第十三話
「……そうだ。せっかくだし、お近づきの印に良いこと教えてあげる」
「良いこと、ですの?」
「うん。冒険者ギルドの登録証って、紋章が刻んであるでしょ?」
言われて、アディとクララは登録証を取り出す。
「その紋章、実は職業選択や転職の儀で使うものとおんなじなんだよね」
「まあ。それはつまり?」
「その紋章を使って祈りを捧げたら、いつでもどこでも、レベルが足りてれば転職できるってこと。まあ、人生で三回までっていう制限は変わらないけどね」
――転職。それは、この世界における『職業』を変える以上の意味を持つ。
ゲームの世界と同様に。この世界でも、職業にはレベルがある。人がそれを確認する手段は無いのだけれど。経験を積んだ分だけ、レベルは上がっていく。
そしてレベルが最大にまで上がった時。別の職業へと『転職』が可能となる。
転職をするメリットは、以下のとおり。
一つ、ステータスの引き継ぎ。
転職により、レベルはリセットされる。けれどそれ以外のステータスは引き継がれる。つまり転職した数だけ、成長の機会は倍々に増えていく。
一つ、スキルの引き継ぎ。
それまでに学んだスキルもまた、転職時に引き継がれる。熟練度もそのまま。つまり、転職した回数と同じだけ、様々な職業のスキルが使えるようになる。
一つ、成長率の上昇。
下級職よりも、中級、上級職の方がより青稜しやすい。レベルを一つ上げた時の、ステータスの伸びが違う。
故に、最上級職を目指して転職をしていけば。自ずとステータスは大きく伸びていく。
そうした理由から。この世界の人々は、みなレベルを最大まで上げる。それ以上、レベルが上がらない状態を『マスター』したと表現する。
そして、職業をマスターすれば、誰もが転職する。より上を目指して。
なお、冒険者の登録章に紋章が刻まれているのは、冒険者にこそ緊急での転職が必要とされる可能性がある為である。
絶体絶命のピンチを。転職することで得たスキルや、高まった能力によって回避出来ることもある。
そうした理由もあって。冒険者の登録章には、常に転職可能なように紋章が刻まれている。
「良いことを聞きましたわ」
アディは、登録証の紋章を見つつニヤリ、と笑う。
「せっかくですし、試してみましょうか」
「いいんじゃない? 今の職業をマスターしてれば、職業選択の儀の時と同じ感じになるはずだよ」
サフィラにも促されて。早速アディは、転職をしたいと紋章に祈りを捧げる。
すると――アディの身体を光が包む。
職業選択の時と同じく。アディの瞼の裏には、光が飛び交う世界が映っていた。
「へぇ、マスターしてたんだ。すごいわね、その歳で」
感心したような、サフィラの声が聞こえた。が、アディは返事をするよりも先に。転職の為に光を選り分けていく。
あれでもない、これでもない。――自分が望む職業を求めて。
やがて無数の光が通り過ぎた後。ずっと奥の方で、暖かく輝く光を見つけた。
これですわ。わたくしの、目指す道は――。
と、アディは直感する。
そして――瞼の裏の世界の光を受け入れると同時に。
アディの身体を包んでいた光もまた、身体に染み込むように消えていった。
「終わったみたいね」
「アディお嬢様。大丈夫でしょうか?」
「ええ、クララ。問題ないわ。無事、転職出来ましたわ」
言って、アディは瞼を開く。
「それで、お嬢様。職業の方は何にしたのですか?」
「何を言っているのかしら、アディ。わたくしが選ぶとしたら、一つだけでしょう?」
自信満々に。アディは、常識からハズレたことを言い放つ。
「そう――わたくしが目指す職業。それは『盾持ち』ただ一つ。他の職業など、ありえませんわ!」
「……はい?」
言っている意味が分からないクララ。一瞬だけ呆けた後。アディの言葉の意味をよく噛み締めて。
「……え、えぇえええぇえ~~~っ!?」
と、叫び声をあげるのであった。




