第十五話
「――もふもふですわ!」
意識を取り戻したアディは。まず、頭の下のやたらもふもふとした感触に驚いた。
「……村の特産品の一つ。もふもふの毛を使った枕」
そして。アディの疑問に答えてくれたのは。ベッドの傍らに座っているサラであった。
「まあ。こんなに柔らかいなんて。わたくしも欲しくなってしまいましたわ」
「そう。元気そうで良かった」
安堵し、息を吐くサラ。その表情の柔らかさに、アディは内心驚く。
いつの間にやら。態度の軟化しているサラ。何が起こったのだろう、と疑問に思いつつも。それより先に、確認したいことがあった。
「サラさん。ここはどこですの?」
「村長さんの家。貴女が意識を失ってから、ここに連れてきた」
言われて、アディは理解する。どうやら、廃坑から脱出した後。自分は気を失ってしまったらしい。それで、看病の為に村長の家の一室を借りている様子。
「ありがとうございますわ」
「いい。気にしないで」
優しいサラ。今までに無い態度に、アディは少しどきりとした。――これは、わたくし、仲良くなれたのかしら? と期待してしまう。
「他の冒険者は、みんな帰った。後はクララと、私だけ。もう夜遅いから、帰るのは明日にする」
「サフィラさんは?」
「アディの代わり。ギルドへ達成報告」
つまり。意識を失っていたアディの代わりに、リーダーとしての仕事を引き継いでくれたのだろう。
「それは――また後で、お礼を言わなければいけませんわね」
「うん」
そうして、話すことが無くなったのか。沈黙が場を支配する。
それが耐えきれなくなったのか。それとも、元から話したいことがあったのか。サラの方から、ゆっくりと口を開く。
「――ごめんなさい、アディ」
項垂れるようにして、頭を下げるサラ。出てきた言葉は、謝罪であった。
「私、貴族が嫌い。金持ちも嫌い。……悪いやつも、良いやつも関係ない。どうせ、誰も助けてなんてくれない。ずっと……そう思ってた」
サラの言葉は、どこか抽象的で。アディには、詳しいことは分からなかった。
けれど。サラにそれだけのことを言わせるような。何か嫌なことが過去にあったのだろう。と、想像することは容易かった。
きっと――昔のサラは。今よりもずっと素直だったのだろう。誰かの助けを待っていたのだろう。
そして、きっと裏切られたのだ。
「でも。アディ、貴女は違った」
サラは、力強く語る。
「あんな奴らのことも、助けようとしてた。怒ってもなかった。……ちゃんと、守ろうとしてた。そして、本当に助けてくれた」
「皆さん無事で、本当に良かったですわ」
アディは安堵の表情を浮かべる。それを見て、サラは頷く。
「そんな顔を出来る貴女だから。私も、信じられる」
すっかり態度の変わったサラ。全面肯定するような言葉を受けて。アディは、照れて頬を掻くのであった。




