第十七話
アーデルハイトが、シールドアタックなんて技を披露している同時刻。
王宮の、ある一室にて。一人の少女が侍従から報告を受けていた。
「――そう。お兄様が、最下級職の少女に負けた、というのは事実と」
そんな言葉を漏らした少女。名前を、アリザ=エルランディア=クルスペイアという。
キールとは腹違いの妹であり、エルランディア王国の第一王女でもある。年の頃はキールやアーデルハイトとも変わらぬ十一歳。
同世代の令息、令嬢の情報収集をして。品定めをするのは当然の仕事。だからこそ、アリザもまた、キールとアーデルハイトの決闘の噂を聞きつけた。
しかし、あまりにも荒唐無稽な話であった。だから、真相を侍従に命じて調べさせたのだが。
「まさか、お兄様ほどの相手を打倒しうる者がいるとは思いませんでしたわ」
その言葉は、アリザの本心からの言葉であった。
アリザの職業は白魔道士。治癒系統の魔法と、光の攻撃魔法を少しだけ扱える職業である。系統が違うとはいえ、キールと同様の魔道士、故に、その実力の高さはよく理解していた。
アリザも、魔法の指導役から褒められることは多い。非常に才能がある、と。
それでもキールには及ばない。自分の受ける称賛以上のものを、兄が受けていることをよく知っていた。
そして、名に違わぬ実力の持ち主でもあると。
そんな兄が、倒された。
これが、噂の上級職に就いた男爵令嬢であれば。まだ、理解は出来た。しかし、実際に倒したのは盾持ち令嬢と噂される人物。最下級職に就いた、落ちこぼれと評判の少女。
兄も黙して語らない。噂は疑わしい内容ばかり。となれば、真実を明らかにせざるをえない。
そうしてアリザが侍従に指示した結果。アーデルハイトの噂は、違わぬ事実であると判明した。
曰く、信じられない出力のシールドバッシュを放つ。
曰く、無色透明の風魔法を簡単に回避してみせる。
曰く、キールの放った渾身の炎魔法を消し飛ばしてみせた。
まさか、噂がどれも真実であったとは。アリザも想像していなかった。
「――けれど、そう。それなら、いいわ。面白くなりそうだもの」
言って、微笑むアリザ。同世代で才能溢れる令嬢、令息は数多い。兄もその一人であり、自分もまた多大な期待を寄せられている。
そんな状況で――いずれ来る『学園』での生活に、思いを馳せて。どれだけ刺激的な日々が待ち受けているのか想像して。
「アーデルハイト=レイヴンアロー。その名前、覚えておきましょう」
と、誰に向けるでもなく呟くのであった。
「――くしゅんっ!」
ところ戻ってアーデルハイト。訓練中に、突如くしゃみを漏らす。
「アディ様。大丈夫ですか?」
「ええ、平気ですわ。急に鼻がむずむずしましたの」
言って、微笑むアーデルハイト。
「案外、誰かがわたくしの噂をしているのかもしれませんわね」
「うふふ、どうなんでしょう」
「きっとそうよ。わたくしに期待する、民の声が聞こえるようですわ」
言って腕捲くりをするような仕草を見せるアーデルハイト。
「さて。それでは次に行きますわよ! 今度はもっと、出力をコントロールしませんと……」
「アディ様。また何かやらかすおつもりなのですね……」
そうして、アディの修行の日々は続いていく。
以上で第一章が終了となります。
次回からは第二章『今更戻れと言われても、もう遅いですわ!』が始まります。
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