第三話
シールドストライク。要するに、シールドバッシュのエネルギーを一点集中。
鋭く尖ったエネルギーを飛ばすことで、ある程度の射程まで十分に殺傷力を保ったまま衝撃を飛ばす技である。
と、最早シールドバッシュなのかも疑わしいアレンジを経て。アーデルハイトは、十分すぎる攻撃能力を披露してみせたのだ。
「……お父様? どうなさったのです?」
「な、何を冷静に言っているんだいアディ。君がやったことは、前代未聞だよ。盾スキルを攻撃に使うなんて。そのレベルまで練度を上げ、工夫してみせるなんて。歴史上でも類を見ない偉業だよ」
「そうですの? でしたら、わたくしも中々のものですのねっ!」
無邪気に喜ぶアーデルハイト。そんな愛娘を見て、マックスハイムは項垂れる。
「全く、誰がここまでやれと言った」
「お父様ですわ」
「過去に戻って、私自身を殴ってやりたいよ」
「そんなことを今更言っても、もう遅いですわよお父様」
そう。とっくに手遅れ。アーデルハイトは、意味不明な方向へと走り出してしまったのだから。
戦うために、武器を扱う。それが普通だ。けれどアーデルハイトは盾を使うというこだわりがあった。だから、盾で攻撃するなんていう荒唐無稽な技を磨いてしまったのだ。
手遅れかどうかで言えば、間違いなく手遅れである。
「では、次に行きますわね」
「まだあるのかいっ!?」
「当然ですわお父様。この程度で冒険者が務まるとは、わたくし考えておりませんもの」
すでに合格点を与えるつもりだったマックスハイムは悲鳴を上げる。もう十分だ。あれだけの破壊力がある中距離攻撃を使えるなら。そこらの魔物相手に遅れを取ることは無いだろう。
そう思いながらも、ウキウキで盾を構える娘を見て。止める機会を失ってしまう。
「ここまでの攻撃は、全て衝撃によるもの。つまり打撃ですわ。けれど世の中には、打撃では打倒できない魔物もいるかもしれません。ですので、わたくしは盾による新たな攻撃方法を考えましたの」
どうしてこう、ストイックなのに。盾限定なのか、と。誰もがツッコミを入れたかった。そこまで努力できるなら、普通に武器を習えば良かったのに、と。
「参考にしたのは、刃物。包丁や剣といった斬撃武器ですわ。――これは最近学んだことなのですけれど。刃物がよく切れる為に必要なのは摩擦力だと。摩擦力が高い刃ほどよく切れて、脂で汚れると切れなくなるのは滑るようになるからだと。本に書いてありましたわ」
「誰だいっ!? そんな本をアディに読ませたのはっ!?」
すっ、と視線を反らすレイヴンアロー家の料理長。自分が渡した料理本の中に。包丁の手入れについての言及の中で。そんな感じの記述があったなぁ、と思い出した為だ。
「そして、わたくしは思いました。摩擦であれば、シールドバッシュにもある、と」
「どうして思っちゃったかな。盾に」
「だってお父様。シールドバッシュは敵の攻撃をしっかりと受け止めますもの。剣の一閃であろうと、しっかり、滑ること無く。タイミング次第で弾き返してくれますわ。これは、高い摩擦力が働いているとも考えられますわ」
突飛ながらも、筋の通った理屈を唱えるアーデルハイト。誰も、そこにツッコミを入れることが出来ない。話についていけない、とも言える。
「そうした理屈に従って編み出した技がこちらです。――シールドスラッシュっ!」
重装鎧に接近し、なんでも無いような仕草で盾を振るう。すると、盾から薄く圧縮されたエネルギーが放出される。
次の瞬間。重装鎧に到達したエネルギーは。まるで水でも斬るかのように。キィンッ、と音を立てて通り抜ける。
数秒の間の後。ゆっくりと、重装鎧は左右に分かれ、倒れる。
見事に真っ二つとなっていた。
「このように。さながら魔剣のような素晴らしい切断力を発揮することが出来ますわ」
「ああ、うん。分かったよアディ。君は本当にすごいんだね。私はもう、言葉も出ないよ」
「喜んでいただけて嬉しいですわ!」
常識はずれな結果に、もう唖然とする気も起きないマックスハイム。そんな気持ちを察することに失敗しているアーデルハイト。
そして。
――あぁ、ご当主様。心中お察しします。私も、最初はそうなりましたから。
と、二人の様子を見て思うクララであった。




