第十一話
誰もが絶望的な状況に項垂れる中。アディだけは、顔を上げていた。
「――ここまで来れたなら、まだ可能性はありますわ」
アディの言葉に、誰もが注目する。そんな中、アディは荒唐無稽な発言をする。
「この土砂を吹き飛ばしましょう。そして、道をつくるのですわ。そうすれば、脱出できます」
「んなこと、出来るわけねぇだろォッ!!」
冒険者達の中から、怒声が飛んでくる。
けれど、アディは臆せずに答える。
「いいえ。幸い、ここはかなり出口に近い位置のはずですもの。土砂をどうにか出来さえすれば、外に繋がるはずですわ」
「肝心の、その土砂をどうするつもりなわけ?」
問いかけたのは、サフィラだった。
「魔道士様なら、魔法でどうにかできたかもしれない。けど、そんな一流のコントロール技術のある魔道士、ここにいる面子には居ない。それに、一度崩れたなら、ちょっと土をほじくっただけで上からどんどん崩れてくる。キリが無いわ。それでも、アディは出来るって言うわけ?」
「ええ。出来ます。――わたくしが、やってみせますわ」
言って、アディが盾を構える。
「わたくしの、シールドバッシュで土砂を吹き飛ばします。上から崩れてきても、まとめて全部吹き飛ばしますわ」
「そんな、お嬢様っ! いくらお嬢様でも、無茶ですっ!!」
クララが止めるようなことを言うが、アディは首を横に振る。
「無茶ではありませんわ。やるべきことを、やれる者が、やるべき時にやる。それだけのことですわ」
「……リスクが高い」
続いてサラが苦言を呈する。
「今、無事な場所も崩れるかもしれない。だから、刺激するべきじゃない」
「ですが、それでは脱出など不可能ですわ」
「……必要無い。救助を待つべき」
サラの提案も、また一つの選択肢であった。冒険者が帰ってこないとなれば。恐らく村からギルドへ連絡が行く。そうすれば、ギルドから人が派遣されるだろう。
但し。その間、この場の全員が有毒ガスに晒され続けることになる。
「……恐らく、間に合いませんわ。ガスで倒れる方が、早いはずですもの」
アディの言葉に、サラは反論しなかった。サラ自身、理解していたから。恐らくギルドの救助は間に合わない。たとえ村の鉱夫がすぐに出動したとしても。的確に自分たちの位置を見つけ、掘り返してくれるとも限らない。掘り返す間にも時間は経過する。
救助に期待するのは、到底無理な相談であった。
「――ふざけんなッ! テメェの自殺に付き合うつもりはねぇぞッ!!」
不意に、そんな声を上げたのは。冒険者たちの中の一人であった。
「土砂を全部吹き飛ばすなんて、出来るわけがねぇッ! 死にてぇなら勝手に一人で死にやがれッ! 俺らまで巻き込もうとすんじゃねぇッ!!」
「そうだそうだッ! あんたの攻撃で、これ以上道が崩れたらどうしてくれるんだよッ!?」
「道だけじゃねぇッ! 俺たちだって、生き埋めになるかもしれねぇだろうがッ!!」
口々に、冒険者達が声を上げる。
そんな冒険者たちを。アディは順に見つめて、そして微笑む。
「それでも。生き残るには、これしかありませんわ。信じて下さい。わたくしが、皆さんを必ず守りますわ」
真剣な言葉。けれど、誰にも届く様子は無い。冒険者たちの怒りは収まるどころか、より高まっていく。
だとしても。――アディは、やるしかないと考えていた。
「……クララ。サフィラさん。サラさん。わたくしは、これから最大限のシールドバッシュを放つために魔力を高めます。冒険者の皆さんの統率は、一旦お任せしますわ」
そう語って。アディは一同に背を向ける。そして土砂へと向き直り――盾を構えて。
暖かな、金色の魔力を集め始める。




