表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盾持ち令嬢の英雄譚  作者: 雨降波近
第一章 わたくし、また何かやっちゃいました?
12/48

第十一話




 第二王子、キール=エルランディア=フォーネスフルト。

 基本的に、王族は職業選択の儀を終えるまで社交界に顔を出さない。そして、キールの場合はアーデルハイトと同世代であり、儀式も王宮でひっそりと行った。

 故に、アーデルハイトは会ったことも無い相手であった。


 だが、その噂はこの一年で随分と広まった。

 曰く、侍従に無茶な要求をして虐待する男。

 曰く、家格の低い貴族を見下し、蔑んで笑いをとろうとする男。


 その悪評は枚挙にいとまが無く。アーデルハイトの盾持ちという悪評が霞むほどの不評ぶりであった。

 この一年、社交界に出ていなかった為、アーデルハイトは知る由も無かったのだけれど。


 そんな傍若無人な第二王子。王位継承権も二番目と、無理に媚びを売る必要もない相手である。

 そうした理由から、真っ当な親を持つ令嬢達は、しっかりと婚約話を断ることに成功していた。


 結果として今日までキールの婚約者は空席のままであり。

 そこにアーデルハイトが座る、というのも難しい話ではなかった。


 悪評のある者同士であるため、周囲からの反発も無い。

 アーデルハイト自身は優秀であるため、王家と深い繋がりさえあれば、後はどうとでもなる。夫となるキールの能力は不問。

 正にうってつけの相手であった。


 以上の理由が揃っていた為、アーデルハイトも断らなかった。自分の為に父が用意した縁談なのだ。貴族としても、これ以上にない縁談だとも理解できていた。


 そうして話はトントン拍子で進んだ。

 そう日を置かずして、二人は顔合わせをすることになる。

 お茶会、という形式で。アーデルハイトがキールを招く形で。




「――お初に御目に掛かります、キール様。アーデルハイト=レイヴンアローと申します」


 カーテシーをしながら、自己紹介をするアーデルハイト。

 その正面には、不機嫌そうな表情を隠そうともしない少年が一人。


「……ふん。僕がキールだ」


 作法も何も無い、ぶっきらぼうな挨拶。

 が、この程度は予想の範疇。特に指摘することもなく、アーデルハイトは流す。


「では、今日は貴重な機会を頂きまして、是非キール様にはお楽しみ頂きたいと思っておりますわ」

「そうか。まあ、どうでもいいけどな。僕はさっさと帰りたい。早く進めてくれ」

「ええ、かしこまりました」


 明らかに、お茶会を望んでいない様子。だが、それでもアーデルハイトは文句を言わない。


 そうして、アーデルハイトの案内で。屋敷のバルコニーに用意されたお茶会の席へと向かう。

 特に粗相をしなかったのに。あるいは、だからなのか。何か文句を言いたげにしていたキールは、不機嫌そうな顔をしていた。


 そうしてお茶会の席に着くと。専属侍女クララがお茶の用意を始める。


「キール様。今回の茶葉ですが、レイヴンアロー領内から取り寄せて頂いたものでございますの」

「どの程度のものだか」


 作法もへったくれも無い、キールの返答。けれどアーデルハイトは気にしない。

 今日はあくまでも、顔合わせ。お互いに知り合いになった、という事実が必要なのだから。


 ――が、お茶を淹れて、それぞれにカップが配られた時になって。


「あっ」


 クララが思わず、声を上げる。作法も無視して、キールがひったくるようにカップを持ち、口を付けたのだ。

 淹れたての紅茶を少しだけ口に含むと、すぐに飲み込む。

 そして――なんと、クララに向けてカップをひっくり返した!


「きゃあっ!?」


 さすがに、こればかりは看過できない。アーデルハイトは、厳しく咎めるような視線を向けた。


「キール様。何をなさるのですか」

「ぬるい。レイヴンアローでは泥水を紅茶と呼ぶ習慣でもあるのか?」


 適温を外してしまい、香りがぼやけてしまった紅茶。それを、キールは泥水と呼んだのだ。

 まだ、それはいい。アーデルハイトは、無礼については我慢ができた。


 けれど――理不尽な理由で、使用人を。自分の専属侍女を傷つけられたのは、我慢がならなかった。


「――謝罪して下さいませ」


 鋭く睨みつけながら、キールに要求した。

今回の話が本日最後の投稿です。

9月5日までは、この調子で一日4回の投稿が続きますので、宜しくお願いします。


面白かった、続きが読みたい等と思って頂けましたら、ブックマークと評価ポイントの方を下さるとありがたいので、是非お願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