-クソみたいな人生やり直し-
私は夏が嫌いだ。
「あっちい...」
蒸しかえる暑さに思わずため息が出る。
今日は7月15日、夏の一番暑い時期だと個人的には思う。
小さい頃は大好きだった夏なのに、高校生にもなると気だるくてたまらない。
私に夏に青春の文字の一つあればまた、考え方も変わったのだろうがこんなに暑い夏を世間はどう楽しめというのか。
こんな話の途中でなんだが、自己紹介といこう
御上 世莉兎(17歳)高校2年生「おかみ せりと」と読む。男みたいな名前だがピチピチのJKだ。
JKがピチピチとは言わないだろうが、そうでもして自己肯定感を高めないと夏のせいで湯鬱に押し潰されそうだ。
何度でもいうが私は夏が嫌いだ。
これは嫌いだった夏がさらに嫌いになるそんなお話。
ーーーー
私の住んでいる町は、なんの変哲もない田舎町。
スーパーも車の距離だし自販機の数だって限られている。
超がつくど田舎だ。
ただ、少しだけ自慢できるとすれば、海沿いの潮風が気持ち心地よい場所にある高校に通っている。
窓からぼうっと外を眺めるだけで1日が終わる。そんな学校。
全校生徒はなんと25人。小学校を改築した校舎だがここももうじき廃校になる予定だそうだ。
心なしか先生にもやる気を感じられないし、ただ、淡々と授業が行われるだけでなんの面白みもない。
まあこんな田舎で頑張ったところで見てくれるのはせいぜいジジババくらいだろうからな...
「せり!かえろ!」
「はるか 、もうこんな時間か」
私としたことがもう下校時間になっていた。
この子は御上 遥わたしの双子の妹。
私の唯一同じ血の流れている姉妹。生まれつき髪が真っ白で、小さい頃はよくいじめられていた。
家族で暮らしていた頃は、よく私に泣きついてきていた。
といっても今は別々の家に暮らしている。
父と母を早くに亡くした私達は別々の親戚に引き取られ父が残してくれた遺産のおかげで特に困ることなく暮らしてきた。
はずだが、遥の家ではそうもいかないらしい。
「また、あざ増えたよね」
「え?そうかな。あ、でもほら私ドジで何もできないから転んだときにできたのかも」
「そうやってまた無理して、なんで我慢するの?」
「私にとってはあそこが居場所なの、それ以外なんてないよ。でもほんとたまにね思うんだけど。よくある異世界転生みたいな話には憧れるよね。こう魔法の最強の剣とか持って悪の組織を打ち倒すみたいな。」
「なにそれ(笑)そういうのって普通男の子が主人公でしょ?遥みたいなかわいい子には無理なんじゃない?」
「もうまたそうやって、私だって正義のヒーローに憧れてもいいでしょ?」
「まあ今都会は女性の待遇も良くなってるって聞くし。卒業したら絶対こんな田舎出てやるんだから。そしたら私が働いてはるかは家のこととか好きなことして暮らせばそれでよくない?」
「私はそういう普通の幸せがいいな」
「ごめんなさい。それは無理かも。」
遥の顔が曇る
「...どうして?」
「おばさんがこんな気持ち悪い髪色でも、おじさんのお世話をするのにはちょうどいいんだって」
「どういうこと?」
「ほらおじさん、病気で仕事があまりできなくなったじゃない?私がいないと何もできないから困るのよ」
遥の義父は世間では有名な画家で、以前は裕福な暮らしをしていたが、今は病気の影響で収入も減っているようだ。
「そんなのあの人の自業自得じゃない。遺伝性の病気ならわかるけど、自分勝手な食生活してたからでしょ?そんなのほっとけばいいじゃない。それに弟はなにしてるのよ。」
「弟は、今年都会の学校を受験する予定だからそんな暇ないの。」
「そんなのおかしいじゃない。血の繋がった父親なんでしょ。なんで遥が面倒みないといけないのよ」
「そんなに怒鳴らないで、せり...大きな声は怖いの」
そう言いながらはるかは肩を抱えなが震えていた。
どうしてこんなになるまで気が付かなかたのか。私は唯一の家族すら守れないのか。。。
「そう、ならしばらくうちにいればいいじゃない。うちは海外出張で家にはいなし学校だって卒業まで一緒に通えば」
「せり、私なら大丈夫だから。うちがこの辺りでは力を持っているのは知っているでしょ?もし、そんなことしたら私達の帰る場所がなくなる」
「・・・っ。」
