第十二話
その後。大男は、ギルド職員により拘束された。さすがに酔っ払っていたとは言え、剣を抜いたのだ。注意される程度では済まないだろう。
そしてアディとクララは、この日は帰宅することにした。
騒動で疲れたのもあれば、初仕事をするにも半端な時間になってしまったのもある。
というのも、事情聴取の為にギルドで少しばかり時間を取ってしまった為だ。
開放されて――『三人』が一緒にギルドを後にする。
「まったく、災難だったわね、アディ」
「ええ。けれど、誰も怪我することなく終わって良かったですわ」
そう。アディとクララ。そしてサフィラの三人である。
「ところで――サフィラさん。少し気になったことがあるのですけれど」
「アイツに言われたことでしょ? いいよ、別に隠すようなことじゃないし」
アディが問おうとすると、自分から話し始めるサフィラ。
「元々、ブルースターっていう異名はアタシのお父さんのものだったんだ」
「お父様ですか?」
「うん。昔、けっこう有名な冒険者だったんだよ。アタシは、そんなお父さんと、一緒に仕事してたお母さんから冒険者の話を聞かされて育ってきた」
なるほど、と納得するアディ。
「サフィラさんの信念は、ご両親から受け継いだものだったのですわね?」
「うん、そうね。お父さんとお母さんが、いつも言ってた。冒険者は、自分の栄誉の為に仕事をするんじゃないんだ、って」
「そうでしたの。それで、ご両親は今は?」
その言葉に、サフィラは表情を少し暗くする。
「何年か前に、とある小さな村を魔物の群れが襲ってさ。そこで二人だけで村を守ろうとして……」
「そう、でしたの」
「二人揃って膝を怪我して引退しちゃったんだよね」
「あ、そっちですの」
引退で済んで良かったのか。あるいは、引退してしまったことを悲しむべきか。もっと最悪な状況を想像していたアディは、つい反応に困ってしまった。
「で、アタシもお父さんと同じ剣士になって、冒険者活動をするようになってさ。それからだよ。アタシがお父さんの二つ名『ブルースター』を引き継いだみたいになったのって」
「なるほど。事情はおおよそ分かりましたわ」
「うん。アタシとしては、まだまだ実力不足だって思ってる。だからあんまりブルースターって呼ばれるのは、今は好きじゃない。けど、呼んでくる人は呼んでくるし。名前が有名だから、指名依頼なんかも同世代の冒険者よりずっと多いし」
「それで、妬まれているんですのね」
「たぶんね」
サフィラの事情を、おおよそ把握したアディとクララ。なるほど、日頃自分の名を売ろうとしている冒険者からしてみれば。親の名前で有名になって、なのに名を売るなと説教するサフィラを見て。納得行かない者も出てくるのだろう。
「ですが――それは逆恨みですわ」
アディは、そんな冒険者たちの妬みを一言で切って捨てる。
「サフィラさんが、本当にお父様の二つ名にふさわしくない冒険者であれば。指名依頼というものも、継続して多く承ることなど不可能でしょう。そして、サフィラさんの言葉と、それを受け取った本人の実力、栄誉は別の話ですわ。いくらサフィラさんが説教したところで、素晴らしい冒険者であれば自然と名前が広まってゆくものでしょう」
「アハハ、そうだね。……そう言ってくれると、アタシも気が楽だな」
笑顔を浮かべるサフィラ。そして、アディに向き直る。
「――とまあ、色々あったし、お互い色々あるけどさ。これからも、よろしくね」
「はい。共に、立派な冒険者を目指す者として」
そうして――二人は握手を交わす。今度こそ、本当に。一連の騒動に決着がついた瞬間である。




