第九話
「――シールドスラッシュッ!!」
次の瞬間。アディの盾から、光が弾ける。花弁のような光を散らしながら、魔力の刃が一匹のもふもふを通り抜ける。
「――キュッ」
短い悲鳴のような鳴き声を漏らして。びくりと身体を跳ね上げて。最後に、真っ二つになって。もふもふの子供は命を落とした。
途端に、もふもふたちは騒ぎ出す。目の前の存在が、敵であると。ようやく理解して、警戒の鳴き声を上げる。
「キイッ! キィッ!!」
「ッギィィイ……!!」
そんなもふもふたちを見下ろしながら。アディは意を決したように指示を出す。
「皆さん、くれぐれももふもふを逃さないように! ここで逃してしまえば、最悪の場合山で野生化してしまいますわッ!」
こうして――もふもふの子どもたちと、冒険者たちの戦いが始まる。
もふもふは、一斉に逃げ始める。アディ達の脇を、足元を。どうにかすり抜けて、この場を脱出しようと走っていく。
「――ハッ!!」
が、その大半はアディと、その仲間たち。サフィラ、クララ、サラの三人によって止められる。
守りを突破することが出来ず。廃坑の奥、行き止まりへと弾き返される。
だが――中にはギリギリで四人を突破するもふもふも居た。さすがに、数が多かった。
けれど、後ろには数多くの冒険者たちが控えている。
「オラァッ!!」
武器を振り回して、威嚇する冒険者たち。その攻撃の隙間を縫うように。必死に逃げるもふもふ。
だが多勢に無勢。一匹のもふもふの子供を仕留めるのに、何人もの冒険者が襲いかかるのだ。
到底突破できず、弾き返される。
「皆さん、その調子ですわ! ――シールドスラッシュッ!」
アディは順番に、もふもふを仕留めていく。この中で、もふもふを確実に仕留められる攻撃力を有しているのはアディであった。故に、他の冒険者はサポート中心に立ち回る。
あくまでも、もふもふを逃さないように。逃しさえしなければ、アディが確実に仕留めるから。
そうした理由で、連携も噛み合っていた。次々ともふもふは仕留められ、その命を散らしていく。
「――ちっ!! 抜けたぞッ!!」
一匹のもふもふが、ある冒険者の横をすり抜けていく。彼は、後ろに詰める冒険者に追撃を任せた。
だが――ここまで、優位に戦いが進んでいたのもあって。
優位すぎたせいで。この冒険者を突破するもふもふが、初めてだったのもあって。
その、追撃を任された冒険者は――気合を入れすぎてしまった。
「どりゃあぁぁあッ!!」
その冒険者は、斧を扱う男であった。スキルを発動させ、大ぶりでもふもふを仕留めにかかる。
そう――足止めではなく、仕留めにかかった。
「――キュッ!!」
咄嗟に飛び退くもふもふ。だが、男の斧は止まらない。未熟なスキルでは、軌道の修正すら困難である為だ。
発動し、十分すぎる威力の乗った斧が――廃坑の壁に突き刺さる!
ズゥンッ!! と、低い音が響く。
それと同時に――鈍い揺れが坑道全体に響き渡る。
まずい、と誰もが思った。明らかに、おかしな揺れだ。
けれど、今はもふもふを仕留めるのが先であった。
「止まりやがれっ!!」
一人の冒険者が、足元を抜けようとしていたもふもふを蹴り飛ばす。
これを――受け止めるように。アディが走ってきて、盾を構える。
「シールドスラッシュ!」
そして、切断。光が弾けて。ズバッ、と裂けるもふもふ。分断された身体がぼとり、と落下して。魔石だけを残して消えてゆく。
こうして――もふもふ討伐は完了した。の、だが。
「……まずいことに、なったかもしれませんわね」
苦い表情を浮かべるアディ。それは、他の冒険者たちも同様だった。
ただ一人。スキルで廃坑の壁を打った男だけは、顔を真っ青にしているのであった。




