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第90話 ベンケイ・ユキシロ

~冬野つばきside~


私は妖魔界に着いた瞬間、何かに引き寄せられるように皆とはぐれ北海道のような雪原に不時着した。


周りは白い雪だらけで猛吹雪ではないが視界が遮られるほどの雪が降り注いだ。


足元も雪で埋まっていて歩きづらく、前に進むのにも体力を消費した。


すると白い着物を着た銀髪の女性が宙に浮きながら優しく微笑み、私について来いと言わんばかりに後ろに下がった。


私は何かの罠だと疑ったが、贅沢は言ってられず女性について行った。


するとそこは…雪が少し治まっていて、かまくらや防寒用の木造建築が建っていた。


「ここは…?」


「久しぶりね。クラス替え以来かしら?」


「その声はもしや…雪代麗香先生ですか?」


「ええ。私の正体が雪女だって事はザイマ一族との決戦前に話したと思うわ。さっきあなたを見かけた時は驚いたわ。でもこうして信じてもらえてよかったわ。」


「そうでしたね。先程は雪代先生がいなければ私は今頃凍死していたでしょう。感謝します。」


「ここはアイヌニアの村よ。ここは雪や氷、寒気に強い妖怪たちが住む村よ。外に出すのは危険だからこの村で泊まっていきなさい。」


「感謝します、雪代先生。お言葉に甘えてこの村でゆっくりします。」


幸いな事に平安館女学校の地理の先生であった雪代先生に助けられ、私は凍死ぜず一命をとりとめた。


村人を見ると、そこにはかつて北海道で過ごしていた先住民、アイヌの服装を着ている妖怪が多く、寒さに強い毛深いものから薄着ながら氷や雪の妖魔の力を使うものもいた。


人間である私はこの寒気に対応できる服装ではなかったので、人間界の日本円で毛皮の羽織を購入し寒さを凌いだ。


寒さが落ち着いたと同時に私は七人将について村人に尋ねた。


するといきなり有力な情報が出たのだ。


「七人将って、あんたは知らないべか?」


「知らないとは…?」


「さっきあんたが出会った雪女おるだろ?レイカさは本来、雪代の姓を名乗ってないだよ。確か人間に嫁いでその姓になったべ。その雪代の姓を名乗る旦那さまこそが…七人将のベンケイ・ユキシロだよ。」


「ベンケイ・ユキシロ…。その方が雪代先生のご主人ですか。」


「んだんだ。ベンケイさまはとても大柄で力持ちで、そんでもって薄着だのに暑がりだがらこの村に住んで快適だど言っただ。そして薙刀を使えば百人力だと聞いただよ。あんた、ベンケイさまに何か用だべか?」


「はい。彼の力を借りて人間界に現れたホロビノミコを討伐するためにヒメギクと共に妖魔界を訪ねました。」


「そうか…んじゃあザイマ一族はあんた方が倒したんだべな…。わがっただ、ベンケイさまに会わせるだよ。ついて来るだ。」


「ありがとうございます。」


毛深い雪男風の妖怪は事情を話すとすぐにザイマ一族に勝ったことを悟られ、ベンケイ・ユキシロさんに会いに行く。


歩いていくとだんだん雪山になっていて、そこは私でも寒いと感じるほどの猛吹雪が吹いていた。


雪男の妖怪は平気そうに前を進み、私が凍えそうになると体毛で風を凌ぎ、温かくなるように守ってくれた。


目的の場所に着くと、そこは大きな洞穴(ほらあな)でクマが冬眠するにはちょうどよさそうなところだった。


「ここがベンケイさまの修行場所だ。ここでよく念仏を唱えて薙刀の稽古を積んでいるだよ。おらは邪魔にならないようここに残るだよ。」


「いえ、せっかくここまで案内してくださったので最後までご一緒にいてください。それに…この猛吹雪の中では私一人ではおそらく遭難するでしょう。最後まであなたのお力が必要かと思います。」


