第70話 四男ドクロスケ
~冬野つばきside~
裁きの鏡に入った私と、ザイマ一族の幹部で四男のドクロスケは膠着状態が続いている。
奴の素早すぎる動きに翻弄されつつ、精神統一を何度も続けてきたので呑まれすぎないように深呼吸で心を落ち着かせる。
ドクロスケは鋭い爪で何度も引っ掻き回そうとしつつ、名前では信じられないが格闘戦を好み素手と足で攻撃を仕掛けてくるのだ。
「はぁ…はぁ…!貴様…どこからその様な体力があるのだ…!」
「やっぱり人間って弱いッスねー。ちょっと動いただけでこんなにバテちゃって、なんだかハンデが必要になっちゃったッスねー。」
「黙れ!貴様に同情されるほど私はもう弱くはない!」
「強がったって無駄ッスよ。だって俺っち…悪魔だから疲れる事を知らないッス。人間みたいに力を勝手にセーブするいらない能力もないし、頭で整理しなければならないほど精神も不安定じゃないッス。お前も父ちゃんみたいに悪魔になればいろいろと楽ッスよ?」
「悪魔に魂を売るなど…。生憎だが私にはそんな腐った根性はないのでな。そのくらいならまたなぎなたをやれないまま苦しむ方がマシだ。」
「へへへっ、相当頑固な女ッスねー。じゃあこれでもどうだっ!」
「うわっ!!」
「遅いッス!もっと動くッス!」
「このままでは…いくらリーチのある薙刀でも奴の素早い動きでは捉えきれない…。もし目だけでなく五感全てを研ぎ澄ませて奴の動きを読める領域に達したのなら…。五感…だとすれば…!」
「おやおやー?目を瞑っちゃってもう俺っちの動きを捉えるの諦めちゃったんスか?じゃあ遠慮なくお前をボコボコにしてやるッス!」
「見えたっ!そこだっ!!」
「ぐっ…!!何だとぉ…!?」
「貴様がどれだけ重力に逆らえるほど動けようとも、風を切る音と息の熱まではコントロール出来ないみたいだな。それにお前には少々獣のようなにおいも感じるのだ。名前こそドクロだが、もはや本能に従うままの獣にそっくりだ。」
「なるほど…目だけで判断するのをやめて五感すべてに頼ったって事ッスね…。これは一本取られたッス…。」
いくら悪魔のドクロスケでも動けば体温は上がり、息も上がるだろうし風を切る音は誤魔化しが効かない、さらにいえば奴の獣のような本能が表に出過ぎてにおいにまで反映されるほどだった。
学校でも普段は堅物そうだと言われているのだが、遅刻は絶対厳禁なほど校則が厳しいのに高齢者を助けた同級生が遅刻し、停学処分を下そうとしたところに助けたところを、私は目撃者として事情をすべて話し、その人が偶然初等部教頭の祖母だったことから同級生を助けた。
それが故に堅物そうなのに柔軟で冷静な対応が出来る、さらに言えば家庭科も成績優秀で将来は良妻賢母になるのではとささやかれてもいた。
だからこそ最善の判断が普段から出来るよう物事を偏った考えで生きず、柔軟かつ視野の広い客観的な視点で見れるのだ。
ドクロスケは先程の一撃でそれを察したのか、私に何か言いたそうにニヤリと笑い口説くようにこう言ったのだ。
「お前…欲望ってものがあるんスか?」
「欲望?そんなもの人間誰しもあるだろう。金持ちになりたい、あの人と恋人になりたい、好きな食べ物を食べたいなどな。」
「そんなちっぽけなモンじゃないッスよ。例えば…金持ちになるためなら家族をも犠牲にしてもいい、恋人を得るためなら友人をも利用する、好きな食べ物のために駄々をこねてでも迷惑かけてでも手に入れるなど…そういったものッスよ。」
「残念だが私はそこまでして手に入れるように悪どい行動はせん。貴様…何が言いたいのだ?」
「まだ気づかないッスね。じゃあお前がそうだとしても、他の人間共はどうッスかねー?」
「そう言えば…。」
「金のためなら盗んだり騙したりする。恋のためならライバルの悪評を流し自分が有利になるよう根回しする。欲しい物のためなら盗んだり泣いて駄々こねて親を困らせてでも手に入れようとする。それって欲望がないと出来ない事ッスよ。欲望があるからこそ人間は盗み、妬み、そして奪い合えるッス。その光景が俺っちには快感でたまらないッス。でも父ちゃんは人間は存在すべきではない下等生物だって言ってたけど、俺っちには人間ほど欲望に忠実な下等生物はいないし、興味深いほど醜いものはないッス。いっその事どうせ滅ぼすなら好き放題欲望通りにやってもらって、そこから人間自ら自滅してもいいかなーって思うッス。欲深い人間だからこそ、極楽浄土への道が近道になっていくッスよ。冬野つばきちゃん…お前ならわかってくれると思うッス。」
「確かに欲深い人間が多く、その欲望のためなら悪事をも働くな…。殺したり犯したいからやる…。欲しいから手段を選ばない…。うっ…頭が割れるように痛む…!」
「勝った…。どうやら効いたようッスね…。このまま動かず地獄に堕ちるッス!」
ドクロスケの言う通りに人間というのは欲深く、それが故に秩序を壊したり罪を重ねてきた。
西暦の頃から平和を意識してもなおまだ治安の改善はめどが立たず、欲望をいいことに活かそうとしない者も少なくなかった。
だがよく考えてみれば、その欲望は何も悪い事ではなく、欲があるからこそ家族を幸せにしたい、自分をもっと高めて世をよくしたい、自分の好きなものがいろんな人に知られたいなど様々ないいこともあった。
欲望にもいろんな種類があり、それを善とするか悪とするかはその人の人格に委ねられるが、私自身の欲は何かを考えてみた。
すると月光花の仲間たちと笑顔で世界中を回ってライブツアーをしたり、なぎなた部の先輩方ともう一度全国大会で戦ったりするビジョンが浮かんだ。
そのビジョンが浮かぶと私に大きな力を与え、ドクロスケの爪を薙刀で薙ぎ払った。
「何っ!?」
「貴様は欲望は悪しきもので人間はそうやって自己中心的に生きていると言っていたな…。」
「は?それがどうしたッスか?まさか綺麗事でも抜かすつもりッスか?」
「綺麗事か…確かに人間はみんな綺麗事を抜かす事もあるだろう。だがそれでも私は構わない。己の信じる欲望は叶えたい夢でもあり、自分や誰かの希望であり、未来へ進む第一歩なのだ。その欲望を悪しき道に踏み外せば貴様の言う通りになるが、道を誤らなければ欲望も案外悪いものでもないぞ。さぁ貴様の欲望をも受けてやるが、私の欲望も受けてみるがいい!」
「こいつ…本当に人間ッスか…!?いや…んな事はもうどうでもいいッスね!じゃあお前の欲望と父ちゃんの望む世界…どっちの方が正しい未来か試してやるッス!」
「望むところだ!もう一度かかって来い!」
つづく!




