第8話 恋とは
私はおそらく今までモテずに女性関係をこじらせてしまい、どうしても自分なりのステータスが欲しいと思ったあまりに暴走してしまった男の人を浄化すべく、みんなと同じ立場に選ばれる。
杖をいつものように構えると、魔物は刀を素早く振り下ろそうとした。
だが私は杖というこの上なくシンプルだが、使い勝手が非常にいいこの武器を振り回して盾にする。
魔物は不用意に近づけないとすぐに察し、そのまま後ずさりしたところに私は杖を魔物に振った。
「君のその気持ち、私にはわかるよ。君も異性と今まで縁がなかったんだろう?私も同性にモテるばかりで、異性はずっと私を避けてきたんだ。だがこうしていい仲間が出来た。君にだって出来るはずさ。」
「クソッ…ユメミタイナコトヲイウナ!オマエニナニガワカルンダ!オレハ…ミタメノセイデオンナニイジメラレ…キガツケバキモイアツカイサレ…オブツヲミルヨウニニゲルンダ!」
「そうか…なら浄化したときにゆっくり君の姿を見せてもらうよ!はぁぁぁぁぁっ!」
「グハァッ…!」
「藤野さん…凄い…!」
「やっぱり時代劇やってただけあるね…!」
「藤野先輩は私たちよりお強いのですね…!」
「って感心してる場合じゃないよ!私たちも援護しよう!」
「うん!藤野さん!そこから離れて!この一撃を矢に込めて…当たれっ!」
「グワァッ!」
「お見事です春日先輩!藤野先輩は必殺技を放ってください!」
「この杖で必殺技かい?やってみるよ!」
「オノレ…チクショウ…!」
「君のその心の闇…今すぐに振り払ってあげるよ!五月雨豪烈打!」
「アア…アメガ…イヤシテイク…!」
杖を大きく回転させ、雨雲を生み出してから魔物を目掛けて殴打し、同時に雨も降り注いでその雨で浄化して魂となり、元の男の子の胸の中へ戻っていった。
男の子が目を覚ますと、何か吹っ切れたような目をしていて、何が起こったのかわからないのか少しだけパニックになっていた。
私はあの男の子に歩み寄り、彼の目線で話しかける。
「大丈夫かい?君は随分うなされていたけれど…?」
「ああ…何だか、悪い夢を見てたような…。俺は…確か女の子をナンパしてて…。不気味な呪文が聞こえてから…そこから記憶がないや…。」
「やはりそうか…。君は何故、そこまで異性に執着するんだい?」
「……。俺は…元々こんなスマートな体型じゃなかったんだ。本当は凄く太っててさ、豚のように扱われて、女子たちは俺を避けていったんだ。だから見返すために必死にトレーニングをして、ようやく好きな人に振り向いてもらうって思った矢先だった。豚は痩せても豚のままだって結局フラれ、そこから結局女子全員にいじめられたんだ。そしてそのまま高校に入学し、新たな一歩…と思ったんだけどね…。結局噂が広がりすぎて女子にモテず、友達はみんな彼女が出来て焦ったんだ。そうなるとやっぱり…自分を認めたくないんだろうね…。」
「そうだったんだね…。君はモテるために、振り向いてもらうために必死に努力し、それでも認めてもらえなかったんだね…。本当にどれだけ頑張り、時間を費やしてきたのか、私には想像できないよ。今までずっと辛かったね…。だが君をここまで追いやった女の子たちが私は許せないよ。人間の美しさは姿や形だけではないって事を君も含め気付いていない様だね。」
「姿や形だけじゃない…?どういう事だ?」
「最も美しさを際立たせるのは心さ。心が美しくなければ、どんなに姿や形が美しくてもザイマ一族と同じさ。残念ながら人々はその心の美しさをいつしか忘れ、見た目だけに目が行ってしまうのだろう。本当に残念だ…。しかし君は心の美しさを取り戻した、それだけでも美しいじゃないか。自分に自信を持てとは言わないけれど、もう他人と比較しすぎて自分を卑下し、相手を思いやる心を失ってはいけないよ。」
