第十三話
キールとアーデルハイトが向かい合う。
二人を交互に見て、マックスハイムが宣言する。
「この決闘は、私、マックスハイム=レイヴンアローが見届ける。両者、異存は無いね?」
「はい、ありませんわ」
「あるわけ無いだろう」
ふん、と鼻を鳴らすキール。
「……アディ。事ここに至って、決闘を取り下げろとは言わない」
「はい、お父様」
「けれど貴族が決闘をする、ということの意味。それをよく考えなさい。これも……そうだね、勉強だ。代償の重すぎる、ね」
「……すみません」
迷惑をかけている、とようやく気付いて。アーデルハイトは目を伏せる。けれど、引く気は無い。
何がなんでも――キール様を謝罪させてみせますわっ! と、より強く意気込んだ。
「それでは、両者離れて」
マックスハイムに言われて、キールとアーデルハイトが距離を取る。
通常、決闘はある程度の距離がある状態から始まる。これもまた、盾持ちのアーデルハイトが上級魔道士のキールに不利な点である。
二人が十分に離れ、また向かい合う。それを確認すると、マックスハイムが宣言する。
「それでは――始めッ!」
マックスハイムの掛け声と同時に、アーデルハイトは駆け出す。前方――ではなく、斜め前に。
直後。アーデルハイトの立っていた場所に、風の刃が突き刺さる。
「――足は動くようだなッ!」
キールは言うと、続けて連続で風の魔法を放つ。
無色透明の風の刃。これが連続して、アーデルハイトを狙い撃つ。
アーデルハイトは走り回り、これを回避し続ける。シールドバッシュで弾く自信はある。けれど一発弾いても、また次がすぐに迫ってくる。
だから弾くために足を止めては、的になるだけ。それが分かっているから、小技は足で回避する。
やがて、しびれを切らしたキールが誘いを掛ける。
「これならどうだッ!」
言うと、キールは同時に風の刃を無数に放つ。逃げる場所の無い、全方位攻撃。
「――シールドバッシュ!」
アーデルハイトは、これを好機と見た。キールに向かって進みながら、正面の刃だけ弾く。
強い攻撃を放ったキールは、当然次の攻撃までに時間が掛かる。その隙を狙って攻撃をするつもりだった。
しかし、これもキールの作戦のうち。
「残念だったなァッ!!」
なんと、キールはもう片方の手から、渦巻く炎の魔法を放ったのだ!
実は、先程の全方位攻撃はブラフ。当たっても、引っかき傷にすらならないような弱い攻撃。
それを見せつけ、まるで攻めに入ったように見せかけたのだ。そうして前進してきたアーデルハイトを、本当に準備していた攻撃で打ち取る。と、いう作戦だった。
「――っ!」
完璧に、アーデルハイトの意表を突いていた。
慌てて盾を構え、足を止める。
「シールド、バアァァシュッ!!」
気合を入れて、力を込めて。魔法を受け止める構えを取った。
そうして――炎の渦と、小さな盾が激突する。