第十話
村長から受けた忠告の一つ。廃坑が、冒険者の戦闘行為に耐えられるだけの強度が無いかもしれない、という話。
もしも廃坑が崩れた場合。連鎖的に、現役の坑道まで潰れるかもしれない。とも言っていた。
それらが――見事に、現実となってしまった。
「……別の道を探しますわよ!」
アディは、真正面の壁を見ながら。――つまり、廃坑と現役の坑道が交わる地点を埋め尽くす土砂を見ながら。別の道を探るよう冒険者たちに通達する。
廃坑同士も、小さな枝で繋がっている。だから、もしかすると他の場所から現役の坑道に戻れるかもしれない。
という希望を抱きつつも。最悪の場合を想定しつつ、アディは進む。
「……これ、ヤバい。どうする?」
アディに尋ねてきたのは、サラだった。真剣な表情から、事態が深刻であることが伺える。――サラにも、アディを邪険に扱うような余裕が無いのだ。
「どこか脱出可能な道が繋がっていれば一番ですわ。幸い、この辺りはガスが薄いようですから。半日程度なら、探索を続けても問題ないはずです」
「……そうじゃない。『無かったら』どうする?」
アディが、あえてボカした言葉を。サラははっきりと聞き返す。
つまり――脱出不可能だった場合、どうするか。
「――道が全て塞がっていても、まずは通気穴を確認しますわ」
言って、アディは天井に目を向ける。そこには、風の魔石が定期的に設置されている。どれも、残り魔力が少ないのか。弱い風を発生させるだけに留まっている。
――この鉱山は、有毒ガスが発生する地点がいくつもある。それらの場所でガスが溜まらないように。風の魔石を使い、ガスを外に排気し、新鮮な空気を吸気している。
これら通気用の排気、吸気穴もまた、人が掘ったものなのだ。当然、人が通れるだけの広さはあるはずであった。
「そして……それでも、道が無ければ」
「……無ければ?」
「わたくしが、何とかしますわ」
アディの言葉に、ため息を吐くサラ。
「はぁ。そんなの、無責任」
「かもしれませんわね。ですが、不可能なことを言っているつもりはありませんわ」
その言葉から察するに。アディには、何か策があるようだった。サラは、これ以上の言及は控える。最悪の状況を想定しすぎるのも、不必要に不安を煽ることになる。
策があると言うのなら。それを信じて、ここは黙っておこう。と、サラは判断した。
その後――結局、全ての道が崩れ、塞がっていた。
廃坑の途中が崩れて塞がった場所。現役の坑道が埋まってしまった場所。様々であったが、外に出られる道は一つとして残っていなかった。
これには、単に廃坑の強度問題だけではなく。そもそも、鉱山自体がクズ石まみれで崩れやすかった、というのも影響している。
元より、一度崩れたら連鎖的にあちこちが崩落する危険のある坑道だった、というわけだ。
何にせよ、道は塞がっている。
なら次は通気穴だ、と。アディは冒険者に指示を出した。人手を分けて、複数の通気穴を確認する。
だが――こちらもハズレ。坑道よりも、むしろひどい惨状であった。人が通る前提ではない為、舗装もされていない。故に、非常に崩れやすい状態だったのだ。
そうこうしているうちに――最後の一本。地図上では、最も出入り口に近い位置の通気穴に到達した。
既に、ここまでで数時間ほどの時間を使っている。廃坑のガスを吸い続け、気分を悪くした者も出始めている。――通気穴の多くが潰れ、ガスが排出されず、空気が流入しない為だ。
想定では、半日は大丈夫だろうと踏んでいた。だが、この調子だとそれも厳しいかもしれない。
重い空気が漂う一行。だが、最後の希望を信じ、通気穴を進む。
最初は、人間一人が通るのがやっとの穴だった。だが、進むほどに複数の通気穴と合流し、大きくなる。二、三人が並んで歩いても余裕があるほどだ。
次第に、これならば、という空気が漂い始める。随分長いこと歩いた為だ。この通気穴であれば、外に繋がっているに違いない、と。
そして――その期待は、見事に打ち砕かれた。
「……駄目、ですわね」
アディが声を漏らす。冒険者たちも、落胆を隠そうとはしなかった。
何しろ――目の前では、大量の土砂が道を塞いでしまっているのだから。




