第81話 夏が始まる
6月の梅雨が明けて7月になり、京都はいつものように灼熱の暑さとなった。
私たち女学校も中高共通の竹をイメージしたミニ浴衣衣装の夏服に衣替えをする。
そんな中、私たちは思いもよらないオファーが来た。
「ええっ!?私たちがチアガール!?」
「お願い!今年こそ野球部は夏の甲子園に出たいんだ!」
「そこで京都の英雄でアイドルの月光花のみんなに応援団長を頼みたいんだ!」
「む、無理ですよ…!私たちにもアイドルの仕事がありますし…花柳先生から許可をもらわないと…。」
「花柳先生かぁ…。あの人は厳しいイメージがあるからなぁ…。」
「それに春日さんも困ってるしなぁ…。稲田も1年でレギュラー入り果たしたってのになぁ…。」
「うう…そう言われても困ります…。」
私は今、応援指導部のリーダーと野球部のキャプテンにチアガールをお願いされている。
今までは応援指導部の女子部員がチアガールやっていたけれど、今回ばかりはるり先輩も最後の年で、月光花が在籍する最後の機会になる。
そこで月光花が全員いる内に甲子園に出場する勝利の女神になってほしいと懇願された。
婚約者の稲田くんは外野で即戦力としてレギュラーに抜擢され、私も断りにくくなってしまった。
ちなみに…他のみんなも同じ答えで、花柳先生の許可が必要になっている。
そこで私たちは花柳先生に相談をする。
「なるほど…月光花が平安館女学校にいる内に野球部の勝利の女神として応援団長を務めよと言うのだな。」
「はい…私たちもどう答えればいいのかわからなくて…。」
「確かにるりは高校3年生で最後の年になるけど…。」
「それに親同士の決めつけとはいえ、はなの婚約者もレギュラーになったしね…。」
「わかった…。平安館学院野球部の応援団長を引き受ける許可をする。ただし、芸能界の仕事が優先であること。熱中症の危険があれば即座に某が中断させること。応援に参加するのは準決勝以降であること。絶対に甲子園に出場し優勝を目指すことが条件だと伝えてもらう。」
「いいんですか!?」
「某の母校でもある平安館学院の応援団長を務めるとは光栄な事だ。それに月光花を広めるチャンスでもある。そなたたちが勝利の女神になる事を願う。」
「ありがとうございます!」
こうして花柳先生の許可が下り、応援指導部と野球部は大喜びした。
そして厳しい条件を課したにもかかわらず野球部は勝つことを前提で練習に励んだ。
負ける事を考えている暇はないと監督さんも語り、本気で夏を制する気だとわかった。
そして高校野球京都府予選決勝戦が行われる。
「チア衣装はやっぱりミニ浴衣なんだね。」
「それにポンポンの代わりに扇子とは考えたわね。」
「ブラスバンドもオリジナル曲中心で和の雰囲気に合わせた曲目ですね。」
「応援指導部の人も黒い袴衣装に白いハチマキとたすき掛けで気合い十分でございます。」
「だがまさかそれぞれのイメージカラーに合わせた衣装とはな。」
「ほら!稲田くんがノック受けてるよ!声かけてあげて!」
「恥ずかしいよ…。」
「すみません花柳先生。わざわざ応援に駆けつけてくださって。」
「問題ない。母校の活躍を見守るのもOBの仕事だ。応援指導部のリーダーとブラスバンド、そしてチアの皆が先導し、月光花が盛り上げるのを期待している。」
「あざっす!」
高校野球のルールは西暦の頃からだいぶ変わり、地方予選と甲子園本戦で人数が18人から26人に、ユニフォームは変わらないけれどスパイクやベルト、キャッチャー防具にヘルメット、グローブの規制が全部解禁され、よりカラフルで学校の個性があふれるデザインになっていった。
さらにリストバンドやサングラスなどのアクセサリーも許され、新興学校の場合はシャツやストッキング、帽子にも黄色やオレンジ、ピンクなど個性的なデザインになっていた。
このルール改正には東の名門でライバルの東光学園の監督さんが若い頃に連盟に頭を下げて通したらしい。
決勝の相手は同じく京都の野球部強豪校の比叡山学園高校になる。
平安館学院のユニフォームは白地に漢字で紫色の平安館と書かれたユニフォーム、帽子もストッキングも
紫だけどベルトとスパイクだけ黒で統一されている。
帽子には平安館の平の一文字が銀閣寺シルバーで刺繍されていて京都らしいユニフォームとなっている。
そして試合が開始され、平安館大学野球部の攻撃ファンファーレである初陣が演奏された。
「プレイボール!」
「平安館名物!初陣んんんんんんっ!」
西暦時代には禁止されていた和太鼓を勇ましく叩き、法螺貝を吹く姿は戦国時代の戦の開戦をイメージさせて会場は歓声に包まれた。
今は自治体と近隣住民に許可があれば和太鼓も許され、和太鼓という平安館のバンカラスタイルを維持できた。
ただ和太鼓の出番は初陣と7回に演奏する応援歌、そして勝利後の校歌のみでそれ以外は普通のバスドラムになる。
試合の様子は投手戦になっていて、9回までお互いにノーヒットとなっていた。
「さて…そろそろ某が作詞し、妻のお千代が作曲した例の曲を流そうではないか。」
「あれですね、旦那さま。応援指導部の皆さん、準備はよろしくて?」
「うす!新応援歌!よぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉうい!そーれっ!」
新応援歌である月光花は私たちをイメージし、月の光浴びた花が影となりて咲き誇るという日進月歩を表していた。
勇ましくて怪しくもどこか応援したくなって周りを巻き込むコール&レスポンスもある曲だ。
この曲が始まると観客のみんなを味方につけ、魔曲として一気に7点も取った。
そして…
「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!」
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「勝った!勝ったよ!」
「行くぜ甲子園!」
「校歌!斉唱ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
効果斉唱を行い、野球部員が私たちのいるアルプススタンドに一礼し、私たちに感謝の言葉を叫んだ。
私たちも新曲効果もあって感動し、甲子園おめでとうと伝えた。
稲田くんは満面の笑みで私に遠距離でグータッチをし、私は赤面しながらグータッチを返す。
閉会式が終わり、私たちはこれからそれぞれ京都で仕事に向かう。
翌日には平安館学院に7人の勝利の女神が舞い降りたと記事になり、すっかり京都どころか西日本で有名人になっていった。
つづく!




