第三話
「――安心して下さい、お嬢様。怪我はごく浅いものでした。適切な処置をすれば、傷が残ることはありません」
騒動を聞きつけた年かさの侍女が。アーデルハイトの傷の手当をしながら言う。
「ありがとうございますわ」
「いえいえ。お嬢様のお身体が無事であれば、それ以上のことなどございません」
言って微笑む年かさの侍女。
けれど次の瞬間。侍女見習いの方を振り向くと、鬼のような顔になって怒り出す。
これにはアーデルハイトもびっくり。
「――お前は、後でお説教です。侍女ともあろうものが、お嬢様を危険に晒すとは。あまつさえ庇われるなど、言語道断です!」
「……はい。もうしわけ、ありません」
しゅん、と落ち込む侍女見習い。
「相応の処分が下ることを覚悟しておきなさい」
「はい……」
相応の処分、と聞いて。アーデルハイトは気になった。
「その子は、どういう処分が下るのです?」
だから聞いた。けれど年かさの侍女は、誤魔化すみたいに微笑んで。
「お嬢様は、気になさらなくて大丈夫ですよ。心配ありません」
とだけ言って。本当のことは教えてくれなかった。
――その日の夜。気になって仕方なかったアーデルハイトは、父親の書斎を訪ねる。
レイヴンアロー公爵家のご当主。マックスハイム=レイヴンアローの書斎だ。彼はいつも自分の書斎で、夜遅くまで仕事をしている。とても仕事熱心な父親である。
「お父様。失礼いたしますわ」
ノックをしたあと、アーデルハイトは声をかける。
「おお、アディか。入りなさい」
嬉しそうに歓迎する声を上げて、マックスハイムは入室を促す。アーデルハイトは入室すると一礼してから、すぐに本題を切り出す。
「お父様に聞いておきたいことがありますの」
「うん。何をかな?」
「今日、侍女見習いの子が掃除道具をひっくり返してしまいましたの。わたくしは、その子をかばって怪我をしました」
「そうだね。その話は聞いているよ。傷が残らないそうで何よりだ」
安心した様子で頷くマックスハイム。
「それで、その次侍女見習いの子なのですが。どういった処分が下ったのですか?」
「処分、か。まだ詳細は聞き及んでいないが、恐らくは解雇だろう。主に庇われ、怪我をさせるような者は侍女にしておけないからね」
「まあ、そんなっ!」
アーデルハイトは息を飲み、驚く。だって、自分が庇ったせいなのだから。侍女見習いの子が、あっさり解雇されてしまうのは。
――こんなことではいけませんわっ! 守ったつもりで満足してはいけませんの。ちゃんと、最後まで守りきってこその貴族ですわ!
と、アーデルハイトは意気込んで。
「ではお父様。お願いがございますの」
大胆にも、マックスハイムにお願いをする。
本日最後の投稿です。
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