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第92話 コマチ・カワムラ

~紺野るりside~


私は皆さんとはぐれ、江戸時代のような繁華街の中へと吸い込まれるように不時着しました。


そこでは皆さん娯楽を楽しんでいて、とても表情が輝いていました。


すると私の事をジッと見つめ、何やら不思議そうにこちらを見ていました。


「見かけない顔だね。この妖魔の力は人間かな。」


「え…はい。人間でございます。」


「どうやら地獄界から攻めて来た罪人ではなさそうだ。ようこそ妖魔界へ。ここはヨシノガハラの町だよ。」


「言われてみれば奈良の街に似ているでございますね…。」


「奈良…吉野…ということは人間界からの旅人だね。ここでゆっくり娯楽を楽しんでってね。」


こうして人間に似たものの、ツノや翼などが生えた妖怪さんに歓迎され町の皆さんも私を警戒する事はなくなりました。


妖魔の力を感じたらしく、私は町の中を少しだけ散策する事になりました。


そこは妖怪の能力での的当てや木刀での武芸、人間の相撲と同じ土俵でのぶつかり合いなどがありました。


散策をしていくうちに本来の目的を思い出し、私は仲間の皆さんを探すと同時に七人将の手がかりを探しました。


するともう有力な情報が見つかり、私は少しばかり驚きました。


「そこの君。七人将となれば…コマチ・カワムラさまをお探しかな?」


「え…どうしてそれを…?」


「俺は(さとり)の妖怪だぜ。このくらいは朝飯前よ。それよりもコマチ・カワムラさまがこんなに人間の娯楽を妖魔界に伝えたんだ。西暦時代からの娯楽を我々妖怪に与え、退屈だった妖魔界を改革してくださったのさ。もし会いに行くのなら相当な妖魔の力が必要だぜ。ましてや妖怪ならまだしも、同じ人間に会うなら厳しいんじゃないか。」


「そうでございましたか。ありがとうございます。それで…どちらへ向かえばよいのでございますか?」


「そしたらあの繁華街の中央にあるコンサートホールに向かうといい。見た目は日本武道館に似ているから馴染みがあるだろう。」


「ありがとうございました。では…行って参ります。」


手がかりを見つけた私は武道館に似ているコンサートホールに向かいます。


移動中に町の皆さんは私を何故か不思議そうに見つめていました。


やはり人間がこの妖魔界に来ることはあまりないのですね。


コンサートホールにたどり着くと、そこには日本だけでなく世界中の妖怪たちが並んでいました。


「ジャパニーズニンゲンはここにいるのかな?」


「ジャパンの妖魔大王の部下でも偉い人なんだろ。こちらの国では共和制だから貴重だよ。」


「こちらは太古の昔には大王がいたが革命とかでいなくなったからなぁ。ジャパンの妖魔界は不思議だよ。」


「あの…ここで何が行われるのでございますか?」


「ん?ジャパニーズニンゲンかい?今日はコマチ・カワムラというアイドルのコンサートさ。もしかして人間界では知られていなかったりする?」


「あの…実は私も人間界ではアイドルをやっています。月光花というグループです。」


「月光花…?ああー!上海でも話題になっているよ!」


「マジ!?エジプトからも聞いているよ!」


「ルーマニアからも応援しているんだ!サインください!」


「あの…困りましたでございますね…。」


「あら、もう私の尋ね人が訪れたのね。」


「その声は…コマチ・カワムラちゃんだ!」


「あなたが…コマチ・カワムラさんでございますね…。」


「ええ、私が川村小町よ。花柳先生はお元気かしら?」


「はい。とてもお元気でございます。花柳先生をご存知でございますか?」


「私も彼のアイドルのファンだったのよ。月ノ姫の追っかけを妖魔界からやっていたの。西暦出身とはいえ人間時代が懐かしいわね。」


「ということは…あなたは元・人間でございますか?」


「うーん…まず私は一度人間としての人生を終えて輪廻転生するはずだったんだけど…妖魔界に魂だけでなく体ごと転生しちゃって、第二の人生がそのまま始まったってところかな。いわゆる異世界転生モノをそのままリアルで体験しちゃったってところかしら。他の七人将もみんなそうよ。妖魔大王さまが紀元前から新暦時代までの人間の中で妖魔の力が強い7人を幹部として集める必要があったの。そこで私たち七人将が選ばれ、元・人間として妖魔界を荒す罪人たちを地獄界へ還す役割があるの。」


