第三話
「この通り、クズ石をヤマネズミは食べます。そしてある程度の量を食べると、毛が生え変わり始めます。半年ほど育てると、この通り『もふもふ』になるわけでございます」
「なるほど。石を食べてハリネズミになるように。この『もふもふ』は、クズ石を食べたヤマネズミの姿ですのね?」
「はい。クズ石が柔らかいからなのか。このもふもふの体毛は、とても柔らかい。触ると心地良い感触があります。毛を刈って利用することもあれば、もふもふ自体をペットとしても出荷しております」
つまり――この村は収入源を、もふもふに大きく依存しているということでもあった。
「ですが……鉱山が魔物に占拠されてしまいました。もふもふの飼育には、クズ石が欠かせません。このままでは、備蓄のクズ石もやがてなくなります。そうなるともふもふの飼育は出来ない」
「――深刻な問題のようですわね」
アディは、事態を理解した、といった様子で頷く。
「村長さん。討伐を村の方で試みたことはありますの?」
「はい。何度か、戦闘職に就いた村の者達で鉱山に入りました。が、その魔物は非常に賢く、不利になるとすぐに逃げます。……昔、鉄を求めてあちこちに坑道を掘っていたのもありまして。追い詰めるのも難しい、といった状態でした」
「逃がす前に、一発で倒すことは出来なかったの?」
今度はサフィラが尋ねる。が、村長はこれにも首を横に振る。
「無理でした。奴は非常に分厚い体毛で覆われており、生半可な攻撃ではダメージにもなりません」
「それは……随分と強敵ですのね。具体的に、どのような魔物ですの?」
アディが問うと、村長は意外な言葉を口にする。
「もふもふです」
「はい?」
「ですから、もふもふが坑道を占拠しているのです。……それも、かなり巨大な個体です。恐らくは、野生のヤマネズミの異常個体でしょう。それが鉱山のクズ石を食べ、もふもふになってしまった」
深刻な内容にも関わらず。もふもふ、という語感のせいで妙に和んでしまう。
「えっと……その、もふもふとは言え、ヤマネズミなのですよね? それなら、討伐は難しくないと思うのですけれど」
そう発したのは、クララ。しかし、これを否定したのはサラであった。
「それは甘い。ヤマネズミは、とても賢い」
「ええ、そのとおりでございます」
村長もサラに同意し、さらに説明を続ける。
「元々、ヤマネズミは弱い魔物です。故に、危険を感じると逃げる能力に関しては非常に高い。その上、もふもふは体毛のお陰で衝撃にも強い。火を使おうにも、坑道では酸素が足りない。もふもふだけでなく、こちらも窒息してしまいます」
「でしたら、無視をするというのは? 相手はヤマネズミでしょう? それなら、それほど危険でもないのでは」
クララの疑問に、これもまた村長が首を横に振る。
「なぜかは分からないのですが。坑道に住み着いたもふもふは、人が奥のクズ石を取りに向かうと攻撃してくるのです。……通常のヤマネズミなら、餌を置いてでも逃げるものなのですが。奥に向かおうとすると、何度も攻撃してくるのです。一度撃退しても、逃げてはまたすぐに襲い掛かってくる。とてもクズ石を採掘出来るような状態ではありません」
「なるほど。わかりましたわ。不思議な状況ですが、やるべきことは理解できました」
アディは言って、村長に確認する。
「目的は、鉱山を再び使えるようにすること。その為には、もふもふの撃退あるいは退治が必要ですわね。――村長さん。鉱山の、もっと詳しい情報を教えていただけます? 例えば、地形。注意しなければいけない場所など。どんな些細な情報でも構いませんわ」
「ええ、分かりました。では、詳しい話はまた別の場所で」
こうして、もふもふの畜舎から一同は離れていくのであった。




