第七話
「必殺技、って!? 何するつもりなのさ!」
もふもふと睨み合いながら。サフィラが、アディに問いかける。
「言うよりも、見た方が早いですわよっ!」
言うと、アディは前へ出る。積極的に、攻めに転ずる。
敵と認識したのか。もふもふは反応して、アディに向かって突進する。
「ギシャァアッ!!」
「甘いですわッ!」
もふもふと、アディの盾が衝突する。強い衝撃を、アディの強靭な鍛え抜かれた足腰が。高いステータスが抑え込む。
そして――動きの止まったもふもふへと向けて。アディはスキルを放つ。
「シールドォ――スラッシュッ!!」
アディの盾に光が集まる。金色の、暖かな光が溢れ出る。
そして――光が、一筋の線となって。
ザクッ!! ――と、斬撃音を立てながら弾ける。
花弁のような光が飛び散り、金色の一閃と共に消えてゆく。
同時に、もふもふの身体が真っ二つとなった!
ぼとり、と地面に落下するもふもふ。血は流れない。魔物は普通の生物では無いから。断面から、魔力を光に変えて零しながら。ゆっくりと、砂が崩れるように。霧が晴れるように消えてゆく。
しばらくの沈黙の後。巨大なもふもふの身体は、跡形もなく消え去った。
その場に残ったのは――魔物の身体の中に生成される『魔石』という物体だけである。
「まあ。随分大きい魔石ですわね!」
その魔石は、直径十数センチほどのサイズがあった。通常、今回のもふもふと同程度の大きさの魔物であれば。魔石は五、六センチ程度のものが普通である。
つまり、この巨大もふもふがそれだけの異常個体であったという証拠でもある。
「……あ、アディ。これは?」
「あら、どうしましたの、サフィラ?」
引きつった表情のサフィラが、アディに話しかける。アディはその様子から、勝手に何かを察して話を続ける。
「ああ、この魔石はこの場の冒険者全員で売却益を分割いたしますわ。わたくしが独り占めするようなことはありません。安心していいですわよ」
「なるほど。いや、そういうことじゃなくてだなぁっ!?」
必死な表情で語るサフィラに、アディは首を傾げる。
「では、どういうことですの?」
「何をどうやったら盾で斬撃が出来るの!?」
「摩擦力が鍵ですわ」
「意味分かんないけど!?」
「……そんなことより。作戦は終了?」
呆れたような表情で。サラがアディに訊く。
「いえ。まだ、やるべきことが残っていますわ」
「ああん? どういうことだ?」
合流した冒険者たちの方から声が上がる。
「――今回の、もふもふの行動。少し、不可解な点がありましたの」
「不可解?」
「ええ。退路など、いくらでもありましたのに。あの魔物は、執拗にわたくしたちを攻撃してきました。事前に聞いていた情報とは異なりますわ」
アディの言葉を受けて、一同がそれぞれ気づく。確かに、もふもふの行動は不自然であった。鉱夫たちなら、少し襲っただけで退却していたはずなのに。迫りくる冒険者には、まるで使命に燃えているかのように挑み続けた。
いくら凶暴化した魔物とはいえ。ここまで行動に一貫性が無いのは奇妙だった。
「ですので、もう少し調査を続けるべきかと思いますわ。もう一度、全体で集合しましょう。その後――未探索の廃坑エリアへ探索に向かいますわ」
アディの言葉に、一同頷く。
その言葉の通り。地図には未完成な部分が存在する。もふもふの襲撃を受けて撤退した為、不完全となった領域があるのだ。
改めて、その領域を見ると。ちょうど一つに纏まっていて、何かがあると言わんばかりに見えた。
当初は、そこがもふもふの巣、縄張りのようになっているのだろうと考えていた。しかし――もふもふの行動に異常が見られた今。
そのエリアに、何かがあるのではないか。という懸念が湧き上がる。