いわゆる村八分というやつだ。田舎では権力のあるものが絶対であるため、高校生二人くらい放り出すのも簡単だろう。
私は何もせず何も知らず、何も聞かずに今の現状をただ眺めることしか私にはできなかった。
「そろそろ日が暮れるし帰ろ」
ーーー
「せり、さっきはごめんね」
「え?なにが」
「いっぱい心配かけちゃったでしょ?」
「何も出来なんだから、心配したところで何も変わらないよ」
「もう、どうしてそんなこと言うの?それだけで私はうれしいよ」
「これじゃどっちが姉かわからないね」
「双子だもん一緒に生まれたんだからお姉ちゃんだし妹だよ!」
「そういうところ遥のいいところだと思う」
「へへ。あ、そうそうこれね似合うと思って。せりにもあげる!」
そう言って遥はヘアピンを差し出す。
「かわいいでしょ?私とお揃い!近所のおばあちゃんに教えてもらって作ったの!」
そう言いながらニコニコと笑ってヘアピンをみせた。
「ありがとう。大事にするね」
「これ、お守りだから。せりがずっと元気に過ごせますようにってつくったの。きっとせりのこと守ってくれるから」
「うん。わかった。」
今はただそう笑うしかなかった。まだ17歳で将来が決まっているなんて考えただけでぞっとする。
大人は大人になれば変わるなんていうけれどその大人が変わることを許さないのだから人生なんて自分じゃどうしようもできないのだ。
私は遥が幸せならそれでいいだけなのに
遥と別れた後、とぼとぼ家に帰る。
誰もいない寂しい家、あんな家でも家族がいるだけマシなのかな。そんなことをふと思う。
ベットに横になり、遥かにもらったヘアピンを眺める。
宝石のようなキラキラしたものがついた花の形のヘアピン。
私何も知らずにただぼうと生きてほんとにこれでいいのかな。
そのときぽろっとヘアピンからかけらがおちる。
「あっ ...いきなり壊しちゃった。」
幸いまだ、日が暮れる前だ。今から向かえば遥が直してくれるかもしれない。
こういう細かいこと私は苦手だし遥ならすぐに直せるだろうし。
そう思い自転車を走らせる。
夕方なのにまだ、風が暑い。
本当に夏は嫌いだ。
ーーーー
遥の家に着く
遥かの自転車が目に入った。無事帰宅しているようだ。
「はるか?いる?あのヘアピンのことなんだけど」
ドアを叩くが返答がない。
田舎だからかドアの施錠もしていないようで簡単にあいた。
「はるか?いないの?」
すると奥からのしのしと音がする。
奥から出てきたのはこの家の亭主。着物を着たデブできもいおじさん。
「あの、遥いませんか?聞きたいことがって」
「遥の姉か。勝手に家に入ってくるなとは教わらなかったのか?」
「いやでも呼んでも出てこないから鍵かかってかかってなかったし心配できたんです。」
相変わらず嫌味なおっさんだ。病気のせいか独特の体臭がする。
「遥は今忙しいんだ。それよりお前も双子だけあって顔はいいな体は遥より貧相だが。」
体を舐め回すようにみつめてくる。
「何が言いたいんですか?」
「なんでもない。とにかく奥にきなさい。遥はそこにいる。」
なんとなく嫌な感じがしたが。遥がいるならさっさと用事だけ済まして帰ろうとおもい。
奥に入った。
広い家だが掃除は行き届いており、おじさんがいなければいい香りのする家だ。
奥の部屋で掃除でもしているのだろうか。
おじさんがドアノブに手を掛ける。つんと汗のかりがする。
「はるか?ごめんヘアピンなんだけど...えっ...」
目に入ったのは白い布で吊し上げられたほぼ裸の遥の姿だった。
「え、どうゆうこと?」
「私は画家をしているだろう?遥には身の回りの他に絵の手伝いもしてもらっているんだ。」
今にも泣きそうな目でこちらを見る遥。口は布でむずばれており満足に助けを呼ぶこともできない。
そんな姿を見て沸々と怒りが込み上げる。
「は?ふざけるのも大概にしろよこのクソジジイ」
「養ってやっているのだから手伝いくらいいいだろう?誰のおかげで食べていけるおもっているんだ?」
「父さんの遺産があるはずだろ?おばさんが全て書類にサインしたはずだ!」
「遺産?」
「しらばっくれるなよ?遥が大学まで困らない程のお金だったと聞いている。なのにこんなことをさせるのか?」
「何を言っているのかさっぱりだよ」
こいつの行為には腹立っていたが本当に知らないと言った表情を浮かべる。
もしかして...
