから覚えている。

 一時期さんざんに使われたものなのだ。

 何なら、何度もぶつけられたことがある。

 だからその仕組みも理解るし、図で欠けた呪文も覚えているのだ。

 

「何を言ってるの?連れてきてもらった立場で。

 だいたい、ノジーはなんで私が研究してるかも、この魔法がなんなのかもわからないでしょ。」

 

「そういうフラヴィはわかってるのかよ。」

「これは……。かなりシンプルで単一目標に効く強力な攻撃魔法だってことはわかってる。」

「これは、純粋破壊魔法、ヴォイドラだろ。任意の小空間を虚絶崩壊させるやつだ。」


「なっ……なんでアンタがそんなことわかるの。」


 フラヴィは驚いた顔を見せる。

 我が魔法については素人だと思っていたな。事実その通りなんだけど。


 しかし我はなにせ大まかな古代文字が読めるのだ。

 この図には、効果も添えて名前がずばり書いてあったりするから読めればアホでも理解る。

 

「図を見ていれば何となく分かるんだよ。

 だけどこんなもの覚えても、フラヴィは使わないだろ。」


「……私には必要なのよ。何年もこれを知るために努力してきた。」

 

 発動に大きな魔力を必要とせず、瞬時に眼の前の敵を滅ぼす。

 古代の戦争で最も多く使われた魔法だ。

 だが、何よりも人間を殺すために使われた魔法でもある。

 火や風の刃を生み出す魔法も大概ではあるが、

 これはただただ純粋な殺意の発露にしか役に立たないのだ。

 

 古代帝国で生み出されたこの魔法は、3500年も前には誰でも使えるほどの普及を見せた。

 その気があれば簡単に目の前の人間を殺すことができる魔法。

 それを誰も彼もが使えるようになった結果、人間同士の争いが頻繁に勃発した。

 何ならマサルタの滅亡の原因となったとも言われている。

 この魔法は失われたと言うよりも、後世のため人類が自らの手で捨て去ったという方が正しい。

 

 我が受けたとき、もちろん虚無空間に包まれたが、まあ我は魔法耐性事態が高く効かなかった。

 魔族に対しても、対策されてるとかでイマイチ効果は高くないらしい。

 身をキレイにしたり暗闇を照らす魔法なんかのほうがよっぽどいい。

 

「こんなものを知っていても、フラヴィが利用されるか、恐れられるかだけだ。

 最悪知ってることで消されるかもしれない。

 おそらく、この魔法は邪悪すぎて、あえて後世に残らないように消されたんだ。」

 

「そんなこと言って、ノジーが読めるなんて信じないから。

 本当は探しものを一緒に手伝ってほしいんでしょ。」


「この欠けてる図の部分は魔力の伝達についてだよ。

 あとは……ここで一番重要な、虚無という概念をどう理解するかが描かれている。

 図に書き足すならこんな感じだ。」


 魔法陣が欠けた部分をメモに書いて補完してやる。

 フラヴィほどの知識があれば、でたらめ言ってるわけではないことがわかるはずだ。


 フラヴィは黙ってしまった。

 いや、何かを考え込んでいるのか。

 

「なんて悪意と敵意の塊みたいな魔法なの。作りは芸術的ではあるけど。」


「でも、私は、これを家に持ち帰らないと……。」


 フラヴィは、あまり家での立場が良くないというのは本当のことだろう。

 だからこそ、成果を自分の家に持ち帰りたいのではないか。

 

 その時。

 遠くから足音が聞こえてくるのを我は気付いた。

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