その2
「やあ、楪くん……だっけ?」
HRが終わり、俺とアスタで帰ろうとしている時、後ろから声をかけられた。
「……なんだい三閃春都くん」
そこに立っていたのは、五聖剣の1人、三閃春都だった。確かSー2クラスだったはずだ。
「よく知ってるじゃねえか。なあ? 一体どうやって入学したんだ? コネか? それとも裏口入学ってやつか?」
馬鹿にするような、感情の入った声で俺に詰め寄ってきた。
「初対面だというのに、失礼な奴だな」
俺がそう言うと、周りの注目が集まっていることに今更気がついたのか、春都は顔を真っ赤させてこちらを睨んだ。
「ほっとこうぜ自分だけSー2だったことへのやつ当たりだろ。こんな奴と関わるのはこいつと同程度だと認めるようなものだぞ」
アスタの言う通りだと思い、一緒にその場から離れようとしたところで、春都は焦った様子でこう言った。
「何も根拠がないってわけじゃねえ。なんだよあの勝率0って」
「勝率0……?」その言葉は周囲にいた生徒の関心を大きく刺激した。
その途端、あちこちで「ああ、それなら俺もみたぜ」とか、「じゃあ、やっぱり裏口なの?」と根拠のない推測や嘘が囁かれ始めた。
どうやら、クラス発表の際、隣に勝率が書かれていたらしく、それがこの空気をさらに悪化させてしまったようだ。
すっかり、場の空気を支配し、いい気になった春都が、「俺がSー2でお前がSー1なわけないんだよ! VBSSで恥かかせてやるよ。まさか、逃げねえよな?」と追い討ちをかけているつもりなのか、俺に詰め寄り、挑発してきた。
正直、入学早々こういう奴の相手をするのは嫌な意味で注目を浴びてしまうので避けたかったが、周囲の空気がそれを許してはくれなそうだった。
それに、ここで引いてしまうと、俺のみならず、一緒にいたアスタにもあらぬ噂を流されかねないと思い、「いいだろう」と渋々承認したのだった。