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【完結】太陽の拳  作者: 月待 紫雲
エピソード7
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エントリー

 決めたからには行動あるのみだった。

 ローレルは三つある大会のひとつが開催される、ドヴァホールにやってきていた。参加のための、チケットを買うためである。

 広い玄関で、ローレルは受付嬢に話しかける。


「チケットを買いたい」

「観戦ですか」

「いや、エントリーチケットを」


 ローレルの言葉を聞き、受付嬢はきょとんとした。


「貴女が? ハンズに」

「あぁ。別に構わないだろ」

「え、えぇ」


 受付嬢は疑うようにローレルの体を見ながら、渋々大会参加のチケットを出してきた。


「こちらチケットと……」


 そしてもうひとつ。


「今回のルールブックになります」


 小さな冊子だった。


「ルール、ブック?」

「はい。今回のハンズでは特殊な形式で行いますので、その説明が書かれたものです」


 チケットと冊子を確認し、ローレルは受付嬢に言われた金額を払ってその場を立ち去る。

 玄関を歩きながら、冊子を開いて読んでみることにした。


「タッグバトル、か」


 開催日はニ週間後。

 チケットは番号とアルファベットが書かれている。番号もアルファベットも二週間後に行われる二人一組でのハンズにおいて、そのチームを表すものだ。


 ローレルのチケットに書かれているのは78のKだ。名も知らない同じ78のKのチケットを持つ人間と組むことになる。

 ただタッグチームを組むわけではない。他にも特殊な条件があった。


 参加者には腕輪、コイン1枚、カード1枚が配られる。どれも中にICチップが埋め込まれ、大会の運営側で参加者を全員管理できるようになっている。腕輪には恐ろしいことに強力な爆弾が仕込まれているらしい。

 2週間後の大会には、参加者は巨大迷路に入り、出口を探す。出口の扉は固く閉ざされていて開かない。開けるにはコイン5枚かカード1枚を使わなければならない。出口にはコインとカードを入れる穴があり、コインを5枚入れればクリア、カードを1枚入れればリタイアになる。

 ちなみにコイン5枚でも、カード1枚でも入れて出口が開いたとき、2人以上で出ようとすると壁から散弾が飛んできて殺される。出れるのはひとりだけ、というわけだ。

 カードは別にいいだろう。問題はコインだ。最初1枚しかない。


 どうするか。


 簡単だ。出会った参加者から、殺してでもコインを奪い取ればいい。迷路をクリアした者には賞金が出る。大会でトーナメントに参加する権利を勝ち取れば二、三年は稼がなくても暮らせるような大金が手に入る。といっても、遊ばなければの話だが。それでも賞金が魅力的なのは変わりない。迷路をクリアしてからさっさと棄権してしまえば楽ができるかもしれない。

 もちろん、ローレルは棄権するつもりなどさらさらないが。

 冊子を読み終えたローレルはチケットと一緒にリュックに仕舞う。ランニングのとき、飲み物や重りを入れるために最近買ったものだ。小さく折りたたんで仕舞えるので、今まで使っていたバッグにこのリュックを入れることも可能だ。

 玄関で自動販売機を見つけ、スポーツドリンクを買い、これもまたリュックに入れた。ドヴァホールを出る。


 次に来るのは二週間後だ。


 帰りは走る。車もバイクも片腕のローレルには乗れない。運転の仕方もわからない。バスとタクシーがないわけではないが、金はできるだけ残しておきたい。ハンズはニ週間後までやらないつもりだからだ。

 歩道を走りながら、拳を軽く握ったり、強く握ったりする。

 二週間やること。それは筋力トレーニングだ。

 筋力トレーニングはただやれというわけではない。より強いパンチを打てるように、足腰を鍛えた上で拳も鍛えなければならない。

 ローレルにやれること。新しい攻撃方法を思いついてもすぐに実行できる体を作り上げる。今までサボっていたわけではない。重点的に、徹底的に磨き上げるための、期間にするのである。

 余計な筋力がつく可能性があるが、筋力トレーニングをしなくても良いなんていうものはない。ローレルはスポーツトレーナーではないから、どうトレーニングすれば必要な筋力がつくのかを詳しくは知らない。しかし、父に教わったものは忘れていない。柔軟な筋肉をつけるためのトレーニングは知っているし、イヤというほどやってきた。

 いつも通りやるだけである。

 ローレルはスポーツドリンクで適度に水分を取り、ひたすら走った。2時間かけて宿に戻ってきたローレルは自分が借りている部屋に入る。ベッドに寝転がり、深呼吸をする。

 最近は無理をしてしまってばかりいた。金が必要だったから。それはイルネスウォーに滞在するためでもあり、トレーニングに集中する期間をつくるためでもあった。

 今回は食事もちゃんと摂る。健康管理もしっかりする。適度に体に負担をかけ、適度に体を休め、ベストの状態で大会に臨むのだ。

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