第六話
アディの指示通りに、冒険者たちは坑道を塞ぐような位置に分散していく。
そして、少しずつ。包囲を狭めて、もふもふを追い込んでいく。
どうやら各所で交戦しているようで、音が遠くから響いてくる。アディ達四人も、いつでも戦えるよう身構え坑道を進んでいく。
次第に交戦する音が近づいてきて――坑道が交差する地点まで来ると、はっきりと音が聞こえるようになった。
ちょうど、隣の坑道で交戦している様子。アディ達は、互いに顔を見合わせる。
「挟み撃ち、という形はどうでしょうか?」
「悪くないね。手っ取り早いし。けど、どっちかを抜かれた時に困る」
「ですわね。やはり、確実に行きますわ」
提案したのはクララ。けれど、その欠点をサフィラが指摘。アディも、サフィラの意見に賛成する。
「では、こちらにもふもふが抜けて来ないように。確実に封鎖いたしますわよ!」
そして、アディの宣言で、全員が身構える。
やがて、戦闘音が間近まで近づいてくる。時折、冒険者の罵声のようなものも響いてくる。
「――ちくしょう! なんなんだよこいつはッ!? いくらなんでも、しつこすぎるッ!!」
その声と同時に、一際大きい衝突音。それと同時に、坑道から真っ白な塊が飛び出してくる。
「来ましたわっ!」
いよいよ、もふもふとの交戦である。
飛び出してきたのは、体高で一メートル近い巨大な毛玉。柔らかそうにも見える、白い物体。村長から聞いたとおりの姿。巨大もふもふ。
「――シャァアッ!!」
もふもふは、アディ達の姿に気づくと威嚇の鳴き声を上げる。そして――即座に体当たりを繰り出す。
「させませんわっ! シールドバッシュ!」
アディが、これに応戦。盾を構え、もふもふの体当たりを受け止める。同時にスキルを発動。その勢いを受け止め、弾き返す。
確かに、重たい一撃。アディほどの練度があっても、かなりの圧力を感じるほどである。未熟な盾使いでは押し負けてしまうだろう、と言えるほど。
だが、今回は相手が悪い。アディのシールドバッシュは常軌を逸する。もふもふの方も、想像を絶する衝撃で弾き返され、体勢を崩しながら転がっていく。
「出るッ! ――ソードストライクッ!!」
その隙を逃さず。前に出たのはサフィラ。剣を構え、スキルを発動。
青い星のような煌めきを放つ、剣の一閃。
もふもふを、捉えたかのように見えた一撃。けれど、もふもふも反応が早い。即座に身体を転がして、無理矢理に回避する。サフィラの剣は、地面を抉るだけとなった。
だが、無理な体勢からの、無理な回避。続く攻撃を回避するのは困難であった。
「ダガーインパクトッ」
続いて、もふもふへ攻撃したのはサラ。短剣を構え、突きを放つ。スキル発動により、紫色の魔力の光が立ち上る。
そして、サラの短剣を茨のような魔力が包む。そのまま、サラはもふもふへと突撃。
「――くっ」
だが――攻撃が通らない。短剣の長さでは、もふもふの体毛を貫通することが出来なかったのだ。
衝撃で数メートル弾き飛ばされるもふもふ。しかし、本体にダメージは無い様子。すぐに立ち上がると、再び臨戦態勢を整える。
「――あんたらッ!! 気をつけろ、こいつ打撃が全然通らねぇ!! 刃物も半端な切れ味じゃあ毛に挟まって止まっちまうッ!!」
言いながら。もう一方の通路から、冒険者たちが姿を見せる。
先頭に立つのは、盾をフレイルを持つ重戦士。他にも片手剣を持つ剣士等、近接攻撃に特化した面子であった。
「――なるほど、打撃ではなく、切断でないとダメですのね」
助言を受けたアディは。ニヤリ、と笑みを浮かべて。
「ちょうどいいですわっ! この機会に、必殺技をお見舞いしてやりますわっ!!」
と、高々と宣言するのであった。




