第二話
村に到着後。アディ達は、早速村の代表者と面会する。
「ようこそ、冒険者様。ワシがこの村の村長です」
お辞儀をするご老人。なんでも、今回の依頼を冒険者ギルドに出したのもこの村長なのだとか。
「早速ですが、村長さん。状況を教えていただけますかしら。ギルドからは――村近くの鉱山が魔物に占拠されてしまった、と聞いていますが」
「そのとおりです。お陰で、この村唯一の特産品が生産出来ず、困っております」
「特産品、ですの?」
「ええ。ご覧になりますか?」
アディ達は頷く。村長の案内に従い、その特産品とやらを確認しに向かう。
向かったのは――畜舎。それほど大きくもない。牛や豚を飼っている、というわけでは無い様子。
「こちらで飼育しておりますのが、この村の特産品。その名も『もふもふ』にございます」
「もふもふ、ですの?」
首を傾げるアディ。他の三人も同様で、聞き覚えの無い言葉であった。
「言葉を聞いても、さっぱりですわ。実物を見ませんと」
「ええ、そうでしょうとも。もふもふは、実物の感触あってこそですから」
言って、村長は畜舎の扉を開ける。アディ達も、続いて畜舎へと入ってゆく。
「これが『もふもふ』にございます」
「まあっ!」
「これは……」
「かわいいですね」
一行が声を漏らし、畜舎にいた生物を見て驚く。
それもそのはず。畜舎に居たのは――真っ白で。ふさふさとした毛に覆われた、手乗りサイズの生き物だったのだから。
たくさんの飼育カゴの中で。その白い毛玉の生物『もふもふ』は元気そうに行動していた。
「これが『もふもふ』ですのね。なるほど、理解できました。この、柔らかそうな体毛を言葉で表した結果が、『もふもふ』という名前ですのね?」
「おっしゃるとおりにございます」
言って、村長は詳細を語り始める。
「この『もふもふ』ですが、元は珍しくもない『ヤマネズミ』という小さな魔物でございます。雑食ですが、木の実や昆虫を好んで食べる為、駆除されることも無い無害な魔物です」
「ヤマネズミ? あれってもっと、ガリガリの生き物だった気がするけど」
声を上げたのはサフィラ。これに村長は頷く。
「ええ。ですが、このヤマネズミという魔物は不思議なものでして。本当になんでも食べますし、食べたものによって体質も変わります。最も有名なのは『ハリネズミ』でしょうな。アレは、木の実と間違えて『石』を沢山食べたヤマネズミの姿なのです」
ハリネズミ、とは。身体に石のように硬いトゲトゲした毛の生えたネズミの魔物である。非常に珍しい魔物なので、捕獲するとコレクターに高値で売れる。
「ネズミが、石を食べますの?」
「はい、食べます。ヤマネズミは、いくらネズミとは言え魔物ですからな。顎の力も強く、歯も硬い。石なら砕いて食べてしまいます。……そうして、変わった餌を食べたヤマネズミは、その餌によって姿を変えることがあるのですが」
「この『もふもふ』も、そうやって育てられているのね?」
「ええ、おっしゃるとおりです」
サフィラが先に推察して。これを村長が肯定する。
「元々、この村は鉱山の鉄を目当てに集まった者たちで立ち上げた村でした。しかし、想定以上に鉱山の鉄は少なかった。すぐに枯れてしまい、鉄の出荷に頼っていた村の財政は苦しくなった。――そんな折、ある者が捕まえたヤマネズミに、鉱山で取れたクズ石を食べさせたのです」
「クズ石とは?」
「こちらです」
村長が、一つの飼育カゴを指差す。そこには、与えられた餌を食べるもふもふ。そして――エサ箱に入った、白い針状の結晶。
「鉱山からは、鉄よりもこのクズ石が多く産出されるのです。柔らかすぎるし、宝石のように磨いて装飾品にすることも出来ない。役に立たないわりに多く取れるものですから、みな気づけばこの石をクズ石と呼ぶようになっておったのです」
村長の説明を聞きながらも、アディ達はもふもふを観察する。もふもふは、エサ箱に近づくと。頭を突っ込み、クズ石を食べ始める。
カリカリ、と種でも齧るような音を立てて。クズ石はみるみるうちに量を減らしていった。




