第二話
まず、アーデルハイトは普通に盾を構えた。重装鎧の一つに向けて。
そして、口頭での解説から始める。
「本来、シールドバッシュとは敵の攻撃を弾くだけのスキルですわ。ですから、他の戦闘職や魔法職と比べて、攻撃力に乏しい。いえ、皆無と言って良いぐらいですわ」
その解説に、集まった人々は皆疑問を抱く。何を当たり前の話を、と思った。マックスハイムも同様。盾のスキルは守るスキル。攻撃の為のスキルではない。
と――思ってるんだろうなぁ、と。心情を想像し、同情心のような気持ちを抱くクララ。
「ですから、私はこの点を工夫しました。どうせ弾くのであれば、敵をまるごと弾いてしまえばいい、と」
言って――姿勢を低く構え、重装鎧の一つに向かって突撃するアーデルハイト。
「――シールドアタックッ!!」
次の瞬間。アーデルハイトの構えた盾は、低い位置から打ち上げるように鎧へ直撃。同時に発動したシールドバッシュが、信じられない威力で鎧を吹き飛ばす。
重装鎧は、ベコベコに凹み、吹き飛ばされた。
使用人たちの、約半数が唖然としていた。
ここまでは、知っている使用人もいた。庭でよく練習していたからである。鋼鉄杭に向かって打ち込む姿を何度も見ていた。故に、庭が見える位置で仕事をする使用人には知られていることであった。
けれど、ここからである。ここからが――アーデルハイトが秘密特訓で開発した、恐るべき技の数々の本領発揮となる。
「ですが、この技には欠点があります。まず、普通はこんなタックルを決める状況などそう多くはありません。故に、実戦で使う場面があるとすれば。敵に迫られた、緊急時のみとなるでしょう」
すでに実戦まで想定しているのか。と、少し感心するマックスハイム。シールドアタックの件も、報告を受けて知っている。娘の才能に最初こそ驚いたが、今ではすっかり慣れてしまった。
そして、この程度では冒険者になることを認められないとも考えている。
魔物との戦闘を行う以上、危険は常に付きまとう。接近してのぶちかましのみが攻撃手段では、いずれ足元をすくわれる。
だから――そろそろ。いいかげんに。せめて剣や槍を習ってはくれないだろうか。
というのが、今日のマックスハイムの本心であったりする。
しかし残念ながら。娘アーデルハイトは親不孝者である。ささやかなマックスハイムの願いを、見事に打ち砕くことになるのだから。
「そこで、わたくしは更に考えました。シールドバッシュのエネルギーを、直接相手にぶつけることは出来ないか、と」
言うと、アーデルハイトは再び構える。重装鎧から十分に距離を置いて。盾だけを構え、その場で立ったまま。
「――シールドストライクッ!!」
叫んだ。
すると同時に。シールドバッシュが発動する。盾に集まるエネルギー。本来なら、相手との接触で開放されるはずのエネルギー。
けれど、アーデルハイトに限ってはそうならない。
エネルギーは盾に集まり、それでもまだ止まらない。さらに一点へ向かって集中。やがて点のようになったエネルギーは。アーデルハイトが腕を振ると同時に開放。
強烈な――重装鎧をベコベコに凹ませるほどのエネルギーが。さらに圧縮され、盾から解き放たれる。
距離は空いている。しかし、その分エネルギーは収束させている。
だから……盾から放たれたエネルギーは。数メートルは離れた位置にある重装鎧まで衝撃を伝えて。
その胸元を、ガリッ! という鈍い音と共に破壊してみせた!
「……な、な、なっ」
「いかがでしょうか、お父様。これがわたくしが考えた、武器戦闘レンジ向けシールドバッシュ。その名も『シールドストライク』ですわっ!」
自信満々に、良い笑顔で言ってのけるアーデルハイト。けれど、父の耳には届いていない。
「なんじゃこりゃあああぁぁああっ!?」
と、まあ。あまりの驚きに、マックスハイムは、叫ばずにはいられなかった。
本日最後の投稿です。
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