⑤桜様、激烈お怒りになる。
自室のソファに深く腰掛け、ふーと大きく息をはく。
因みに先程から少し開いた扉から覗いているリリアンヌの母親は、今は気付かないふりをして放置である。
覗きながらメソメソと泣いている。
私はこの母親に対してもかなり怒っているのである。
娘がこんな状態で帰ってきて、ただメソメソするだけ。
今まで娘の異変に気付いていたのやらどうやら?
なぜ、こんなにも母親に対して怒っているのかと言うと、何を隠そう私も子供を育て上げた母親であるからだ。
なんなら2人の子供も親となり今やおばあちゃんである。
山本桜 65歳!それが私である。
趣味は夫との旅行、ペチャクチャとよく喋る私にいつも嫌な顔一つせず話を聞いてくれる夫。
桜としての記憶もあるのだが、はて?私は死んでしまったのだろうか?
それにしては死んだと思われる記憶はない。
もしやリリアンヌの体を私が乗っ取ってしまったのだろうか?とも思ったが、うっすらもう一人の感情を感じるので、リリアンヌが自分の身体から追い出された訳では無いようだ。
少しホッとする。
私自身かなり感情が豊かでリリアンヌになってからの毎日は怒りの連続なのだか、そんな時でもリリアンヌ本人からは怒りの感情は伝わってこない。
伝わって来るのは、ほんの少しの悲しみだけ。
こんな酷い事をされたらもっと怒っていいんだよ。
悲しんでいいし、泣いていいし、信頼できる人に助けてって言っていいんだよ。と、心の中でリリアンヌに語り掛けてみる。
フルフルとリリアンヌの心が震えているのが伝わってくる。
こんな当たり前の事を誰も彼女に教えてあげる人は居なかったのかと新たな怒りが込み上げてくる。
これも何かの縁!
リリアンヌという美少女を私が助けてあげなくては!と使命感に燃えていると。
父親である公爵様が帰ってきたとの知らせが入った。
アンを通して時間を取って欲しいとお願いするとすぐに執務室に来るようにと許可がでた。
アンに紅茶まみれの制服を持って貰い父の元へ。ノックをして中に入ると父と母が居た。
ソファに座るよう言われる。
やっぱり母は泣いている。
「お忙しい中お時間を取って頂きありがとうございます。」
「あぁ、私も話があるのでちょうど良い。まずはリリアンヌ、今まで気づいてやれず済まなかった。」
と頭を下げるリリアンヌの父。
父が頭を上げたタイミングでノックがあり兄が入って来た。
改めて話し合いである。
「先日リリアンヌが少し嫌な事があったと言っていたであろう?
リリアンヌがそんな事をい言うのは初めてだったので次の日から調査の為にリリアンヌに人を付けていたのだよ。」
「それで父上、リリアンヌに何があったと言うのですか?」
「あぁ影の報告ではリリアンヌは学校で殿下やその他のご令嬢にしつこく嫌がらせを受けている。
特に殿下は毎日しつこくリリアンヌを罵り無能扱いしているそうだ。」
「「えっ!」」
「そして今日は王太子妃教育を兼ねた王妃とのお茶会であった。そこで王妃もリリアンヌを罵倒し、扇子を投げ付け紅茶をぶちまけ公爵家には決してばらさぬ様に命令したそうだ。
後ろの服の染みはその時かけられた紅茶の染みだね?リリアンヌ?」
「はい、そうです。」
「頬の傷は、扇子で付けられたものだね?」
「はい、そうです。」
「あぁどうしてもっと早く言ってくれなかったの?メソメソメソメソ。。。」
そう言ってまた泣く母。
母の言葉にリリアンヌの心がフルフルと悲しんでいるのが伝わってくる。
「リリアンヌを責めるのは止めなさい。気づいてやれなかったこちらの責任だ。」
リリアンヌが愛されていない訳では無いことに安堵しつつも。
「は~~~~~~」思わずため息が出る。
「どっ、どうしたリリアンヌ?」
「少し私の話を聞いて頂いても?」
「あぁもちろんだ。」
「まず何から申し上げれば良いか…悩むところではありますが、リリアンヌの身に現在何が起こっているのか、家族である皆さんには正確に知って欲しいと思います。
ですので、私が今から話す事は嘘偽りの無い事を誓っておきますね。」
「う、うむ。誓わなければならぬ事がリリアンヌに起こっていると言うのだな?」
「はい。」
私は1つ頷いて深く息を吐き考えを巡らせる。はて、何処から話すべきか?
やっぱり私がリリアンヌになってからの事を順に話すのがいいか!と思い、話を始める。
「先日、そうですね、私は気が付くと1人の男子学生に地味だの辛気臭いだのと罵られていました。
状況がよく分からず、取り敢えず目の前の学生は放置して足の向かうままに進み馬車に乗って帰ってきました。
リリアンヌの記憶は有りますが、今リリアンヌとして話している私は彼女ではありません。」
「「「えっ!!!」」」
「それはどういう………??」
皆が理解し受け入れられるまでしばし待つ。
「受け入れ難いとは思いますが、今は一旦受け入れて頂くしかないかと。」
「う、うむ。では今リリアンヌとして話している貴方はいったい誰なのです?」
「リリアンヌ!リリアンヌはどうなったの?」
公爵の話を遮って、我に返った母親が叫んだ。
「落ち着きなさい。オリヴィア。」
「ですが、確かにリリアンヌでは無いと言うのなら貴方は誰でリリアンヌはどうなってしまったと言うのですか?」
心配そうにリリアンヌの兄が聞いてくる。
「まず、私にはリリアンヌの悲しみが伝わって来ます。学校や城で私が罵られ虐げられている間、私とは別の感情を感じます。今もここでフルフルと悲しんでいるのが分かります。」
そう言って桜は胸の辺りに手を当てた。
「私は気が付くとこの身体になっていました。自分の子供よりも若いこの子リリアンヌが毎日苛められていることに、もう腹が立って腹が立って。」
と思い出して怒っていると。
「自分の子供よりも若いこの子…………。」
皆が呆然と桜の言葉を聞く。
皆の様子を見て、我に返った桜は自己紹介する事にした。
桜様、慰めるはずがめちゃ怒っとります。
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