第十二話
アーデルハイトの発言に、キールは一瞬だけ気圧される。
が、すぐに気を取り直して睨み返す。
「お前、何様のつもりだ?」
「キール様。今の行いは、民の上に立つ者として恥ずべき行為です」
諭すように。一切の弁明を拒絶するように。はっきりと、アーデルハイトは述べていく。
「はっ! 何が民の上、だ。こいつらは家畜と同じだ。着るもの、食べるもの、住む場所。法律、文化、教育。何もかも、王族、貴族が与えてやったものだ。それを満足に使いこなせないようなら、躾が必要だろう」
「いいえ。民あっての貴族、王族。逆もまた同じです。互いに互いを補いあって、私たちは生きているのですわ。故に、我々は民を守らねばならない。民が我々を支えてくれるのと、同じように」
言うと、一層鋭く睨みつけるアーデルハイト。
「……だというのに。キール様。貴方は本来守るべき民を、自ら傷つけようとしました。あってはならないことをしました。――だから、このクララに、謝罪を」
「嫌だ、と言ったらどうするんだ?」
ニヤリ、と笑うキール。
「謝罪をして下さい」
一歩も譲らないアーデルハイト。
そんな二人を見て、騒動のきっかけとなったクララはと言うと。
「あわわ……」
自分が紅茶を入れるのを失敗したせいで、と。責任感から、どうにかしようと狼狽していた。
そして、しばらく二人が睨み合った後。キールが口を開く。
「そんなに僕に言うことを聞かせたいなら、貴族らしい方法があるだろう?」
「方法?」
「決闘だ。勝った者が、負けた者に言うことをなんでも聞かせられる。簡単な決着方法だ」
キールは言うと、嫌みったらしく続ける。
「まあ――どうせ口だけだろう? フン。所詮、その程度ってことさ。決闘を挑む勇気も無いのなら、でかいことを口にするのは止めるんだな」
言い負かしてやった、とばかりに言い切るキール。
けれど、アーデルハイトは全く負けていない。
「いいでしょう。受けますわ、その決闘」
堂々と宣言する。これには、キールも、成り行きをアワアワと見守っていたクララも目を見開く。
「私が勝てば、クララに謝罪して下さいませ」
「……ふん、いいだろう。今更、取り消しは出来ないからな」
こうして――あれよと言う間に。アーデルハイトとキールの決闘が決まってしまったのであった。
――そして。決闘の為に準備を済ませた二人が、庭へと出て向かい合っていた。
見物人はおらず。見届人として、アーデルハイトの父。そしてキールが連れてきていた使用人のうち二名が立っている。
アーデルハイトは、普段の練習着。盾持ちとしての標準装備。
一方でキールは、特に服装を変える様子も無い。
それも当然。キールが職業選択の儀で就いたのは『上級魔道士』。様々な種類の魔法を、満遍なく使える中級職。
魔法を主体で戦う以上、装備なんて無くても戦えてしまう。
しかも。キールは魔道士としては天才とも呼ばれるほどの才能があった。
特に炎と風の攻撃魔法は一級品。王宮を守る騎士でさえ、打倒してしまうほどの威力がある。
その実力もあって、キールは性格が最悪ながらも、軍部では評価が高かったりする。
そんなキールを相手に、立ち向かうアーデルハイト。装備は軽装で、得物は盾のみ。職業も最下級職。到底、勝てるとは思えないほどの実力差。
これも一つの社会勉強か、と見守るつもりのマックスハイム。王子のやることに口を挟めない使用人二人。そしてアーデルハイトが怪我をしないかと心配するばかりのクララ。
様々な視線に晒されながら――二人の決闘が始まる。