第72話 アクドーとの死闘
日付は気が付けば2月を迎えたものの、私たちには冬休みも安楽の時もない。
今の私たちは京都を荒し、人間を滅ぼして理想の極楽浄土にしようとしているザイマ一族の将軍であるアクドーと戦っている。
世界中の罪魔の力を得たアクドーはスキンヘッドで衰弱しているガリガリに痩せた体から筋肉質で今にも襲い掛かりそうなほどたくましくなっていった。
アクドーは軍配を地獄に捧げ出し、地獄の雷となって大きな刀が二つ現れた。
「ついに我も完全体となり、貴様ら妖魔使いも万全の状態となった。これで正々堂々とどちらの理念が正しいか勝負が出来る。罪深き人間の味方をする下等生物と…人間を滅ぼして理想の世界を創る新世界の神との戦だ。忌々しき子孫の名は花柳小次郎と申したな…。奴の妖魔の力は大きなものだった。忌々しい春日家も大したものだが、彼はそれ以上だ。ザイマ一族として生まれていればもっとよい結果を残しただろう。」
「ふざけないで…。花柳先生を悪の道へと引きずり込もうとしないで!彼は…私たち月光花をここまで導き、成長を見守ってくださった恩師なのよ!あなたの血を受け継いでいようと、あなたのような悪魔に魂なんて売らないわ!」
「だろうな。奴はまだ意識を失っているのだったな。ならば奴の事など気にせずにかかってくるのだ。いずれ奴も殺して貴様らも滅ぼすのだからな。それとも…先に地獄で待っているか?」
「そんなことさせない!せっかくパパが人間をやめてまで築き上げた世界を…簡単に地獄に変えないで!パパの仇でありながら…花柳さんまで葬るなら私も容赦しない!」
「ならばそれを証明してみせよ。我ならいつでも準備が出来ているぞ。」
「望むところだっ!覚悟っ!」
「待ってヒメギク!あいつの挑発に乗ったら…」
「止めないでひまわりさん!あいつは…あいつだけは私が!」
「かかったな…妖魔大王の娘といえど、心はまだ未熟な餓鬼だな。ふんっ!」
「きゃあっ!」
「ヒメギクちゃん!」
アクドーの挑発に乗ってしまったヒメギクちゃんは、刀を構えるまでもなく素手の真空波だけで吹き飛ばし、すみれちゃん以上のパワーを誇るヒメギクちゃんでさえ軽々と飛ばされていった。
幸いウォーミングアップ程度の力だったので傷こそ浅いけれど、それでも大ダメージを負うほどの威力だった。
私が矢を放って牽制するも、目を閉じてもなお矢をあっさりと切り落とした。
人間への憎悪と極楽浄土への執念がアクドーの罪魔の力を膨大にさせていることがすぐにわかった。
「やはり人間は己より強き者に遭遇すると恐怖で震えるようだな。弱き下等生物とはいつの世も弱き物よ。さて…他の者はもう来ないのか?ならばこちらから来るぞ…!」
「うわっ!」
「素早いっ…!」
「それに何というパワーだ…!」
「これでは妖怪の能力も追いつかないでございます…!」
「怯むな!私たちの希望はこの程度では壊れはしない!」
「ここで諦めたら花柳先生も…私の家族もやられっぱなしになっちゃう!私たちはそんなみんなの勇気を背負っているんだよ!そう簡単に負けたくない!」
「春日家の小娘が何を言うのかね。弱き物はいつの世も弱い。弱者らしく這いつくばって傷の舐め合いをしていればよいのだ。春日家の小娘を葬れば人間の最後の希望も潰え、妖怪たちを繋ぐ者がいなくなればもう一度人妖戦争が起き、人間が滅び理想の極楽浄土の世界になるのだ。それなのに…何故妖怪共は我の考えに賛同せず共に歩む道を選んだのだ。その妖怪たちも同罪だ、ここで滅ぼしてくれよう。」
