第7話 時代劇
~藤野すみれside~
私は父である藤野源次と共に、時代劇の「一心弥助」で弥助を演じる父を見学する。
だが監督のご厚意で私も出演することになり、弥助の最後の弟子役を演じる事になった。
弥助の最後の弟子である林藤小春という武術の達人の娘として演じるが、慣れない撮影で少しばかり苦戦を強いられた。
「カット!すみれちゃん、やっぱりデビューしたてだから緊張しているかな?」
「すみません。もう一度お願いします。」
「うーん…あんまり追い込みすぎるとケガするし、少しだけ休憩しよう!さぁ、水分補給をして!最近京都は暑いからね!」
「はい!」
「ふぅ…。」
「すみれ、アイドルデビューしてから調子はどうだ?」
「父さん、実はまだ実感が湧かなくてね。私みたいな男性に間違われる人がまさかアイドルをやるなんて思わなかったよ。」
「確かに女学校でも女子生徒しかいないのにファンクラブまで出来ていたね。ファンクラブの子が俺にすみれをアイドルにしてさらに華やかにさせるよう、推薦してくださいって言われたときは驚いたよ。」
「ふふふ、そんな事があったんだね。私もあの子たちの期待に応えないといけないね。」
「うん、それはそうだ。だからって肩に力が入っていると、殺陣が決まっても見栄えがよくないからね。父さんに相談があったらいつでも相談していいんだよ。」
「わかった。」
「休憩終わりです!そろそろ準備してください!」
「おっと、もう終わりか!それじゃあすみれ、行こう!」
「はい。」
不思議な事に私は同じ女の子なのに、同じ学校の女の子に何故か人気があり、街を歩いていても見慣れない女の子を魅了してしまう。
私の見た目が中性的で背も高く、少しばかり筋肉もつき、声も低い。
さらに困った人を放っておけない性格もあってか、ファンクラブまで出来ている。
それにファンクラブの推薦があったとはいえ、元々時代劇は大分古いコンテンツ扱いされていて、私自身も時代劇がテレビから消えてしまうのではないかと少しばかり気になっていた。
オーディションに応募して時代劇の新たな可能性を見つけるんだと意気込んでいたところ、ファンクラブの子たちが父さんに推薦をしていて、何かの運命なのか花柳先生の下でアイドルという形でデビューすることになった。
そんなファンクラブの子たちの期待に応えたい、その気持ちがいつしか焦りへと変わっていたのだろう。
私は平常心を保つように深呼吸をし、もう一度リハーサルに臨んだ。
「はいOKです!すみれちゃん、やれば出来るじゃないか!やっぱりカッコいいねぇ、源次さんの娘さんは!」
「ははは、自慢の娘ですよ。しかしここだけの話だけど…妻が男の子が欲しいって聞かなくて、妻の育て方が男の子っぽくさせたのではないかって思ってね。だから時代劇俳優ではなく、アイドルとして応募させたんだ。」
「あー、確かにお父さんとしては女の子らしくしてほしかった感じかな?」
「まぁ…そんなとこっスね。ただすみれ自身が生き方を決めないと、親としては見守りたいがあまり縛ってもいい道を歩む事は出来ないからね。」
「深い考えだねぇ、源次さんは。さぁ、そろそろ撤収の時間だ。源次さんは車なんだろう?すみれちゃんを送ってあげなさい。」
「了解。すみれ、父さんと一緒に帰ろう。」
「うん、父さんと共演出来て貴重な体験だった。監督も私を出演させてくれてありがとうございます。」
「いいのよ、アイドル頑張ってね!」
こうして父さんの車に乗せてもらい、帰る前に寄り道で京都パープルサンバVSヴェルディ調布の試合を観に行く。
私は京都パープルサンバのかつての栄光を目にしてからずっと応援し、セカンドリーグ落ちしてもいつかファーストリーグへ上がる事を期待している。
車の中で早速パープルサンバのレプリカへと着替え、スタジアムに入る準備を進めた。
~清水寺周辺~
「ヘイ彼女!俺とデートしませんか?」
「あの…急いでいるので!ごめんなさい!」
「そんな事言わずにね?俺と一緒に遊ばな~い?」
「失礼します!彼氏が待っているので!」
「仕方ねぇな…ヤるか!」
「へへへ、獄魔の力を感じるぜ。性の欲望と自己中な心を解き放て!」
「うぐっ…!」
~スタジアム前~
「何だ…?この邪悪な気配は…!?」
「わからない…とりあえずスタジアムは中止だ!家に帰ろう!」
突然空が真っ暗になり、黒い霧に覆われて視界が見えなくなった。
一体何が起こったのかはわからないが、あの人妖神社の炎上と同じ光景だったのは覚えている。
ということは何か京都に災いが起こるのだろうか…?