「そんな厳しい役目があったのでございますね…。」


「でもまさかアイドルをもう一度やるとは思わなかったわ。新暦最初のアイドルだった頃が懐かしいもの。ところであなた、私のコンサートに共演してみない?」


「よろしいのでございますか?私もご一緒しても…」


「ええ。あなたのような救世主は歓迎よ。それにね…これはあなたにとっての試練でもあるの。」


「…?」


コマチさんはアイドルらしい笑顔と同時に、七人将としての威圧感のある強い女性の風格も漂わせ私に悪寒を覚えさせるように耳元でささやきました。


ライブに共演なのに試練とは何の事なのか私にはわからず、そのまま流れるようにコマチさんについて行きました。


するとステージは既に満席で、世界中の妖魔界に愛されているのが実感できました。


「さぁ、ここからが私のステージよ。そしてこれから…色欲に対する試練でもあるわ。果たしてファンのみんなを自分にメロメロにさせるだけでなく、いかに理性を保たせられるかしら?」


「それは…難しいでございますね。アイドルである以上、殿方に注目を浴びるのでございますから。」


「あら?誰も色欲そのものを否定するとは言ってないわ。いかに性に対して知識があっても、それを誰かを不幸にする性的欲求ではただの色欲であり淫蕩(いんとう)よ。それをいかに純潔を保ち、そして愛される存在になるかを試すの。あなた、ミス平安館にも選ばれたのだからいい試練のはずよ。」


「そういうことでございましたら…その試練を受けて立つでございます!」


「では…ライブスタート!」


私はコマチさんに背中を強く押され、そのままステージに立たされました。


妖怪たちは私に注目し、何やら怪しい素振りを見せる者もいました。


中には罪人たちも紛れているらしく、そこからアイドルが襲われる事案もあるらしいです。


すると罪人グループが私を見た瞬間にステージに乗り込もうとし、警備員の方が押さえつけようとしました。


「あの子可愛い…美女ー!今そっちに行くからねー!」


「こら!やめんか!」


「これってまさか…?色欲は誘う側にも原因があるということでございますか…?」


「触らせろー!あの子を触らせろー!」


「あっ!一人を取り逃した!」


「ぐへへへへへ…!」


「もしも彼に理性を取り戻すには欲望を弄んで満たすのではなく、心に打ちつけられる何かがあれば…っ!そういえばアルコバレーノの桃井さくらさんは…あれならきっと…!」


「やっと着いた…ついにアイドルに触れるぞ!」


「お待ちなさい。あなたは私の事がお好きになられたのでございますね。それはとても嬉しい事でございます。」


「へぇ…じゃあ触らせてくれるのか?」


「いいえ、私は皆さまと平等になる事は他の誰かを犠牲にしかねないでございます。ですが対等な関係でいられれば傷つくことは少ないでございます。もしあなたに対しても同じ対応をすれば他のファンの皆様はあなたに反感を買うでございます。そしてあなたはまた罪を重ね、私も悲しい思いをするでございます。もしあなたに心があるのでしたら…ここから立ち去り、元の場所で反省をなさい。それに…私はあなたが思うほど性的ではないでございますよ?」


「ああ…ああ…!俺の…アイドルに会いたいって気持ちは…初心を忘れて俺は…生前に酷い事をしてたんだ…!何で…あの子が欲しいがあまりにあの子を犯して不幸にさせて…自殺させて…!」


「やっと着いた!おい!地獄界に戻れ!」


「はい…!」


「あの子…あんなに理性をなくし、色欲に溺れた罪人を言葉の魔法だけでなだめ自分の純潔な心を保ったのね…。これならあの究極奥義もきっと…」


「さぁお戻りなさい。これが私の…究極奥義でございます。真・清水河川流ノ舞!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」


こうして私はコンサートのアクシデントに見舞われながらも新たな必殺技で罪人を地獄界に送り、ゲスト出演は成功に終わりました。


警備員の方にも感謝をされ、私はまた少しだけ妖魔の力を得ることが出来ました。


するとコマチさんは私に思いきり抱きつき、頭を撫でられながらお礼を言われました。


「あなた…色欲は相手に性的な事をするだけでなく、相手をそうやって誘いこむこともあるって気付いていたの?」


「はい。娯楽というのは遊んで堕落するだけでなく、道を間違えれば堕落させる側にも罪となると平安館で学んだのでございます。」


「さすが文武両道の超エリート名門校ね。ここまで七つの大罪に厳しいとは…。あなたは色欲の試練に合格した。それに罪人たちを改心させたし、ファンのみんなも荒れずに済んだ。本当にありがとう。これで心置きなくライブが出来るわ。ホロビノミコとの戦い、絶対勝ってね!」


「もちろんでございます!ではコマチさん、また人間界に遊びに来てください。」


「うん!みんなと再会できるといいね!また妖魔界に来てね!」


つづく!

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