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【完結】太陽の拳  作者: 月待 紫雲
エピソード11
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けじめ

「……やれやれ。危ない橋は渡りなれてるやつにやらせるに限るぜ」


 ブレイドは肩の荷が下りたとばかりにため息を吐いた。


「横やり入れて悪いな、ローレル」

「いや、別に構わないが。どうしてこんなことを」

「ちょいと、リベリアに頼まれてな。知り合いなんだってよ」

「リベリアにか」


 ブレイドの敗北にリベリアの不在。

 予想できないことではなかったが、やっと理由を知ることができた。

 リベリアのために、ブレイドは動いていたのだ。


「……すまなかった」

「え?」


 突然謝られて、思わず首を傾げてしまう。ブレイドが謝るなんて、自分の耳を疑ってしまうほどだ。


「純粋に闘いをしていただけのお前を。お前の闘いを汚すようなことしちまった」


 瞳は真剣そのもの。苛立たしげに眉をひそめていた。

 慌ててリベリアも頭を下げる。


「私のせいなんです。ご主人様は悪くありません」


 わかっている。闘いのときは考えが巡ることがなかったが、今この状況を踏まえれば簡単なことだ。

 リベリアの知り合いであるシスルを、主人のような人間から解放するべくブレイドは何かしらの手を打ったのだろう。そして、アグニというあの男が動くためにはブレイドの技が必要だった。

 あのアグニは形式が好むきらいがあるらしい。無償で、何の形式もなく何かをするような人間には見えないのだ。正直言って、あまり好きになれそうにない男だ。

 ブレイドは言葉を紡ぎだそうとして、上手くできなかったらしく、やがて


「一発、殴れ」


 などと、突拍子のないことを言ってきた。


「は?」

「ご主人様!?」


 リベリアが驚いてブレイドを見る。

 当然だ。


「殴れ。そのほうが俺がすっきりする」

「……マゾヒストだったのか?」

「ちげーよ。お前ならわかるだろう、闘いをぶち壊しにするときの苛立ちっつーか、そんなもん」


 頭をかきつつ、ブレイドが俯く。

 そうか。ブレイドがおかしかったのは、そういうことなのか。

 闘いを生き甲斐としているブレイドにとって、生き甲斐をぶち壊すようなことをしていたのだ。自分の食らいつきたい想いを抑え込んで、リベリアのために動き続けた。

 飢えた獣が目の前の肉を食わずに捨てるようなものだろう。


「慣れねえことすんじゃねえな。すっげーイライラしてんだよ。殴られたらすっきりするかもしれねえ」


 殴られてすっきりするかどうかはわからないが、ローレルはブレイドの心中を察することが出来た。自分だって闘いを台無しにするような真似はしたくない。したくないから、降参などしなかったのだ。


「わかった」


 拳を握り締めて、ブレイドに近付く。

 ブレイドは目も瞑らずに黙ってローレルを見ていた。棒立ちで、防御する気もなかった。

 リベリアが間に入ろうとしたら、ローレルはリベリアに軽くウインクをして笑ってみせた。

 硬く握り締めた拳をブレイドの眼前に突き出す。そして、額へ指を弾いてやった。


「いや、殴れっつったんだが。なぜデコピン?」

「殴るのは闘うときにしてやる。だから罰はこれだけだ」


 ちょっとした優越感に浸る。


「私は優しいからな」

「胸張って言うことじゃねえ」


 ブレイドは踵を返し歩き出す。用は済んだ、そういうことだろう。

 しかし、歩き出して早々、ブレイドはローレルに振り返った。


「お前、実は結構……」


 何か言いかけて、口を閉じてしまう。


「なんだ?」

「……いや、なんでもねえ。楽しみにしてるぜリベンジマッチ」


 再び歩き出し、今度は振り向くことはなかった。

 ブレイドは何を言おうとしていたのだろうか。


「ん? リベンジマッチ?」


 ブレイドの言葉に疑問がわく。

 誰かにリベンジする予定はないが……ブレイドにリベンジはしたい。けれどトーナメントには。

 トーナメント。

 次の相手は、


「あっ」


 そう。

 もうハーメルンだ。

 勝ち上がってこれたのだ。もう、目標に手が届いたのだ。

 やっと、やっと……父の代わりに闘える。

 シスルの件があったからか、その事実は今更ローレルを緊張させた。


「…………父さん、来ちゃったよ」


 拳を握り締める。

 ローレルは、自分の声がひどく間抜けに聞こえてならなかった。


「そうだ」


 ブレイドが思い出したかのように手を叩く。


「お詫びっちゃなんだがローレル」

「へ?」

「決戦まで約一か月後だ。鍛えるの、ウチでやらねーか?」


 ブレイドの提案が嬉しいものだった。

 またウェイブを使えるようになるまでの日々のように過ごせるのだろうか。

 リベリアの表情がぱっと明るくなった。


「腕によりをかけて料理いたします」

「練習相手にもなるし、鍛えてやるぜ」


 ローレルは強く頷いた。


「頼む」

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