車窓を眺めていると、道路を走っている春日さんと日向さん、そして紅葉さんが見えた。
私は仲間が何か危険な行動をしているのではないかと察し、車からすぐに降りて向かった。
「待つんだすみれ!今この状況は…」
「父さん!すまないが友達があっちへ向かったんだ!私が止めに入るから先に帰っててほしい!」
「友達が…?わかった!でも無茶はしないでな!」
春日さんたちは黒い霧の発生源まで走り去り、私は後を追うように走った。
発生源は方向からすると清水寺周囲で、近づくほど頭が痛くなりそうだった。
その発生源にたどり着くと、甲冑を着た魔物が刀を構えて女の子たちを襲っていた。
「カノジョ…ホシイ…!モテナイカラ…チカラヅクデモ…ホシイ…!」
「あれが罪魔の力を得た獄魔ですね!」
「女の子を襲うなんて最低!」
「みんなを助けよう!いくよ!」
「うん!」 「はい!」
「闇に潜む黒き影よ…我に力を与えよ!妖魔変化!」
春日さんたちは懐から篠笛を怪しく吹き、黒い霧に包まれて何かの戦闘衣装へと着替えていた。
一瞬の事で何が起こったのかわからなかったが、冷静に考えるとこの京都に何かの災いが起こり、彼女たちはその災いに立ち向かっているのだろう。
しかし魔物は彼女たちを見ると、挙動不審になりつつも真っ直ぐに身体を触ろうとし、みんなは恐れるように固まってしまった。
私にはみんなを助けられるような力はないが、どうしても仲間であるみんなを助けたかった。
恐怖に襲われつつも、私は深呼吸をして魔物の方へ走る。
「オンナ…ニクイ…!オンナ…イツモサケル…!カオダケデ…キラウナラ…ゴウインニデモ…ダイテヤル!」
「待つんだ!君はそんなに彼女が欲しいのかい?しかし彼女が出来たら何をするんだい?」
「ナンダキサマ…!イマカラオソウ…!オトコハタチサレ…!」
「生憎だが私は女なんだ。見た目が男っぽくてビックリしたかい?君は今までモテなくて、誰かに比較されて生きてきて、よほど焦っているのだろう。だがそれではまた女性に嫌われ、本末転倒になるよ。君はもしかして学生なのかい?だとしたら、まだ可能性はいくらでもある。だから彼女たちを…仲間を襲うのはやめてもらうよ!」
「藤野さん…まさか…!」
「藤野さん!その篠笛を吹いて変身して!」
「君たちがやっていたことをすればいいんだね!わかった!闇に潜む黒き影よ…我に力を与えよ!妖魔変化!」
強い気持ちで口説いていると、体から黒い霧が発生し、胸から魂が抜けるように篠笛が出てきて、私に守るために戦えと使命を託されたようだった。
妖魔変化を唱えると、霧がまた体中を包み込み、レプリカユニフォームを着ていたはずがいつの間にか服装が変わっていた。
胸にさらしが巻かれ、藤色の法被を着て、下には黒い裁付袴で両手には杖という六尺棒が装備された。
名乗りがふと浮かんできたので、私は凛々しく名乗りを叫ぶ。
「時雨に咲き誇ることスミレのごとく!藤野すみれ!私が君を罪魔の力から救ってみせるよ!」
つづく!