「そうかい…なら君を好き放題させるわけにはいかないね。私には…小さい頃から正体を隠してまで同じサッカーのチームを応援してくれたおじさんがいたんだ。そのおじさんの正体は妖怪でね、ザイマ一族との戦いの最中に正体を教えてくれたんだ。その絆を壊し、嘲笑って同罪と決めつけて粛清しようというのなら…私の堪忍袋の緒が切れても問題がないよね…?」
「すみれ…。あの温厚なすみれが本気で怒りを露わにするとはな。確かに私たちが今まで接してきた恩師や友人の中には妖怪たちもいるだろう。そんな彼らと築き上げた絆をこうも簡単に壊されては私も我慢ならないな。この京都を守る事は、人間の歴史を守る事と同義と見た。皆と共にこの京都と…人間と妖怪の将来のために戦うぞ!」
「リーダーの私を差し置いてカッコつけちゃって…。でも私もみんなと同感だわ!みんなが頑張っているのに、リーダーの私が頑張らないわけにはいかないでしょ!年配の方から将来有望な子たちまでの命を奪って、私利私欲のために破壊するなんてそんなの許さないわ!そういえばあなたは妻子に捨てられて悪魔になったと聞いたわ。何故その様な卑劣な真似を…?」
「ほう…そのような事実を知っていたとはな。呪われたサイコパスの子だと思われたら私たちまで変に思われるから近づかないでと言っていた。我が障碍愛すると誓ったのにも関わらずだ…。我の苦しみの何も知らない現代人に我のなにがわかるというのだ!何も知らない分際で我の事を語ろうなど一万年早いわ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
アクドーはわかば先輩の言葉が気に入らなかったのかまるで沸騰したように激昂しはじめ、一本の刀を首元目がけて私たち8人を斬りかかった。
怒りの逆鱗に触れてしまった私たちはギリギリのところで私に宿っている座敷童の能力で悪運のよさを使い、切り傷こそ負ったもののかわすことが出来た。
アクドーは息切れを起こしつつも深呼吸をして一度落ち着かせ、刀の刀身を足元に下ろしてこう言った。
「まぁよい…貴様らは遠い未来の人間だ。知らぬのも無理はなかろう。いいだろう…我の味わった屈辱の歴史を貴様らに特別に話してやろう。この現代では神話と言われているが、そんな大それたものではない。我が味わった苦しみを貴様らにも体験してもらおう…。」
「何ですって…!?」
「我が悪魔と契約を交わし、悪魔となる前…ちょうどこの日の2038年前の出来事だ。西暦2021年、西暦最後の10年間の時代だ。我は生まれた瞬間に夢を見たのだ。否、予言というべきであろうか。このまま人間が生き続ければ世界は破滅の道を進むであろうと、女神のような女性の予言を聞いて生まれたのだ。それ故に我は幼い頃からそれを問い続けた家族や親戚に迫害され、どんなに優秀な成績を収めても認めてもらう事はなかったのだ。誰も我の考えや意見を聞くこともなく、ただただ邪険にされていた。この世の真理は人間がいるから全ての問題は解決しないと口説けば皆は我を異常者だと罵り続けたのだ。我はテレビやネットを見る度に事件が頻繁に起こり、ついに第3次世界大戦まで開戦し、毎日人間たちの行いや欲望、行動のせいで世界が滅ぶと憂いていただけなのに…。」
「その予言を言った女性はなんと申しましたでございますか…?」
「貴様らが死に際に接したときに教えてしんぜよう。今は我の過去を聞くことに専念するがいい。あれは我が18の時であった…」
アクドーは私たちを悲しそうな目で見つめ、天を仰ぐように見上げながら過去を語っていった。
一体なぜ人間をそこまで憎み恨み、そして滅ぼそうとするのか。
そして神話の真実は何なのかをその時代を生きてきた元人間であるアクドーが語ろうとする。
私たちが知っている神話とは違う事を知らない私たちは、この後に本当に戦っていいのかを迷ったとは私たちは知る由もなかった。
つづく!




