第十二話
自分たちの言葉を聞かず、勝手に行動するアディを見て。
いよいよ、冒険者たちの怒りは爆発した。
「ふざけんじゃねぇッ!! おい、誰かアイツを止めろォッ!!」
冒険者たちは武器を構えて、アディへと迫ろうとする。
それを見て、慌てて構えるサフィラ、クララ、そしてサラ。
「ちょっと!? 何するつもりなのよアンタらッ!?」
「退け、ブルースターッ!! そいつをぶっ殺してやるッ!!」
「冷静になりなさいよッ!! アディを殺したってなんにもならないでしょうがッ!!」
「うるせぇ!! 巻き添えになって死ぬのは嫌なんだよォッ!!」
最早、説得の言葉は届いていない。アディの行動で、土砂崩れが起こるのは確定事項。それにより、自分たちが生き埋めになるのも確定事項。
と、冒険者たちは思い込んでいた。
サフィラは――アディが必ず成功する、とまでは考えていなかった。
けれど、脱出の手段はこれしか無い以上、任せるべきとも思っていた。アディのシールドバッシュなら。常識外れのアディなら。そんな期待もあった。
また、失敗するとしても。生き埋めになるリスクがあるのは認める。けれど、必ずではない。ならば何もせず、必ず死ぬよりは良い。と、考えていた。
そして――アディに賛成する者は他にも二人。
「お嬢様の邪魔はさせませんっ!!」
言いながら、構えるクララ。職業が『メイド』のクララが使うのは、暗器。服の各所に隠した武器を、徒手空拳に見せかけながら扱う。
日用品。ナイフやフォーク、スプーンに茶器。ナプキンすら武器として扱う、メイド特有の戦闘術である。
「……理解するべき。今は、これに賭けるしかない。嫌なら、対案を出せ」
さらに、アディへ味方する声を上げたのはサラ。短剣を構え、冒険者たちを威嚇する。
こうして――この中の面子でも上位にある三名に敵対されて。冒険者たちは勢いを失う。アディへと押し寄せる機会を失い、まごつく。
誰もが、命は惜しい。だからこそ暴走した。だからこそ三人の暴力に屈した。
ただ――それでも、アディを許せない、という気持ちの強い者は居た。
「クソがッ!! ふざけんなよッ!!」
冒険者たちの内、一人が足元の石を拾う。拳ほどのそれを、アディに目掛けて怒りのままに投擲。
「あッ!!」
「お嬢様っ!!」
「……っ!?」
意識外から来た攻撃だった。三人は防ぐことが出来ず、素通りさせてしまう。
投石は、偶然とも言えるほど見事に狙い違わず。アディの頭部に激突した!
「……ッ」
痛みが走り、眉間を顰めるアディ。けれど、集中は途切れさせない。盾に魔力を集めることは止めない。
頭部から――赤い血が滲む。じわり、と髪を伝って。アディの額を、瞼の上を。垂れて汚すほど、血がはっきりと流れていた。
いくらアディのステータスが高いとはいえ。冒険者たちも素人ではない。硬い石を、頭部に目掛け力一杯投げつけたなら。怪我を負うのは当然であった。
むしろ、頭皮が切れただけで済んだのだ。それだけアディのステータスが優れていたからこそでもある。
「アンタら!! いい加減にしなさいよッ!!」
「お嬢様に危害を加えるなど……許せませんッ!」
ヒートアップするサフィラとクララ。サラはまだ冷静なものの、この二人は完全に頭に血が登っていた。
今にも冒険者たちと衝突するか、といったところで。
「――問題ありませんわッ!!」
アディが、制止するように声を上げる。
「二人とも。わたくしは気にしていません。だから、落ち着いてくださいな」
「でも、アディっ!!」
「石ぐらいなんですか。それぐらい、わたくしは気にしていませんわ! ですから、皆さんの好きなようにさせてあげてくださいッ!!」
アディに言われて、サフィラは言葉を失う。また、クララもどうするべきか迷っていた。何度かアディと冒険者たちを交互に見て。最終的には、主の言葉に従う。
一方で、冒険者たちも困惑していた。アディに言われて。石を投げるだけなら自由に投げても良いと言われ。何人かが、自分も、と拾っていた石を見て。投擲を諦める。
どうぞ投げて下さい、と言われると。自分たちの行いがどうにも醜いことのように思えて仕方が無かったのだ。