「お優しいんだな…。わかっただ、無理だと判断したら強引に連れて帰るだよ。」


「ありがとうございます。」


私と雪男の妖怪は洞穴の奥へと進み、寒波こそないが先程よりも寒く、肌だけでなく肺まで凍りそうだった。


上には氷柱(つらら)があり、上も下も危険だらけだとわかったので念のために妖魔変化をする。


そのまま最後まで進むと、そこには立派な寺院があり、一人の大柄な僧坊が念仏を唱えていた。


「南無南無南無南無…」


「この方は…?」


「シーッ…。今は仏法を読んでいるところだよ。」


「そうでしたか…。」


「南無南無南無南無…む?ほう、おいどんに客人とは珍しいでごわすな。さてはおいどんが招いた客人でごわすかな?」


「お邪魔してすまねぇだ、ベンケイさま。」


「よいよい、あんさんが冬野つばきでごわすな。おいどんたちの無念を晴らしてくれて感謝するでごわす。」


「あなたがベンケイ・ユキシロさん…。」


「どうでごわす。おいどんが雪代弁慶でごわす。うちの妻の麗香が世話になったでごわす。学校は楽しいでごわすか?」


「とてもいい勉強になってます。それよりもベンケイさん、折り入って話が…」


「よい。話は聞かずともわかるでごわす。ザイマ一族を倒した後、まさかアクドーをたぶらかしよったホロビノミコが現れたのであろう。あんさんを呼びよせたのはおいどんでごわすからな。仲間とはぐれさせてすまなかったでごわす。」


「ではあなたが私を…!」


「そうでごわす。あんさんにはちょっとばかし、理不尽な試練を与えるでごわすよ。これからおいどんと憤怒の稽古をつけるでごわす。逆らうことは一切認めないでごわす。」


「その試練…受けて立ちます!」


「では…ここに参るでごわす…ぬぅんっ!」


「ぶっ…!」


目の前に立てと言われてその通りにすると、突然ベンケイさんは私の左頬を思いきり張り手で叩いた。


あまりの出来事に私はただ呆然とするだけで、何も考えられなかった。


するとベンケイさんは何度も頬を往復で張り手で叩き、言った通りの理不尽な体罰が行われた。


さらには薙刀の柄で思いきり頭を叩かれ、私は徐々に怒りを覚えてきた。


おそらく殺意もその内湧いてくるだろう。


だがベンケイさんの目は潤っていて、手元は小さく震えていた。


おそらく一般の人間では理不尽さに怒り狂い、ベンケイさんを襲って殺しにかかるだろう。


これは人間の七つの大罪である憤怒を試す試練だと自分に言い聞かせ、私はベンケイさんの薙刀を私の薙刀で薙ぎ払い、素手で取り上げられても両手で押さえこんで大外刈りを決めた。


「ぬおっ!?」


「はぁ…はぁ…!ベンケイさん…普通の人間なら…あなたに対し理不尽な奴だと怒り狂い…殺意に溺れてあなたを葬るでしょう…。ですが…この私には…あなたが憤怒するかどうかを試していること…。私はもうあなたの心情を見破りました…。やりたくもないのに試練のために仕方なく理不尽に振る舞っていたこと…。そして…その理不尽にどうやって臨機応変に対応し…解決策を見出せるかを見極めることを目的としていたんでしょう…?」


「なんと…そこまでおいどんの心理を掴み、己の感情だけに支配されず最善の策を考えては行動したのでごわすか…!」


「おそらくこのような考えに至るのは…うちのメンバーで私含め全員だと思います。学力の高いわかば…心理戦や戦術に長けるひまわり…相手を思いやる心の持ち主のすみれ…年少ながら勘の鋭いもみじ…年長者として気遣いが出来るるり…そして人妖神社の巫女が故に妖魔の力が強くて相手の気持ちになって考えられるはな…。皆そろって別々ですが感情だけでなくどんな気持ちなのかをその人なりに考えられるのです。」


「月光花…なるほど。普通の人間であれば感情と憎しみに溺れ、憤怒して理性を失うがそこまでおいどんのことを見てくれるとは…。やっぱり同じ人間は面白いでごわすな。怒りに任せずにおいどんを倒しつつも事情を知っては許す器の大きさ…よし、おいどんの憤怒の試練は合格でごわす。だがそれで相手を思いやりすぎた故に自己犠牲をすることはあってなならんでごわす。それは理不尽に耐えるではなくただの自殺行為でごわすよ。そこんとこ見極めて正しい忍耐をするでごわす。何でもかんでも許したり見逃すといい気になって理不尽な事をするのでごわすから、状況を見て勇気を出して倒す事も必要でごわすよ。」


「はい!ありがとうございました!」


「んじゃあおらはこの子を送るんだな。ベンケイさま、また修行を続けるんだな。」


「おう、よろしく頼むでごわす。おいどんはもう少し忍耐力をつける修行をするでごわす。妻の麗香の事をよろしく頼むでごわすよ。では…南無南無南無南無…」


そう言ってベンケイさんと別れ、また彼はお経を唱え始める。


雪男の妖怪に村まで送られ、試練を突破した私は怒りのコントロールというのであろうか、怒り方を少し変えてみようと思った。


ただ怒るだけでは感情に支配されてしまうが、もしも大切なものを奪われたり、人として悪い道を進んだ場合、愛を持って訴えるように怒りをぶつけ、そして思いやりを忘れずに今後の良い方向へ進ませられたらよいものだ。


つづく!

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