第69話 力
オニゴローの人間への価値観の違いを認識した私は、杖をまた握りしめてもう一度体勢を整える。
オニゴローは見下しているはずの人間と一緒にされたことに激昂し、金砕棒を力任せに大きく振った。
しかしどうも様子がおかしく、私ではなく足元や目の前の岩場に八つ当たりしているようだった。
「クソがっ!人間と一緒にしたがっってぇぇぇっ!」
「何だろう…。何か裏がある気がするけど…不気味だから早く決着をつけよう。」
「ふざけるなっ!俺様が人間と一緒だとぉ!認めねぇ!認めてたまるかよぉぉぉっ!」
「これでもくらえっ!……っ!?何だ…この感じ…。」
「ふぅ…スッキリしたぜ。俺は激昂しやすくて理性を失うんでな。標的以外に八つ当たりする事で気を治めているんだ。まぁ…少々疲れちまうのが欠点だけどよ。だがこれで落ち着いてテメェを倒せるってもんだぜ。もう加減なしで…殺してやんよ!おらぁっ!」
「うわっ!!」
「ふんっ!人間にしては随分耐えるじゃねぇか。俺様を侮辱した罪は大きく支払ってもらうぜ…?覚悟しな下等生物!」
「そうかい…。侮辱したことは謝るよ。でも…君のやり方は自分を滅ぼすというのを気が付いてもらう必要があるね…。覚悟するといい!これでもくらえ!はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐふぅ…!」
「まだまだこんなものじゃないよ!人間の底力を君にも味わってもらうよ!」
「おのれ…人間の分際で!」
「力とは何なのかは私にも真実はわからない…。でもわかったところで道を踏み外せば、それは他人だけでなく自分をも滅ぼすんだ…。人間たちがそうしてきたように…君もそうやってきたのだろう。そんな奴に私は…絶対に負けないよ!」
「ええい!もうめんどくさいぜ!俺様のフルパワーを受けてみやがれ!地獄で苦しむ姿が楽しみだ!消えろぉぉぉぉぉぉぉ!」
「すぅ…はぁ…。いざ…参る!五月雨豪烈打!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
こうしてオニゴローは私の渾身の一撃を受け、オニゴローはそのままうつ伏せに倒れ込んだ。
金砕棒は大きくヒビが割れ、次第に粉々になっていった。
私も赤鬼や塗り壁の能力を受け継いでいなければ、もっと悪い結果になっていただろう。
オニゴローは往生際悪く無理矢理立ち上がり、私の顔に拳を向け始めた。
「この…クソがっ…!」
「そんな状態でまだ戦うのかい?もう君の力は限界を迎えているはずなのに。」
「うるせぇ…俺様は誰よりも強いんだ…。テメェのような下等生物に…やられるわけがない…!うらぁぁぁぁっ!」
「うっ…!」
「なっ…!何で避けねぇんだ…?手が…震える…!?」
「痛いだろう…?殴られた私は当然痛いが…拳で殴った君も痛いんだ。その心の痛みを知らない者に、本当の力を得られるわけがないんだ。力は身体的パワーだけではないんだよ。心の力がなければ、誰も守れないし自分をも傷つけてしまうだろう。今まで君は…武器や自分の力に溺れては痛みを知らずに傷つけてきたんだろうね…。」
「そうかよ…。そこまで理解していたのかよ…。親父はいつも…人間は力があればこうも他人を陥れ…自然や動物でさえいい様に扱う下等生物だ…。だからお前はその下等生物に痛いほどその屈辱を味合わせてやれって言われ育った…。俺様は…まだやり直せるのか…?」
「その気持ちがあれば…必ずやり直せるさ。」
「そうか…だが俺様がやり直すにはもう遅すぎる…。輪廻の世界で転生し…もう一度生まれ変わり…今度は誰も傷つけない圧倒的なパワーを身につけるぜ…。さぁやりな…俺様の胸に…思いきり叩きこめ…。」
「君の改心と学習意欲に敬意を込め…本気でいくよ…?」
「ああ…。」
私はオニゴローの胸に思いきり杖をぶつけ、オニゴローはそのまま吐血して灰となって朽ちていった。
力とは何なのかを少しだけ学べた気がしたし、きっとこの経験を糧に私はもっと心が強くなるだろう。
しばらくすると鏡の世界が崩壊しはじめ、私は吸い込まれるように鏡の世界から脱出した。
気が付くと目の前に縛られているはなとひまわり、ボロボロながらも勝利を収めたわかばともみじ、そしてるりもいた。
私は嬉しさのあまりに涙があふれ、その涙を強がるように拭ってみんなの元へ行く。
「すみれ!あの馬鹿力に勝ったんだ!」
「すみれ先輩のパワーだけでなく心の強さ…感動しました!」
「すみれさんは月光花一の力自慢でございますね!」
「ふふっ、大したパワーじゃないさ。みんなが見守ってくれたから力が湧いてきたんだ。約束を果たしたよ、はな。」
「うん…。本当によかった…!」
「あら、はなってばそれしか言ってないじゃない。」
「うふふっ。それは言えてますね、はな先輩。」
「だって…本当にうれしいんだもん…!」
「さぁアクドー!これで残るはあと一人だ!お前の好きにはさせないぞ!」
「オニゴローも倒したというのか…。あの馬鹿者は怪力だけは凄かった…。我をも超える怪力で人間を支配できると思ったのだが…まさか人間の底力はその怪力をも超えるというのか…?奴に力以外の事も教えてやればよかったのかもしれんな…。」
「アクドー、口ではそう言っているけど、心の中はどうかな?ひまわり!」
「うん!……読めない…!?相当な閉心術の使い手だよ…!」
「何ですって…!?」
「バカめ…我がそう簡単に心を開くと思うか…?サトリーヌに開心術と閉心術を教え、オニゴローにパワーの使い方を伝え、オロチマルに人間の弱さをどう利用するかを叩き込み、アマジャークに知力を植え付けたのは我だ…。」
「どうやら一筋縄ではいかないようでございますね…。」
「はな…つばきはどうかしら…?」
「大丈夫…つばき先輩は月光花で最も芯が強く、いろんな困難を乗り越えてきた凄い人だから…。」
「そうだね。つばきなら心配ないさ。はなと一緒に見守ろうじゃないか。」
「そうね…。同級生で仲がいいから不安になってたわ。ありがとう。」
残るはつばきと軽薄でスピード自慢のドクロスケとの戦いのみで、もう少しで全員揃うと思うと胸が高まってきた。
ボロボロになった私は少しだけ座り込み、戦いの後の休憩を取った。
つばきは名薙刀使いで本来ならどんな敵でも簡単に崩せるのだが、高速の動きをするドクロスケにやや苦戦しているようだった。
ドクロスケの軽薄な考えに翻弄されなければいいのだが…。
つづく!




