Sono3
新入生がいきなりVBSSでの戦闘を開始したらしいと言う噂は一気に校内中に流れた。
しかもそれが、五聖剣の三閃だったのが、さらに話題を呼ぶこととなり、上級生や、教職員までもが一目見ようとぞろぞろとVBSSのある中庭へと移動していた。
その人混みをテラスから眺めながら、勇者の子、クロス=リーリアはどこか退屈そうな表情をしていた。
「ねえ、リーリアちゃん! 早速戦闘が始まったんだって! 私たちも見に行こうよ」
五聖剣の戦闘になど興味なかったが、学校で初めてできた友達である#覡__かんなぎ__#=スピカの誘いを断るかけにもいかなかったので、傍に置いていた剣を腰に差すと、人混みを避けるため、中庭を一望できる屋上へと向かった。
屋上から、中庭を見下ろすと、確かに見覚えのある顔が一つと見覚えのない顔が一つそこにはあった。
一つは五聖剣のうちの誰かのものだと分かった。
もう一つは、黒い髪の少年だった。別にタイプと言うわけではないが、整った顔立ちをしており、多くの観衆に囲まれていると言うのに彼の目はどこか冷めているように感じた。
覡=スピカに聞いたところ同じSー1クラスの楪雷刃とSー2の三閃春都とのことだった。
三閃が楪に嫉妬して勝負を挑んだ。そんなとこだろう。
VBSSが起動する。蒼い光を放ち、歯車が回転を始める。次々に術式が展開されながら幻想空間が生成された。
すると、さっきまで芝生だったはずの地面は石作りのしっかりとした土台になり、周囲に生えていた木は石に変わっていた。
「恥かかせてやるぜ」
と三閃は既に勝ち誇ったような顔で剣を抜くと、上段に構え相手の方をじっと睨んだ。
古臭い流派だが、今、研究されている魔術と剣術の融合流派なんかよりはまともな戦い方だと言えるだろう。
黒髪の少年も剣を抜いた。
これは、流石に三閃なんちゃらくんの勝利だろうと、立ち去ろうとしたところで、その抜かれた剣が目に入り、口を手で塞いだ。
鞘から顔を出したのは、大型の剣だった。
刃の中心あたりに大きな歯車のついており、内部では小さな歯車がひしめくように埋め込まれている。
剣中を無数のコードが絡まるように接続されていた。
その不可思議な剣を見て、周囲は「なんだあれ?」とざわめいたがクロス=リーリアはその剣を知っていた。
「……#七星機械武器__ディッパーズウェポン__#」
あまりに希少なもののため、名前まではわからないが、東側の人間の結晶であり、最高傑作とも言われる七聖シリーズのうちのどれかだ。
詳しいことは判明しておらず、何を原料に動くのか、どうやって作られたのか未だに謎の多い剣ではあるものの勇者を勇者たらしめる絶対的な力を秘めた剣なのは間違いない。
黒髪の少年が剣をぎゅっと握ると、側面の大きな歯車が飛び出し、回転を始める。すると、#鍔__つば__#の間から勢いよく蒸気が吹き出し、小さな歯車も回転を初め、低い駆動音が唸った。
それに伴って、どういう原理かわからないが、少年の襟足が青く変色した。
「な、なんだ? それは。そ、そんなおもちゃで戦おうって言うのか?」
三閃は余裕そうな表情を見せようとしていたが、その表情は焦りを隠しきれていなかった。
よく見ると、足が小刻みに震えている。
楪が、剣を振り下ろした瞬間、地を切った。爆風。ものすごい衝撃波が起こる。
爆風は、VBSSを貫通しこちらの方にも吹き荒れた。
皆一瞬、目を瞑ったが、再び目を開いた時には、決着がついていた。
見れば、三閃の足の間には地面に亀裂が走っていたおり、三閃はぺたりと、座り込むように倒れていた。
無理もない。石畳から元の草原に戻っていることから、これはVBSSの見せる幻想ではなく、本当に地面が切れているのだ。
「ひえっ……」
三閃は激しく上下に肩を揺らして呼吸していた。
過呼吸と恐怖ででまともに喋ることができないようだ。
「どうしたんだ? まさか、逃げないよな?」
楪はどこかさっきよりも楽しそうな顔で座り込む三閃の元へ歩いていく。
「あーあー、そこまでそこまで。全く、やりすぎだ」
勝負を見かねたSー2クラス担当である皇先生が、仲裁に入ったところで、私は、いい友達ができそうな気がして、楪雷刃の元へ向かうことにした。