第77話 英雄
~日向ひまわりside~
私は幼い頃からはなの実家に通っていて、毎日はなの巫女としての修行を見守っていた。
その中に霊魂転生術も含まれていて、書物にはこの術を使う時が来たらそれはザイマ一族が攻めて来た時であり、この術を使い京都を災いから京守り抜けよと書かれていた。
はなは直系の子孫としてずっと修行をしたけれど、まだ自分のモノに出来なかった。
だからあの時幼かった私は好奇心で倉庫へ忍び込み、その書物をこっそり読んでは独自に修行をしていた。
もちろん私も習得することが出来なかった。
そう…これは一か八かの最終手段である。
「霊魂転生術…英雄召喚!」
「そ、その術は…!ひまわりちゃん…どうしてその術を…!?」
「ごめんね、はな…。最初は幼い頃の好奇心から始まったけれど、今ははなだけに負担を賭けたくない一心でずっと修行を続けていたんだ。これは最後の抵抗で一か八かのギャンブルだよ。やっぱり私…どんなにアクドーが強くても諦めたくない。この平和な京都が大好きなんだって今更気付いたんだ。だから…この術を借りるね!」
「ひまわりちゃん…!あれ…意識が…」
「ううっ…」
「ふはははは!最後の抵抗とやらも失敗に終わったか!これで妖魔使い共は…否、まだ死んではおらぬな…。意識こそ失えどまだ生きておる…。念のために警戒しておこう…。」
最期の抵抗のはずが私たち8人は意識を完全に失い、一瞬私たちは一か八かの賭けに失敗して死んでしまったのではないかと不安になった。
しかしまだ心臓が動いている感覚もあり、みんなやアクドーの声も聞こえわずかに地面の冷たい温度を感じたので死んではいないと安心した。
私たちは意識の中の、いわば精神の世界に入り込み不思議な事に身体も心も軽くなっていた。
「ここは…どこなのでございますか…?」
「不思議ね…何だか安心するの…。」
「私たちは黄泉の国…霊界に来てしまったのだろう。」
「ですが死んでしまったという感じではないですね…。」
「君たちが現代の妖魔使いなのかい?」
「その声は…!?パパ…パパなの!?」
「え…?じゃああの声は…妖魔大王さん?」
「その声は…愛しい我が子のヒメギクか。まさかお前まで妖魔使いになるとはな。ワシもその瞬間まで生きてみたかった。」
「パパ!どこにいるの!?早く会いたいよ…!」
「ワシは実態を失い、もはや魂だけの存在となっている。故にお前に会う事は不可能だ。それに…霊魂転生術・英雄召喚を使った者がここにおる。まさか神をも恐れぬ最高妖魔術を使いこなす者が現れようとはな。ワシが殺されたことでアクドーの進出を許し、人間と妖怪たちの絆をもう一度壊されかけた事を謝罪しよう、現代の妖魔使いよ。」
「いいえ…あの事件があってから確かに辛くて苦しい事が続きました。それでもヒメギクに出会い、みんなと共に過ごし、アクドーの能力をはねのけて人間と妖怪の絆が固く結ばれていることを実感できました。あなたの活躍と勇気ある決断と行動で今の私たちがいるんです。だからあなたには感謝してもしきれません。」
「そうか…ヒメギクはいいお友達に恵まれたようだな。」
妖魔大王さまは威厳があって禍々しくも優しく包み込むような低い声で、彼も元々は人間だったと実感した。
妖魔大王さまは自ら禁術を使って先代妖魔大王を召喚し、人間をやめてまでこの京都をザイマ一族の災いから救い、人間に迫害されながらも最後は英雄として祀られ妖魔大王を襲名した。
それから先代の娘と結婚し、ヒメギクを授かった事も話してくれた。
あれから妖魔界と人間界は繋がり、人妖神社が架け橋となって行き来できるようになった。
それが妖魔大王さまの過去であり、神話の英雄視点だった。