「そうだな…君のおかげで目が覚めたよ。ナンパは続けると思うけど、もう少し相手の目線で声をかけてみるよ。自分の魅力に気付いてもらうために、自分を磨くよ。」
「そうだね、私ももっと自分を磨かないとね。」
「君って…下手な男よりもカッコいいよ。」
「ふふ、よく言われるさ。それじゃあ私はここで。清水寺を楽しんでくるんだよ。」
「うん!」
こうして私は妖魔使いに選ばれ、春日さんたちに一歩近づけた。
私は男性的なところがあり、どうしても同性の友達が出来ず、ファンが出来るのは嬉しいが友達が欲しかった。
そしてそれが災いして異性からもアプローチがなく、恋愛というものにまったく縁がなかった。
だがこのオーディションを受けて以降、私は少しずつ変われるのかもしれない。
あの事件から翌日、日向さんたちが声をかけてきた。
「藤野さんカッコよかったよ!私たち3人でも勝てなかったのに!」
「あの男の子…強かったね。」
「うん。どうやら元々はダイエットして好きだった子に振り向いてもらうために鍛えていたみたいなんだ。だから魔物になった時に強かったのかもしれないよ。」
「それを藤野先輩は互角に戦い、浄化することが出来ました。忍術をやっている私ですが、実戦はまだまだ慣れていないので今後先輩に教わりたいです。」
「そう謙遜する事はないさ。時代劇の殺陣と実戦はやはり違う感覚だよ。ただどうしても…みんなを守りたかったんだ。」
「藤野さん…!」
「ねぇ、同じクラスって事はさ。私たちの同級生だよね?藤野さんじゃあ堅苦しいから、すみれって呼んでもいい?」
「すみれ…か…。」
「あっ…ごめんね。ひまわりちゃん、ちょっと遠慮がないところあるから!」
「いや、いいんだ。みんな藤野さんとか、すみれ様とは呼ぶけど…すみれって呼び捨てにされたことは、両親以外居なかったなって思っただけさ。それに…念願だった友達みたいで嬉しいんだ。」
「ええ~!何言ってるの?私たち3人は学校の同級生で、アイドルグループの仲間だから、今更友達じゃないなんて言わせないよ!?」
「そうか…なら私からも、みんなを名前で呼んでもいいかな?」
「うん!すみれちゃん!」
「では私は…すみれ先輩と呼ばせていただきます。」
「うん、もみじさんは下級生だったね。よろしくね、はな、ひまわり、そしてもみじさん。」
「うん!」 「はい!」
こうして私は今までファンクラブの子たちや幼い頃一緒に遊んでいた異性の友達以外で友達が出来た。
振り返ってみれば同性の子たちはいつも私を王子様のように扱い、もしかしたら私が友達と思い込んでいなかったのかもしれない。
この経験を機に、ファンクラブの子たちにも友達として接してみようと私は決心した。
そしてさらに…私たちにとって重大な発表が花柳先生から伝えられた。
「さて、そなたたちに重大発表だ。この夏に平安館大学系列の平安館小学校で盆踊りがある。その盆踊りのオリジナル曲でそなたたちはデビューすることになる。ご当地アイドルとして第一歩という事だ。」
「では盆踊りでデビューし、縁日でお披露目会という事ですか?」
「その通りだ冬野。そなたたちは某の期待のアイドルたちだ。よくここまで厳しい稽古を積み、プロにも負けぬ実力を得た。だが生憎知名度が低くてな、最初に地元で有名になってもらう。ここからが本当の勝負時だ。各々気を緩めぬようにな。」
「はい!先生!」
夏の縁日曲でデビューが決まり、私たち月光花も地元で活躍の場を与えられる。
花柳先生が私たちに期待をしている以上、その期待を簡単に裏切ってはならない。
妖魔使いとアイドル、その二足の草鞋ではあるが、全力で両立してみせよう。
つづく!