「あのくそばばあ!絶対○してやる!!」
「うるさいガキだな。はるかとは大違いだ。こっちの娘を引き取って正解だったな。」
そう言いながら遥の肌をなでる。遥は必死に助けを求める顔でこちらを見つめる。
その時何かがプツンと切れた。
その時、デブは書斎の奥に吹っ飛び。血を流していた。
自分でもなぜこんなに力があるのかわからなかった。
ただ、怒りに身を任せ何度も何度も男を殴った。息の根が止まるまで...
ーーーー
気がついた頃には全力で走っていた。泣いている遥を抱えていくあてもなくただただ、走り続けた。
走って走って走り疲れて、人生なんてどうでも良くなった。
その時涙が溢れてとまらくなった。
こんなに泣いたのはひさしぶりだ、自分が無力で何もできなくただただ、情けなかった。
「せり、ごめんね。ごめんねえ。」
遥もないていた。何も悪くないのに。こんな理不尽な目に遭わされてそれでも泣いて謝って。
どうすれば救われるのか。どうすればよかったのか。今になってもわからない。
遥を腕から下ろし、血塗れの手を見ながら後悔した。
「私は多分捕まる。これから一緒には生きられないと思う。でも、できるだけ一緒いたい。一緒に逃げようはるか」
「うん...ありがとう、私を助けてくれて」
泣きながら遥は笑った。
そこに遥の電話がなる。
「雪?いま...えっと...ごめんなさい。それは言えないの」
唐突に遥のケータイを奪い取りどなる
「お前、遥がこうなるまでいままで気が付かなかったのか?いままでなにしてたんだよ?」
自分のことは棚にあげ弟を罵る。
「ねえさんになにかあったのか...いつかはこうなる気がしてたんだ。父さんはさっき目を覚ましたからもうじきに、警察が動くと思う。」
今目を覚ましたといったか?いやでも確かに私は呼吸が止まるところを見た。人の目が色を失う瞬間を見たのだ。
「あいつ生きているのか?」
「あ、うん?女子高生に殴られた程度じゃ死なないと思うけど、それより今どこに」
「いうわけがないだろ?私ははるかとこれから逃げる。できるだけ遠くに。」
「僕もできるだけ協力する。だから、姉さんにあやまらせてくれないかいままでのこと。それから、今後のことも一緒に考えさせて欲しい」
「わかった。でもお前のこと信用したわけじゃないから。」
「 ...ねえせり?あれなに?」
ふと声をかけれら顔を上げる。真っ暗な夜の海に何かが動いている。なんなのかはわからないがとにかく気味が悪かった。
「ごめんあとでかけな ...」
「みーつけた」
いつの間に後ろにいたのか。黒髪のおんなはにんまりとこちらをみつめ笑っていた。
震える手で、遥を抱きしめる。
その時、暗闇に包まれ、何もかも飲み込まれた。