妖魔大王さまの魂が目の前に現れ、突然黄金に輝きはじめた。
「君たちには多大なる感謝を込め、ワシの最後の力をここに授けよう。そしてワシの魂は君たちと同化する事になる。いわばワシの魂はここで消滅し、君たちの一部となるのだ。アクドーの弱点は…ワシの妖魔の力である罪深き魂を鎮める能力だ。ワシの大太刀をヒメギクは持っているな。」
「うん…!花柳さんがずっと大事に持っててくれたんだ。」
「その刀には罪深き魂を鎮め、悪しき精神を浄化する能力がある。その大太刀を使いアクドーの胸部に斬りつけるのだ。アクドー討伐はヒメギク…お前にかかっている。お前にその覚悟はあるか…?」
「パパとここでお別れは嫌だけど…ここでわがまま言ってもうみんなと幸せな時間を過ごせないのはもっと嫌だ…。パパ…あなたとのお別れを受け入れ、アクドー討伐の最後の希望になる!だから力を貸して…パパ!」
「わかった。お前の覚悟、しかと受け取ったぞ。現代の妖魔使いよ、君たちにもワシの力を受け継いでもらおう。君たちの妖魔の力と同化し、魂を鎮める能力を授ける。さぁ行きなさい…君たちの帰りを待っている人々がいるのだから。」
「妖魔大王さま!私たちは…絶対に京都を救います!」
「うむ!では…さらばだ!」
黄金の光はさらにまばゆく輝き、私たちの身体と精神を包み込んだ。
ヒメギクはお父さんとのお別れに涙を流しつつも、本来の目的を見失わず前を向いて涙を拭いた。
妖魔大王さまってこんなに強くて優しくてカッコいいんだなって実感した。
そして私たちは意識を取り戻し、身体がとても軽くなり力がみなぎってきた。
私たちは黒い闇の霧と黄金の光に包まれ、無限のパワーが溢れた。
「何だ…この忌々しい魔力は…!」
「アクドー…あなたがどれだけ苦しみ、孤独に戦ってきたかを想像するだけで胸が痛むよ…。」
「予言を聞いてから不安だったよね…。今まで一人で抱え込んで辛かったんだよね…。」
「でももう大丈夫です…。あなたの苦しみはここで終止符を打ちます…。」
「何が言いたいのだ…!?貴様らはどうして我に…我にまだ逆らおうとするのだ!」
「永遠の地獄を味わい、いつしか人間を滅ぼす使命に追われ、そして人間をやめた…そうだね?」
「お前もまた…弱き人間であり、本当はこんな事になるはずじゃなかったと思っているはずだろう…。」
「あなたは現実に絶望し、そして悪の道に臆してしまったのね…。」
「だからこそ彼は…妖魔大王さまは逃げずに立ち向かい、今もあなたに救いを求めたのでございます…。」
「パパはあなたの不幸を憂いていたんだよ…?だからもう…これ以上罪を重ねないで…?」
「か…春日ぁぁぁぁぁぁ!この力は…そうか…何で我に殺された分際で死んでまで我の邪魔をするんだ!貴様はいつもそうだ!我の心を読んだつもりでいるのか!神の声をすべて否定するとでも言うのか!」
「あなたの気持ちはわからなくもないよ…。だからこそ…あなたを倒し、京都に平和を取り戻し…もう二度とあなたのように苦しむ人間を生み出さないようにするんだっ!!」
「この…ガキ共がぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
私たちはアクドーの苦しみを理解し、魂を浄化して沈めて罪を重ねないようにしようと心から受け入れる準備をした。
ところがアクドーはわかっていてもわかりたくなかったのか、現実を見すぎたせいで目を逸らし、いつまでも自分の中の地獄でもがき苦しんでいた。
そしてアクドーの触れてはいけないところに触れたせいかアクドーは激昂し、結界が壊れようがもう知らないのか自棄になって暴れ回った。
ここからが正念場で、神話の終焉を迎えるときが来た。
つづく!




