第八話
けっこう深刻に思い悩み、決意するマックスハイムのことなどつゆ知らず。
アーデルハイトは、翌日から早速、盾持ちとしての訓練を始めた。
今まで使っていたおもちゃの盾。これは部屋に飾っておいて、新たに屋敷の護衛が使うような装備を借りて。
ちゃんとした装備で、練習を開始する。
庭に出たアーデルハイトは、盾を構える。
正面には、木で出来た人形。一般的に、武器を打ち付けて攻撃の訓練をするものである。
そんなものを用意して、なぜか盾を構えるアーデルハイト。
「お嬢様。何をなさるつもりなのですか?」
奇妙に思ったクララが尋ねる。
「まあ、見ていなさいな。わたくしの、練習の成果を見せてあげますわ」
そう。アーデルハイトは、自分の技術に自信を持っていた。
今日まで毎日、ほぼ休み無く続けてきた『シールドバッシュ』の練習。
色々な状況を想定した型稽古。素振り。
その練度は、決して半端なものではなく。
習得したばかりの――盾持ち唯一のスキル『シールドバッシュ』の熟練度を高めていた。
「――シールドバッシュッ!」
盾を構え、突き出すアーデルハイト。木の人形に目掛け、体当たりするかのように。盾から突進していく。
そして人形と衝突した瞬間。
しっかり鍛え上げてきた『シールドバッシュ』が発動する。
このスキルは、本来は相手の攻撃を弾くだけのスキルでしかない。
けれどアーデルハイトは、それで満足していなかった。
弾く力があるのなら。その力を利用して『攻撃』も出来るはずだと。
そう信じて疑わなかった。
結果――爆発的なエネルギーを生んだシールドバッシュは。
バキィッ!!
……と、木の人形を粉々に砕き、吹き飛ばしたのである。
「は?」
その光景が信じられず、声を漏らすクララ。
木の人形だったはずの木片が。庭に、当たり一面にパラパラと落下する。
見事な破壊力により粉砕された人形の残骸である。
「えぇええええっ!? お嬢様ぁっ!? なななっ、なにをされたのですかぁっ!?」
「シールドバッシュですわ」
「いえいえっ! 私の知っているシールドバッシュは、こんな破壊力なんかありませんッ! せいぜい木人を転倒させることが出来るぐらいで、こんな、粉々に粉砕するようなスキルではありませんからっ!」
非常識なアーデルハイトに向かって。一生懸命ツッコミを入れるクララであった。
けれどまるで意に介していないアーデルハイト。
「つまり、わたくしのシールドバッシュがすごいってことですわね!」
なんて、のんきなことを言ってみせる。
「あああっ、もうっ! すごいとかそういうレベルの話じゃありませんっ! お嬢様のやったシールドバッシュは、もう、なんかシールドバッシュとかそういう次元を通り越しちゃっているんですっ!」
どうにか理解してもらおうと、クララは言葉を尽くす。そこまでして、ようやくアーデルハイトは気づく。
「……もしかしてわたくし、なにかやっちゃいました?」
「おもいっきり! やっちゃってますっ!」
クララに断言されて。ようやくアーデルハイトは、自分のシールドバッシュが非常識な破壊力を発揮したのだ、と理解したのであった。