第四話
翌日。侍女見習いの少女――クララは、陰鬱な気持ちで仕事をしていた。
まだ、正式に処分は下されていない。けれど筆頭侍女からは、恐らく解雇になるでしょう。と、言われている。
侍女見習いにようやくなれたというのに。お嬢様に怪我をさせて、しかも解雇されてしまうなんて。
なんてダメダメなんだろう。と、自分を卑下して嫌な気持ちになっていた。
そんな時だ。
「――クララ。こちらに来なさい」
筆頭侍女が、クララを呼びつける。
「はいっ!」
慌てて、クララは仕事も途中のまま呼ばれた方へと向かう。侍女たるもの、慌ただしく駆けては行けない。急ぎ足で、けれど走らず。
そうやって筆頭侍女のところへ行くと。そこにはなんと。
「――昨日ぶりですわね」
にっこりと笑う、アーデルハイトが居たのだ。
「おっ、お嬢様!?」
「口を慎みなさい、クララ」
注意されて、慌てて黙るクララ。そんな慌ただしい仕草が面白かったのか。アーデルハイトはくすくすと笑う。
「……昨日の事件についてですが。お嬢様が直々に、ご当主様へと談判して下さいました。よって、処分は保留とします」
「っ!?」
まさか、解雇されずにすむのでは? という期待がクララの胸の中に湧き上がる。
「ですが、あくまで保留です」
そんなクララをたしなめるように、筆頭侍女は話を続ける。
「これから貴女には、課題を与えます」
「課題ですか?」
「ええ。お嬢様の専属侍女として、仕事を全うしてみせなさい。それで失敗無く、無事にやり通せたなら処分は正式に無くすものとします」
お嬢様の、専属侍女。とても重い役割に、身体が強ばるクララ。
そんなクララの緊張をほぐすように。アーデルハイトは微笑みながら話しかける。
「ねえ、貴女。お名前は?」
「え、っと。クララでございます」
「そう。クララ、素敵な名前ね」
お嬢様に名前を褒められて。一瞬だけぽかんとしてから、すぐに顔が真っ赤になる。直々に、しかも名前を褒めてもらえるなんて。侍女の中でも、経験のある者はいないだろう。
アーデルハイトは、そんなクララの様子を見ながら話を続ける。
「安心なさいな。課題と言っても、いじわるする為のものではないのよ」
そもそも、この課題を提案したのはアーデルハイトなのだから。
「元々、わたくしは来年には専属侍女を選ぶはずでしたもの。その選定が少し、早まっただけですわ」
「ですが、その。私はまだ見習いで」
口答えのような言葉を発するクララを見て。筆頭侍女は眉をしかめるが、等の本人たるアーデルハイトが気にしていないのを見て口を噤む。
「専属侍女ですもの。歳の近い子の方が、何かと気を配らずに済んで便利ですわ。そして、年の近い子を選ぶなら。どうせなら、一から専属侍女として仕事を覚えてしまった方が効率も良いでしょう? ですから、この課題は貴女を罰するためのものではないの。あくまでも、緊張感を持って仕事を覚えてもらいたいから。そのための形式的なものですわ」
何やら小難しい理屈を立てるアーデルハイト。それにクララはどうにもついていけない。自分より年下なのに、やっぱりお嬢様はすごいなあ、とか思いながら。
けれど、どうやらアーデルハイトが自分を気遣ってくれているというのは理解できたので。
「ありがとうございますっ! 私、せいいっぱい専属侍女として頑張りますっ!」
元気いっぱい、気持ちをたっぷり込めて。思いっきり頭を下げて、感謝の言葉を伝えるのであった。
「ええ。これから末永く、よろしくお願いしますわ」
そんなクララを見て。自分はちゃんとこの子を守れたのだ、と。一つ自信をつけるアーデルハイトであった。